マンションを住み替えるなら売る?貸す?損しない再取得の考え方

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YouTubeを通じた情報発信が、特にマンション好きの熱い支持を集めている「東京不動産マニア」。住宅価格高騰下にマンションを住み替えるなら、「売る」「貸す」の判断はどのように行うといいのでしょうか。満足のいく再取得を実現するための考え方を伺いました。

 

前編「マンション住み替えはいつが正解? 価格高騰時代の“勝ちパターン”を考える」はこちら

――現在はマンションの価格だけでなく賃料も高騰傾向にありますが、住み替え時にマンションを売らずに貸すという選択肢もあるのでしょうか?

 

高田一洋さん(以下、高田):新居の住宅ローン審査が通るのであれば、今のマンションは売らずに貸すという選択もありだと思います。5年や10年、あるいはそれ以上前に購入したマンションであれば、ローン返済額を上回る賃料が取れることも多いでしょう。ただし、基本的に住宅ローン返済中は賃貸に出すことができません。金利が高い不動産投資ローンに借り換えてもなお利益が出るかどうかは試算する必要があります。もちろん、ローンを完済できるのであれば借り換える必要はありません。

 

賃貸経営は苦労も多いですから、個人的には住み替えるなら売ってしまったほうがいいと思います。売らずに貸せば、将来また自分や家族が住めるという利点もあるものの、人に貸すとなるとどのような状態で戻ってくるか分かりません。現に最近、入居者が退去した後に久しぶりにマンションを見てみたら、タバコのヤニで壁が真っ黄色だったという事例もありました。

一心エステートの高田一洋さんがマンション住み替えの極意を語る画像

▲高田一洋さん。大学卒業後、コンサルティング会社に4年、不動産事業を展開するリストグループに10年在籍。在職中に東京都心の高額不動産の売買・賃貸仲介の実績を重ね、2021年に都心6区を中心に扱う不動産会社の一心エステートを創業。著書に『住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術 不動産は「リセール指数」で買いなさい』『マンション売却の錬金術「マンションを売りたい」と思ったら最初に読む本』 X:@Takada_Issin YouTubeチャンネル:たかちゃん不動産

藤田祥吾さん(以下、藤田):賃貸に出すと「3,000万円特別控除(マイホーム特例)」が受けられない点にも注意が必要です。3,000万円特別控除とは、マイホームを売ったときの譲渡所得(売却益)を最大3,000万円控除してくれる特例です。譲渡所得にかかる税率は、5年を超えて所有していたマイホームの場合、20.315%ですから、最大600万円以上(3,000万円×20.315%)節税できます。厳密に言えば、同特例の適用期限は住まなくなってから3年を経過する12月31日なので、短期間だけ賃貸に出すという選択肢もありますが、長期で賃貸に出す場合は節税メリットとの比較が必要ですね。

 

過去記事「【税務の専門家に聞く】知っておきたいマンション購入時の税金と優遇制度の全貌」では住宅購入にまつわる税金と控除を体系的に紹介

藤田祥吾さんがマンション住み替えの極意を語る画像

▲藤田祥吾さん。2022年MBA取得。現場で仲介営業を10年経験し、取引件数は500件以上。賃貸・売買どちらにも精通する。『NHKクローズアップ現代』をはじめ、ABEMAや    Bloombergなど、多数メディア出演経歴あり。不動産業界を透明化させ、失敗のない購入と売却のサポートをすることを信条とする X:@fuji_fujita_kun YouTubeチャンネル:【公式】ふじふじ太の湾岸マンションチャンネル

稲垣ヨシクニさん(以下、稲垣):ファミリータイプの区分マンション投資は、正直に言えばそこまでうまみのあるものではありません。新居の融資が問題なく組めるのであれば、さらなる価格高騰を狙って保有して賃貸に回すのではなく、売却益を使って一棟マンションや一棟ビルを購入したほうが賃料収入は見込めます。都心部や再開発エリアなど、よほど値上がりが期待できる場合を除き、売却して一度出口を確定したほうがいいと思います。

KIZUNA FACTORYの稲垣ヨシクニさんがマンション住み替えの極意を語る画像

▲稲垣ヨシクニさん。建築営業を経験した後、27歳で賃貸不動産会社を創業し取締役に。33歳で独立しKIZUNA FACTORYを創業。売買仲介とマンション買い取りリノベーション再販を行う。通算3000組以上の接客経験を活かし、不動産業界の透明化と「不動産屋のアップデート」を目指してXを中心にSNSで発信している。著書に『住む資産形成 資産価値重視で後悔しないマンションの選び方』 X:@inagaki_kizuna YouTubeチャンネル:東京不動産大学 - 都心ブランドマンション購入の専門家 -

――住み替え先を選ぶにあたって、広さや通勤時間など重視したい要素はたくさんあると思います。現在はマンション価格が高騰する一方で高経年マンションが増え、人口は減っているタイミング。マンションの資産価値についても二極化が進行していくとみられる今の時代、どのようなマンションを選べばいいのでしょうか?

 

稲垣:重視したいポイントは数あれど、やはり「値崩れしにくいマンションを選びたい」というのは多くの方に共通する希望でしょう。資産性の維持・向上が見込めるマンションの特徴は、駅近・ブランド・大規模です。具体的には駅徒歩10分以内、総戸数50戸以上といった点を重視したいですね。

 

藤田:こうした条件で築浅となると、一般的な収入の世帯には手が届かない水準まで価格が高騰しています。したがって現実的な選択肢は、品確法施行後の2000年頃から2010年築程度のマンションになると思います。

 

 

――「品確法施行後」という理由は?

 

高田:2000年4月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(通称:品確法)は、良質な住宅を安心して取得できる住宅市場の整備と活性化を目的とした法律です。大きなポイントは、新築住宅の基本構造部分に10年間の瑕疵担保責任(修補責任等)が義務づけられたこと、そして住宅性能表示制度が開始したことです。これにより、住宅の基本性能が格段に向上しました。

 

さらに、この頃からペアガラスが主流になり始め、都市計画や建築規制の見直しによって大規模マンションが建築しやすくなりました。多くの方は「旧耐震」と「新耐震」でマンションの品質を区別しますが、品確法施行以降のマンションは現在とさほど大きな違いがありません。

 

 

――ここ1、2年で多くの金融機関が扱うようになった借入期間50年などの「超長期」の住宅ローンについてはどう思われますか?

 

高田:商品自体は素晴らしいと思います。これだけ低金利で、50年かけて返済していける国なんて日本だけです。ただ、物件はよく吟味しなければなりません。たとえば、築50年のマンションを50年ローンで購入するというなら、私はおすすめしませんね。マンションは100年、200年もつといわれていますが、それは品確法施行以降のマンションの話だと私は思っています。現在、築50年のマンションは建築当時の耐震基準が現在と違いますし、コンクリートにしても配管にしても、あと50年もつかどうかは定かではありません。

 

稲垣:平均寿命も労働寿命も延びているので、合理的な商品だと思いますよ。返済期間が35年だろうが50年だろうが、完済年齢の上限は多くの場合80歳ですしね。若い方が長期で返済していけるというローン商品ですから、高田さんがおっしゃるとおり物件選びに注意すれば問題ないと思います。

 

過去記事「『50年住宅ローン』を扱う住信SBIネット銀行に聞く、後悔しない住宅ローン選び」では“超長期”住宅ローンの概要などを紹介

――今、都内の住み替え先としておすすめのマンションは?

 

稲垣:色々ありますが「今なら買える」ということで言えば、大森海岸駅徒歩5分の『シティタワー品川パークフロント』でしょうか。マンション価格高騰の波は、中心地から徐々に広がっていきます。その波が来ているのが現在、ちょうど立会川駅や大森町駅のあたりです。2024年に波が来ていた『プライムパークス品川シーサイド ザ・タワー』あたりのエリアは現在、昨対比30%ほど価格が上がっています。

 

高田:私は、大井町駅徒歩9分の『アールブラン大井町ミュゼ』をおすすめします。大井町駅周辺は大規模な再開発が進行しており、非常に将来性のあるエリアです。大井町エリアのタワーマンションはこの1年で30〜40%ほど価格が上昇していますが、中低層のマンションはまだ手が届く価格水準です。

 

藤田:湾岸エリアもタワーマンションが著しく高騰しているので、いずれも大規模でありながらタワーではない『スターコート豊洲』『東京フロントコート』『プライヴブルー東京』を選ぶ方が多いですね。タワーマンションと比べて2割ほど安いので、広い部屋も見つかりやすいと思います。

 

澤井慎二さん:ただ「おすすめマンション」として挙がっている時点で、すでに相場が上がっている可能性もあります。都心のマンションは1ヵ月、下手したら数週間で価格が変わりますので、今住み替えたいと思っている方が購入するときには、現時点の価格が「旧価格」となっていて、より高い「新価格」で取り引きされているかもしれません。こうした市況にあるということを理解して再取得を考えることが大切です。

ライトドアの澤井慎二さんがマンション住み替えのポイントを語る画像

▲澤井慎二さん。新卒でリクルートに入社、6年間SUUMOに従事し、不動産会社への広告営業を経験する。2018年に不動産テック企業を共同創業した後、2020年に不動産業界に特化したSNSマーケティング会社、ライトドアを設立 X:@sawai_lightdoor

取材・文:亀梨 奈美 撮影:ホリバトシタカ

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.住み替えをサポートしてくれる不動産会社の選び方は?
A.稲垣:今の市況を一言で表すなら「昨日の割高は、今日の割安」です。相場が読みにくい時期だからこそ「プロ」の仕事が活きる時期でもあります。買主が選んだ物件をただ案内してくれるだけの不動産会社ではなく「将来価格」を分析し、購入のタイミングや物件選びをサポートしてくれる担当者とともに住み替えを進めていくことをおすすめします。