マンションの置き配問題をどう解決する? 戸別宅配ボックスという新発想

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――まず、マンションにおける宅配ボックスには、どのような課題があったのでしょうか。


 

遠藤匡利さん(以下、遠藤):これまで一般的だった共用宅配ボックスは、設計上の大きな制約を抱えていました。かつては宅配ボックスやメールボックスの面積がマンションの容積率に含まれたため、大型の宅配ボックスを設置しようとすると、その分だけ住戸面積を削らざるを得なくなり、計画上の「せめぎ合い※」が生じていたのです。


※2018年の基準法改正により、宅配ボックスは容積率に含まれない扱いとなりました。

 

 

――お部屋を広くするか、宅配ボックスを充実させるか、という選択を迫られていたわけですね。

 

遠藤:そこへAmazonや楽天などのネット通販が急増し、「荷物が入りきらない」「ボックスの数が足りない」といった問題が常態化するマンションも出てきました。

 

また、共用だと冷蔵・冷凍品の預け入れが難しいという課題もありました。冷蔵ボックスを導入したマンションもありますが、自分の家の冷蔵庫代わりにして、ずっと荷物を取り出さないといった運用上のトラブルもあったと聞いています。

 

――コロナ禍で置き配が一気に広まりましたが、玄関前に荷物が放置されることへの懸念も出てきました。

 

遠藤:そうですね。物流業界の人手不足を受け、再配達を減らすため、国土交通省も置き配を推進しています。ただ、マンション管理の側から見ると、玄関前に大きな段ボールが散乱しているのは、景観上の問題だけでなく、防災や清掃の面でも不都合が起こりやすいです。こうした社会の変化に適応するために、安全に置き配ができる専用の場所が必要だと考えました。

遠藤匡利さんプロフィール

▲長谷工コーポレーション エンジニアリング事業部 商品企画室 室長 遠藤匡利さん。1995年入社。30年以上、設計領域およびエンジニアリング事業に携わる。グッドデザイン賞を受賞した「オーベル蘆花公園」をはじめ、数多くのマンション設計実績を持つ。※所属先・肩書きは取材当時のもの

 

――そうした課題を解決するために開発されたのが「DELIBOX(デリボックス)」なのですね。

 

遠藤:DELIBOXは、各住戸の玄関脇に設置する戸別の宅配ボックスです。共用ボックスとは異なり、各家庭専用の受け取りスペースを提供することで、容量不足や運用トラブルを解決します。外寸は巾(はば)・奥行約50㎝、高さ約2,100㎝、収納容量は約500リットルです。水などの重たい荷物、スーパーの通い箱なども複数同時に受け取れます。

 

2021年からこれまでに、1900戸以上に導入されています。東京都・東村山市では500戸以上の大型マンションでも導入が決まりました。

 

 

――なぜ「戸別の宅配ボックス」という発想に至ったのでしょうか。

 

遠藤:共用ボックスの拡張には限界があります。それならば、各住戸に専用の受け取り場所を設けることで、容量の問題も運用トラブルも解決できるのではないかと考えました。玄関前の廊下に置き配するのではなく、安全に置き配ができる専用のスペースを各家庭に提供する。いわば、各家庭に直結した専用の物流インフラという発想です。

 

 

――今回開発されたDELIBOXには、2つのラインナップがあるとお聞きしました。

 

遠藤:まず第1弾の「DELIBOX-PREMIUM」は入居者のスマホ操作を前提として設計されたもので、高いセキュリティ性が特徴です。配送業者がエントランスと住戸前で2回インターホンを呼び出し、外出先の入居者がスマホで映像を確認して遠隔でオートロックとボックスを解錠します。ハンガーレールも搭載しているので、クリーニングの受け渡しも可能です。

DELIBOX-PREMIUM

▲DELIBOX-PREMIUMは、鍵付きの扉で完全に荷物を隠す仕様である点も含めてセキュリティ性が高い

――もうひとつのラインナップは、どのような位置づけなのでしょうか。

 

遠藤:第2弾が普及版の「DELIBOX-SMART」です。こちらはより簡単に使える利便性を重視しました。鍵のメーカーであるシブタニ社とインターホンで知られるアイホン社が連携した「Pabbit(パビット)」というシステムを採用しています。配送業者が配送伝票番号を入力することで、入居者のスマホ操作なしでオートロックを解錠し、館内に入れます。機能を絞ることで、価格を抑えました。

DELIBOX-SMART

▲PREMIUMよりも機能を絞り、マンション導入時のコストを抑えたDELIBOX-SMART。上段は横から荷物を入れる構造で、正面からは荷物が見えないため共用部の景観も維持しやすい

――特にこだわったポイントはどこでしょうか。

 

遠藤:マンション設計者が「積極的に置きたくなるもの」にすることです。玄関脇という目立つ場所に置くため、お部屋のグレード感を損なわない意匠性を重視しました。便利なものであっても、デザインが魅力的でなければユーザーには選んでもらえません。今回のDELIBOXも、単なる「箱」ではなく、共働き世帯やシングル世帯にとって、“これがあることがマンション選びの決定打のひとつになる”ようなものにしたいと考えています。

遠藤匡利さん「マンションの“意匠設計”に携わってきた経験がDELIBOXにも活きている」

▲マンションの“意匠設計”に携わってきた経験がDELIBOXにも活きているという

――実際に導入されたマンションでは、どのような変化がありましたか。

 

遠藤:居住者の方々からは、まず大容量であることへの評価をいただいています。約500リットルという容量は、ある程度の高さのある荷物から、日用品などを購入した宅急便の段ボールまで、複数の荷物を同時に受け取れる大きさです。特に共働き世帯の方々には、仕事中に届いた荷物を帰宅後にまとめて受け取れる利便性が好評です。

 

 

――管理会社側のメリットはいかがでしょうか。

 

遠藤:共用宅配ボックスの詰まりが解消されることで、管理会社の負担も軽減されます。「ボックスがいっぱいで荷物が入らない」というクレーム対応や、玄関前に放置された段ボールの処理といった業務が減ります。また、廊下の景観が保たれますし、防災面でも安心です。

 

 

――今後、DELIBOXをどのように展開していく予定ですか。

 

遠藤:他業種との連携を深めていくことが重要だと思います。クリーニングを配達してもらったり、ネットスーパーに晩ご飯の食材を届けてもらったり、より便利な使い方を模索していきたいですね。

 

現状のDELIBOXは新築時での導入が中心ですが、中古物件でもリフォームにより設置が可能です。ただ中古の場合は共用廊下を利用するケースが多く、管理規約や防災・避難動線との整合性を図る必要があります。このあたりの整備が進めば、より広く普及していく可能性があると考えています。

遠藤匡利さん「忙しい共働き世帯が増え、置き配の利用が広がる中、「スマートな暮らし」の実現に向けてDELIBOXが担う役割は大きい」

▲忙しい共働き世帯が増え、置き配の利用が広がる中、「スマートな暮らし」の実現に向けてDELIBOXが担う役割は大きい

――「置き配時代」のマンションは、どのような方向へ向かうとお考えですか。

 

遠藤:共働き世帯や単身者が増える中で、「時間に縛られない生活」の価値は今後さらに高まっていくと思います。戸別宅配ボックスの普及は進み、いずれはマンション選びにおける標準設備になる可能性もあるでしょう。物流と防犯、そして住まいが交わる領域で、新しい選択肢が模索されていくと思います。

 

 

――10年後、20年後のマンション像とは。

 

遠藤:私は入社当初の手書きの製図から現在のBIM(3Dモデル)まで、さまざまな技術革新を見てきました。しかし、どんなに技術が進化しても、「住む人の暮らしやすさ」を追求するという本質は変わりません。10年後、20年後のマンションは、より一層パーソナライズ化され、一人ひとりのライフスタイルに寄り添った空間になっていなければなりません。DELIBOXは、その第一歩だと考えています。

 

 

 

取材・文:小野悠史 撮影:石原麻里絵(fort)

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.戸別宅配ボックスは今後、標準設備化が進むと考えられますか? その鍵となる要素は何でしょうか?
A.遠藤:全戸に導入すると、そのまま販売価格に影響します。建築費が高騰するなかで、予算配分を巡って「他の設備を削るかどうか」というシビアな調整が必要になります。2部屋で1つを共用したり、1フロアで共用したりなど、いろいろなニーズにこたえる形で事実上の標準設備に近づけていきたいですね。