都心マンション駐車場が空いていない!? 管理と仲介のプロが実情を語り合う

  • XX
  • facebookfacebook
  • BingBing
  • LINELINE

マンションの駐車場には、不足や余剰、維持管理などさまざまな問題があります。仲介のプロとマンション管理のプロに、その実態と解決の糸口を聞きました。

――新築マンションの駐車場設置率は年々低下しており、2007年の首都圏新築分譲マンションでは77.3%だったものが、2017年には42.2%まで低下しています。なぜマンションの駐車場は減っているのでしょうか。

 

土屋輝之さん(以下、土屋):まず、日本人の車離れが理由として挙げられます。また、マンションの駐車場の設置率は駅からの距離と不可分な関係にあり、駅に近いマンションであれば設置率40%でも多すぎるくらいです。近年、マンションの供給数は減少し、供給エリアは総じて立地が良い場所になっていますから、駅近のマンションが増えたことも駐車場の設置率が低くなった理由のひとつだと思います。

 

自治体は駐車施設の附置率を定めていますが、車離れや住人の高齢化などで駐車場が余っているマンションが散見されることから、これも低下傾向にあります。マンションからの申し出により、附置率を緩和するような動きも見られます。

 

――稲垣さんはご自身が代表を務める不動産会社で、駐車場の空き状況から物件を探せる「ハイルーフ不動産」というサービスを開発・リリースされています。逆に「駐車場の空きがなくて困っている」という方も多いということでしょうか?

 

稲垣ヨシクニさん(以下、稲垣):都心部のマンションは駐車場不足が深刻です。駐車場の空きがないことで購入をあきらめる方、あるいはやむを得ずマンションから離れたところで駐車場を借りる方は非常に多くいらっしゃいます。また、駐車場の空きがあっても、所有している車両が入らないというケースも少なくありません。

 

ここ20年程度で分譲されたマンション駐車場の中心的な規格は、全長4850㎜×全幅1850㎜×全高1550㎜程度でしょう。最もボトルネックになるのは、全高。これまで私が接してきた都心部マンション購入者様は、ハイルーフの車を置きたいと考えることが多い印象です。この場合、駐車場の空きはあっても車両が収まらないという問題が生じます。ポルシェ カイエンやメルセデス・ベンツのGクラス、アルファードはもちろん、都心部マンション居住者に人気の高いレクサスNXも、一般的なマンションの駐車場には入りません。

▲左:稲垣ヨシクニさん。建築営業を経験した後、27歳で賃貸不動産会社を創業し取締役に。33歳で独立しKIZUNA FACTORYを創業。売買仲介とマンション買取リノベーション再販を行う。通算3000組以上の接客経験を活かし不動産業界の透明化を目指す。「不動産屋」そのものをアップデートするためにXを中心にSNSで発信している。X:稲垣ヨシクニ@都心ブランドマンションソムリエ

右:土屋輝之さん。さくら事務所 マンション管理コンサルタント。不動産仲介営業から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなど、不動産に関連したキャリアを長年にわたって築き、(株)さくら事務所参画。マンション管理サービス部門責任者

土屋:重量オーバーで停められないケースもありますよね。たとえば近年、電気自動車が増えていますが、その多くが2トンを超えます。一方、従来型の機械式駐車場の重量制限は1750〜1800㎏程度。一定の大きさ、重量に耐えられる駐車場を備えているマンションは、おおむね2015年築以降の物件に限られるのが実情です。自走式の駐車場であれば解決できますが、都心3区や5区などのマンションの駐車場はほとんどが機械式です。

 

稲垣:駐車場が余っている、逆に不足しているという2つの問題は別物のようにも見えますが、いずれも車両やニーズの変化に駐車場の数や規格が追いついていないということが原因なのでしょうね。

 

 

――郊外では空き区画の増加で維持・管理に支障をきたしているマンションも多いと聞きます。実態はいかがでしょうか?

 

土屋:郊外に限らず、都心5区などを除けば23区内でも空き区画の増加と維持・管理に悩んでいるマンションはたくさんあります。車離れが加速している現状とともに、年数が経つにつれ住人の年齢も上がっていきますから、免許を返納する人や車に乗らなくなる人が増えることで、どうしても徐々に駐車場の契約率が下がっていってしまうんですよね。

 

機械式駐車場は、パレット1台につき最低でも毎月4,000円程度のメンテナンス費用がかかります。借りる人がいなければ赤字になってしまいますから、埋め立てたり鉄板を敷いたりして、平置きの駐車場に変えるマンションも見られます。

▲マンション管理コンサルタントとして、管理組合から駐車場についての相談を受けることも多いという土屋さん

――仲介の現場でも、築年数が古いマンションほど駐車場の空きが多いというイメージはありますか?

 

稲垣:都心から離れれば離れるほどマンションの流動性は落ちます。つまり、永住される方が多いということです。となると、やはり土屋さんがおっしゃるとおり、経年につれて駐車場の空きというのは増えていきやすいですよね。そういう意味では、駐車場の問題は築年数というより地域差が大きいと思います。

▲「都心3区、5区ほどハイルーフ車や電気自動車のオーナーが多い傾向が見られる」と語る稲垣さん

土屋:駅から離れたエリアは車が不可欠で、1世帯あたり複数台持っているということも少なくないので、駐車場の空きが問題になることは少ないんですよ。地方都市になってくると機械式駐車場が少ないので、ある程度利便性が高いエリアであっても駐車場の問題は深刻ではありません。

 

 

――マンションの居住者ではなく、第三者に駐車場を貸すことはできるのでしょうか?

 

土屋:貸すことはできますが「貸し方」には注意が必要です。基本的にマンションの駐車場は居住者の利用を目的としており、使用料は駐車場の管理や修繕に充てられるため非課税です。しかし、外部の方に広く貸し出すとなると収益事業と解釈され、事業税が課されてしまいます。これを避ける対策として、マンション内で使用したいという人が現れた場合には、すみやかに返してもらえる内容の契約にしておかなければなりません。専門業者によるサブリースを利用すれば、このような手続きや事務作業の負担を減らせますが、一方で手残りは周辺相場の4〜5割程度になってしまいます。

 

 

――マンション駐車場の不足、あるいは余剰があってもニーズを満たす規格になっていないという課題を解決する動きはあるのでしょうか?

 

土屋:機械式駐車場を入れ替える際にパレットの数を減らしてサイズの大きなパレットを導入したり、あるいは3段式であれば中段のパレットの位置を下げてハイルーフ対応にしたというマンションも少なからずあります。駐車できる車両は減りますが、必要とされる台数は減少傾向にありますので、居住者や検討者のニーズを満たすという意味では有効な対策になります。また、空き駐車場をトランクルームやバイク置き場に転用した事例もあります。

 

稲垣:機械式駐車場のパレットを2台分借りて高さを調整し、ハイルーフの車を駐車する方もいましたね。都心部の新築マンションは、駐車場の規格が大きくなりつつあります。ハイルーフとまではいきませんが、ミドルルーフの車なら停められるマンションが増えてきています。

▲この日が初対面とは思えないほど会話が弾んだ本対談

――マンションの購入を検討している方は、どのように駐車場の規格やマンションが抱えている駐車場の問題を把握すればいいのでしょうか?

 

稲垣:駐車場の空き状況はレインズ(不動産業者が閲覧できる物件情報システム)や販売図面に記載されますが、現況や規格までは分かりません。確認するには駐車場を管理しているマンションの防災センターに問い合わせる必要がありますが、連絡先を確認したりなんなりで、確認までに数時間、下手したら1日かかることもあります。

 

ここまでしなければ駐車場の状況や実態が分からないというのは、マンションを検討している方に不利益なことはもちろん、マンション側にとっても機会損失だと思うんですよ。駐車場の空きや規格を開示するデメリットはないはずです。一般公開はせずとも、せめてレインズには掲載されるようになるといいですよね。

 

土屋:稲垣さんのおっしゃるとおり、情報開示はデメリットどころか資産価値が向上する可能性すら秘めていると思います。駐車場の台数やサイズ、重量制限に加え、共用部や学区、近くの病院、スーパーなどの情報をまとめておくだけでも流動性が高まるはずです。

 

また、ここまで稲垣さんのお話を伺ってきて、都心部のマンションを検討されている方の多くが、駐車場でこれほどまでにお困りであることに大変驚きました。都心のタワーマンションでも、一般的な規格の駐車場は空いていることも多いので、ハイルーフや重量のある車に対応した駐車場を増やすことで資産性が向上する可能性もあると思います。

 

 

取材・文:亀梨奈美 撮影:ホリバトシタカ

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.近年見られるようになった“新たな”マンションの駐車場問題とは?
A.稲垣:まだ社会的には問題として認識されていないかもしれませんが、実態として、ここ十数年のマンション価格の高騰により、住人の資産状況や価値観に差が生じています。たとえば分譲時に坪単価180万円で購入した世帯、コロナ禍前に坪単価300万円で購入した世帯、コロナ禍後に坪単価500万円で購入した世帯が同じマンションに住んでいることで、駐車場の改変といった意思決定が難しくなる可能性もあると思います。