読めて探せる不動産エンターテインメントサイト「物件ファン」と、マンションプラスによるコラボ企画は、「自分でマンションを購入した女性たち」を取り上げた前回シリーズに続き、“二拠点生活”をテーマにした第2弾に突入しています。今回は、東京都の自宅と伊豆のリゾートマンションを行き来する市川さんご夫妻のケースをお届けします。
▲市川知さん 埼玉県出身。建築分野における総合マネジメント・コンサルティングファーム勤務。市川美和さん 静岡県出身。メディア企業で女性の行動や購買を促す企画・マーケティングに携わった後、現在はキャリアコンサルタント業に加え、医療機関の経営・マーケティング支援など複数のプロジェクトに従事。各自の本業に加え、東伊豆の関係人口創出に関わるNPO活動に夫妻で参加している
空と海を感じる窓辺で、朝日を待つ新ルーティン
相模湾と天城山に抱かれた、風光明媚な伊豆半島の東側エリア。特急電車を使えば東京から2時間ほどです。
▲町を歩けば、そこかしこに海を望むスポットが現れる
駅に降り立ち、タクシーで10分ほど走ると見えてくる大きな建物。テニスコートに温泉、プールも付いた立派なリゾートマンションが、今回の舞台です。
さっそくお部屋を訪ねると、玄関ドアを開けた瞬間、廊下と居室の奥に、海と空が広がっているのが見えます。廊下を一歩、また一歩と進んでいくごとに、視界を埋め尽くしていく海と空の青。
「朝は日の出前に起きます。リクライニングチェアに座って、朝日が出るのを待つんです」
そう話すのは、この部屋に住む市川知さん。季節によって変わる日の出の時刻に合わせて目を覚まし、太陽が顔を出す頃、妻の美和さんを起こして一緒に日の出を眺めるのだそう。その後は、マンション内にある温泉へ。朝風呂で元気をチャージして、伊豆での1日を始めます。
▲“日の出待ち”をする知さんの定位置
知さんと美和さんが東京と伊豆の二拠点生活を始めたのは、2022年4月のこと。美和さんが伊豆出身だったこともあり、「いつかは伊豆で暮らしたい」と心に描いていたものの、それが叶うのはずっと先のことだと思っていたそうです。
「リモートワークが普及する以前は、二拠点生活という選択肢がありませんでした。いっそのこと移住して、遠距離通勤すればいいのではないかとも考えたけれど、それができるのは東京から小田原くらいの距離まで。自分たちが伊豆で暮らせるのは会社を辞めて定年後だろうな、というイメージでした」
▲夫妻の拠点は、テニスコートに温泉、プールまで備わった典型的なリゾートマンション
その考えが変わったきっかけは、コロナ禍における働き方の変化。さらに、夫婦で参画するNPO活動の影響も大きかったと、美和さんは言います。
「芝浦工業大学の学生が立ち上げたNPO『ローカルデザインネットワーク』に参加し、NPOメンバーとともに、地域全体をオフィスとして活用する『まちまるごとオフィス東伊豆』を東伊豆町に提案したところ、町の受託事業として採択されました。
東京での生活を続けながら東伊豆のプロジェクトに関わる中で、一般的な“どこでも働く”ワーケーションではなく、“特定の地域に継続的に関わり、もう一つの仕事と暮らしの拠点を持つ”『関係人口型・拠点型ワーケーション』という新しい働き方を実践したいと考えるようになったんです」
そこで、思い切って「竣工当時よりもずいぶん安くなっていた」リゾートマンションを購入。そうして始まった二拠点生活ですが、2人にとってこの部屋は、ただ自然に癒されるための場所ではありませんでした。
海の見える部屋は、もう一つの仕事場
都内の自宅とは別に、地方や郊外に拠点を持つ。そう聞くと、「自宅は日常を過ごす場、別宅は癒しの場」といった棲み分けを想像する方も多いかもしれません。別宅は、仕事を連想するものは極力置かない居心地重視の空間……そんなイメージでいると、良い意味で期待を裏切られるでしょう。
▲右手の壁には大きなホワイトボード、その対面の壁は、プロジェクターから映像が投影できる仕様
海を望むリビングに置かれているのは、大きな白いデスクのみ。キャスター付きの椅子に座る2人が、それぞれPCに向き合って作業に没頭している──そんな過ごし方が、伊豆での日常だというのです。
「伊豆では、日中の大半を仕事に費やしています。でも、会社や東京の自宅で働くのとは違って、遊ぶように働けるというか、肩の力が抜けるんですよね。ここで仕事をしていると、東京ではいかに気を張っているかに気づくことができます」と知さん。
美和さんが見せてくれたのは、二拠点生活を始めるにあたって作成したという「コンセプトシート」。伊豆の拠点でどんな時間を過ごしたいのかを、言葉にして整理したそうです。部屋の名前は「海と空と太陽のアトリエ」。
▲美和さんが作成したコンセプトシート。部屋の通称である「SATOROOM(サトルーム)」には、夫である知(さとる)さんのお名前、そして美和さんのふるさと、という意味が込められている
「せっかくすばらしい環境に拠点を構えるのだから、ただホテルのように使うだけではもったいない。NPOをはじめとする本業以外の仕事や、未来に向けた思索、創作をする場にしましょうと決めました」
▲週末を中心に、月に1〜2回のペースで滞在する2人。リラックスした時間を過ごすのかと思いきや、お互いに仕事に打ち込むことが多いという
知さんは建築分野でキャリアを積み、現在は建築分野における総合マネジメント・コンサルティングファームに勤務。設計から維持管理まで、建物のライフサイクル全体に関わるコンサルティングを行っています。
一方、美和さんは医療機関の経営・マーケティング支援や、キャリアコンサルタントとしての活動など、複数のプロジェクトに関わっています。
そして、2人で東伊豆町における関係人口の創出を目指す、NPOの活動にも参加。地域と都市をつなぐ取り組みにも携わってきました。
▲リラックスタイムにコーヒーを淹れるのは、知さんの担当
そんな市川さん夫妻にとって、この拠点は海と空に囲まれた環境を満喫するための場所でありながら、仕事や本業以外のプロジェクトに打ち込む「もうひとつの仕事場」でもあったのです。
「海を見ながら仕事をしたい派」の美和さんは嬉々として窓に向かって座りますが、知さんはどこか及び腰。つい景色に見入ってしまうため、仕事中は海を背にして座ることが多いのだそうです。
「本当に集中したい時は遮光カーテンを閉め切って作業します。そうすると、東京の部屋にいるのとほとんど変わりません(笑)」
▲窓の向こうの絶景。移り行く空の色、波の様子を眺めていると、あっという間に時間が経過する
作業に疲れたら、カーテンを開けて海を眺めてリフレッシュ。東京にいれば、外へ出て歩かなければ感じられない自然が、ここではカーテンの開閉ひとつで目の前に現れます。
「可変」をテーマにした柔軟性のある部屋づくり
そもそも夫妻はこの部屋をどのような基準で選び、どんな工夫をしながら整えてきたのでしょうか。
「絶対に譲れなかった条件は、『海の見える部屋』であること。熱海から東伊豆あたりの物件を複数見学していた中で、この部屋を内覧して即決しました。ここまで窓いっぱいに海が広がる部屋は他にありませんでしたから」
▲海の向こうに浮かぶ伊豆の離島。西から陽が当たる夕方のほうが、よりくっきりと姿が見える
1989年に完成したこの部屋の住人は、市川さん夫妻で3代目です。リノベーションの設計を手がけたのは知さんですが、以前のオーナーさんたちも丁寧に住んでいたようで、大きく手を加えることなく今の状態に至ったそう。
▲キャビネットの面材がレトロかわいいキッチンも、既存の設備をそのまま使用
「改修で特にこだわったのは床。部屋ごとに段差のあった専有部をすべてフルフラットな状態にしたかったので、地元の業者さんにお願いして緻密に整えてもらいました。その際に、リビングと和室との間仕切りになっていた襖を撤去したので、カーテンでゆるやかに仕切る形に。カーテンを開ければワンルームのような空間になります」
▲シアーカーテンの向こうは寝室。カーテンを全開にすればフルフラットな広々空間に
さらに、知さんが考案した空間のテーマは、「可変」。
仕事をする時間も、それ以外の時間も大切にしたい。両方を限られたスペースで実現するために、カーテンの開閉や家具の配置、物の出し入れによって、使い方を柔軟に変えられる仕様にしています。
▲「できる限りものを持ち込まないようにしている」という部屋の中で、夫妻の趣向が垣間見える一角。中でも、伊豆稲取に伝わる雛のつるし飾りが目を引く
「先ほどもお話ししたように、仕事のオンオフはカーテンの開閉でできてしまいます。窓際で朝日を待つときは、キャンプ用のリクライニングチェアを出して寝転べばOK。来客時はテーブルを拡張してお気に入りのクロスを広げ、照明の色を切り替えれば“パーティーモード”になります」
友人が遊びに来た時は、本来上座である部屋の奥側の席に案内するのではなく、海が見える手前の席に座ってもらう。それが市川家流のおもてなしです。
二拠点生活が広げた人とのつながり
伊豆は、美和さんが生まれ育った場所。高校時代までを過ごした故郷へ戻ってきたことで、かつての友人たちとの交流が復活したそうです。
一方、埼玉出身の知さんにとっては、この町はもともと縁のない場所でした。二拠点生活を始めるにあたっては、最初は景色の良さや、自分にとって心地いい空間を作ることの優先順位が高かったといいます。
「それが、伊豆に拠点を作ってからは、自分の知り合いも増えて、歩いていて声をかけられることも多くなりました。ここでの暮らしを通して新たな交流が生まれ、人との関わりの中で生活できることによろこびを感じるようになりました」
▲遊びに来た友人がホワイトボードに描いた近所の「熱川バナナワニ園」のマスコット
NPO活動を通して知り合った方が偶然同じマンションに住んでいて、ご近所付き合いが始まったというエピソードも明かしてくれました。
「東京でもずっとマンション暮らしをしていますが、私たちの場合、住人の方々とは理事会ぐらいでしか顔を合わせる機会がありません。ここでの暮らしのほうが、人と人との距離感が近い気がします。移住や二拠点生活など、同じ境遇の方も多いですし、みんな肩の荷を下ろしやすいのかもしれません」
こうした関係の広がりも、二拠点生活を続ける理由のひとつになっているのだそうです。
▲セカンドハウス滞在時は部屋にいることが多く、食事も基本は自炊。仕事の合間に「今日の晩ご飯は何つくる?」と相談する2人
伊豆で実現したウェルビーイングな暮らし
最後に、今後はどのような暮らしをしていきたいか、未来の展望をお聞きしました。
「この暮らしを続けたいですね。そのために頑張りたいです」と知さん。
「二拠点生活をしてみて初めて、自然豊かな場所に拠点を持つだけでこんなに幸福感が増すのかと驚いたんです。それこそ最初は『こんな贅沢していいの…?』と怖かったくらいです」
▲2人の念願だった「海の見える部屋」。ここでの暮らしを通して「ウェルビーイング」を実感している
知さんの言葉を受けて、「でも、正解はひとつじゃないので」と続ける美和さん。
「私たちはたまたま海が好きだったからこの部屋にフィットしましたが、海よりも山、自然よりも利便性、という人もいるでしょう。自分は何を大切にして生きていきたいのか、自分の価値観に合った場所に拠点を持ち、場所とつながっていく。その幸福感を、多くの方に知ってほしいなと思います」
二拠点生活を通じて、身体的に、精神的に、そして社会的にも満たされた状態にあるという市川夫妻。海に呼ばれて拠点を構えた伊豆で、2人はいつのまにかウェルビーイングな生き方を手に入れていたのでした。
物件DATA
所在地:静岡県賀茂郡東伊豆町
築年:1989年
面積:49.50㎡

取材・文:ほしりょうこ 編集:岸良ゆか 撮影:赤澤昂宥
WRITER
散歩とビールと読書が好きな、元リフォーム屋さん。16年で9回の引っ越しを経験。もっぱら東京の西側にいます。https://twitter.com/hs_ryk
おまけのQ&A
- Q.伊豆観光でおすすめの場所は?
- A.春は河津の「河津桜まつり」や伊豆稲取の「雛のつるし飾り祭り」がおすすめです。稲取細野高原は季節を問わず楽しめます。春の新緑に包まれた草原や、夏の深く濃い緑に満ちた草原も美しいけれど、圧巻はススキが穂をつける秋。見渡すかぎり金色に染まる野原は『風の谷のナウシカ』のようで、MVなどのロケ地にもなっています。夏の海水浴を楽しむなら、透明な海と白い砂浜がすばらしい下田から南伊豆にかけてのビーチにぜひ足を運んでみてください!(美和さん)
【いまこそ、二拠点生活。 vol.2】「まるで『魔女の宅急便』。都内から1時間、ふらり訪ねた大磯での心ほどける居場所づくり」