価格がどんどん値上がりし、マンションは「売り時」であるのと同時に住み替えも難しい昨今。人気YouTubeチャンネル「東京不動産マニア」の皆さんに、再取得の極意を取材しました。
市場から見る住み替えタイミングの見極め方
――マンション価格が高騰している今は、再取得のベストタイミングと言えるのでしょうか?
稲垣ヨシクニさん(以下、稲垣):私の考えでは、現在は売却金額・購入金額ともに上がっているため、市況の良さがメリットになるとは言い切れません。したがって「マンション価格が上がっている」という理由だけでの住み替えには慎重であるべきです。再取得で成功している方には次の3つの条件が揃っていることが多いように思います。
第1に明確な理由があること。「手狭になってきたからより広いマンションに引越したい」「通勤・通学に便利な場所に転居したい」といったニーズを叶えてこそ、満足度は高まります。
第2に、現在お住まいのマンションが、売却によってしっかりと利益を生むことも欠かせません。ローン残債とほぼ同額、あるいは残債を下回る金額でしか売却できず、持ち出しがあるようなら「今より広い家」「今より利便性が高い立地」を手に入れることは難しくなります。
3つ目の条件は、年収が上がっていくフェーズにあること。この条件は、年齢にも通ずるところです。都内で住み替えるとすれば毎月の返済額が上がることは必至ですから、年収が下がっていくフェーズでの買い替えはおすすめできません。
▲稲垣ヨシクニさん。建築営業を経験した後、27歳で賃貸不動産会社を創業し取締役に。33歳で独立しKIZUNA FACTORYを創業。売買仲介とマンション買い取りリノベーション再販を行う。通算3000組以上の接客経験を活かし、不動産業界の透明化と「不動産屋のアップデート」を目指してXを中心にSNSで発信している。著書に『住む資産形成 資産価値重視で後悔しないマンションの選び方』 X:@inagaki_kizuna YouTubeチャンネル:東京不動産大学 - 都心ブランドマンション購入の専門家 -
藤田祥吾さん(以下、藤田):稲垣さんのおっしゃるとおり、市況が良い時は売るのは高いが買うのも高い、一方、市況が良くない時は売るのも買うのも安いということになりますので、住まいの刷新タイミングに市況を考慮する必要はないと思います。
ただし、期間を空けるのであれは話は別です。たとえば今売って5年後に買うというのであれば市況は大きく変わることが予想されるため、この限りではありません。
資産価値の高いマンションを手に入れたいというニーズも一部ありますが、不動産の買い替えには一定の費用がかかることを忘れてはいけません。マンションの売却には売却金額の3%程度、購入には購入金額の7%程度の諸費用がかかります。マンション価格が上がっているとはいえ、たとえば1億円のマンションを売って1億円のマンションを購入する場合、1,000万円前後の諸費用がかかります。それだけの価値があるかどうか検討する必要があるでしょう。
▲藤田祥吾さん。2022年MBA取得。現場で仲介営業を10年経験し、取引件数は500件以上。賃貸・売買どちらにも精通する。『NHKクローズアップ現代』をはじめ、ABEMAや Bloombergなど、多数メディア出演経歴あり。不動産業界を透明化させ、失敗のない購入と売却のサポートをすることを信条とする X:@fuji_fujita_kun YouTubeチャンネル:【公式】ふじふじ太の湾岸マンションチャンネル
――現在、住宅ローン金利が上昇傾向にありますが、金利的には再取得に適したタイミングと言えるのでしょうか?
高田一洋さん(以下、高田):諸外国に目を向けると、住宅ローン金利は3%〜7%ほどです。金利が上がっているとはいえ、1%やそれを下回る金利でローンが組める国は日本以外にありません。なおかつ住宅ローン控除も受けられる。
加えて、インフレ下でもローン返済額は普通変わりませんよね。すると、インフレが進行した場合の返済フェーズでは、ローンを組んだときに比べて相対的に“お金の価値が下がった状態”で返済するため、負担はむしろ軽くなっていくのです。インフレ下ではお金を借りることのデメリットは少ないですから、金利面で言えば今は住み替えに適したタイミングだと言えます。
過去記事「マンション価格高騰の今、住宅ローンの組み方と『現実的なマンション』の選択をプロが指南!」ではマイホームとローンの選び方を紹介
▲高田一洋さん。大学卒業後、コンサルティング会社に4年、不動産事業を展開するリストグループに10年在籍。在職中に東京都心の高額不動産の売買・賃貸仲介の実績を重ね、2021年に都心6区を中心に扱う不動産会社の一心エステートを創業。著書に『住んでよし、売ってよし、貸してよし。高級マンション超活用術 不動産は「リセール指数」で買いなさい』『マンション売却の錬金術「マンションを売りたい」と思ったら最初に読む本』 X:@Takada_Issin YouTubeチャンネル:たかちゃん不動産
今住んでいるマンション、本当に買い替えるべき?
――住み替えで満足と幸福度を上げるために、どのような点を重視するといいでしょうか?
稲垣:現在住んでいるマンションの売却益の「出口戦略」をしっかり決めるということでしょうか。今の市況では、多くの場合、売却時に利益が出ます。この利益を次に購入するマンションの頭金に充てようと考える方が多いと思いますが、果たしてそれが最適解なのかということです。
たとえば、5,000万円の売却益を得たと仮定します。購入する1億円のマンションの頭金に5,000万円を充てるとすれば、住宅ローンを組むのは5,000万円で済むので、今の金利だと35年間でざっくり500万円〜600万円ほど利息負担が軽減します。
一方で、売却益の5,000万円を運用した場合はどうでしょうか。4%の年利で35年間運用すれば、利益は約1.5億円です。もちろん頭金に充てて毎月の返済額を抑えるメリットはあるものの、日本の住宅ローン金利が著しく低い点を考慮して検討するべきだと思います。
藤田:住まいを見直す理由の多くは「今の家が手狭」ということだと思いますので、満足度と幸福度にこだわるのであれば「広さ」に妥協していただきたくないですね。資産性を気にするあまり、今と変わらない広さのマンションに住み替えようとする方も少なくありませんが、広さは居住満足度に影響する重要な要素です。
広さを重視するとなると立地を見直す必要性も出てきますが、「駅近・築浅・大規模・タワー」といった条件を外せば、まだまだ都心部でも検討できる物件はあります。築年数で言えば20年以上、駅徒歩で言えば10分以上の物件にも目を向けてみると、選択肢は広がると思います。
高田:私自身もマンションを買い替えてきたのですが、いつも重視しているのは通勤時間です。「タイムイズマネー」ですからね。最近は都心のマンションを購入する方のほとんどが共働きですから、通勤時間の短さは時間のゆとり、暮らしのゆとりに直結します。
――近年、注目されている「マンション管理」における注意点はありますか?
稲垣:都心のマンションは十数年にわたって高騰し続けていることから、住人の属性にばらつきが見られるマンションもあります。たとえば、分譲時に坪単価200万円で購入した世帯、コロナ禍に坪単価500万円で購入した世帯、そして今、坪単価700万円で購入する世帯では、年収も価値観も大きく異なります。この違いがさまざまな合意形成を難しくする可能性がある点には注意が必要かもしれません。
高田:数は少ないですが、都心部にも「これまで大規模修繕工事を一度もしてこなかった」「自主管理で修繕積立金がほぼない」といったマンションはあります。これは極端な例ですが、管理状態は必ずしも販売価格に反映されないため、これまでの修繕履歴や今後の修繕計画、修繕費の積立額などを含めた「本質的な価値」を見定めることが大切になってくるでしょう。
住まいのリプレイスは「売り先行」「買い先行」どちらが正解か
――実際に買い替えることが決まった場合、自宅の売却と新居の購入、どちらを先行すればいいのでしょうか?
藤田:「売り先行」と「買い先行」のどちらを選ぶかということになりますが、私がおすすめするのは先に新居を購入・転居してから売却する「買い先行」です。「売らなきゃ買えない」という方が大半だと思いますが、近年は現住居の想定売却益を与信に含めて審査する金融機関が増えているので、保有物件を売る前でも新居のローンを組める方が多くなっています。
それでも融資が組めない場合は「売り先行」で住み替えることになりますが、先に自宅を売却してしまうと仮住まいに移る手間が出てきます。
ただ、「売り先行」には新居の予算が立てやすいというメリットがあります。査定額のとおりに売れるとは限りませんから、売却後の新居購入は精神的安心にもつながると思います。
▲「買い先行」は、既存物件と新居のダブルローンになるリスクがある。一方の「売り先行」は、仮住まいに移るデメリットが生じる
高田:私は、売却と購入を同時に進めることをおすすめしています。売却を済ませて仮住まいに落ち着いてからスタートも切れますが、今は市況があまりにも大きく変化している時期。「売ったはいいけどほしい物件が高くなりすぎて買えない」、あるいは「買ったはいいけど思った金額で売れない」というリスクを避けるため、購入と売却を同時並行で進めていくのがこの2年〜3年のトレンドです。
――実際のところ「買い」と「売り」のタイミングについて、どのように考えて動く方が多いのでしょうか?
澤井慎二さん:「次の家」への期待に気持ちが引き寄せられ、今の家の売却より、自分がどんな家を買えるのか気にされる方が多い印象はありますね。自ら買い先行を選ぶ分にはいいのですが、こうした心理を利用して無理に買い先行をすすめてくる不動産会社もあるので注意が必要です。
売り先行だと仮住まい先に落ち着いてしまい、新居探しを後回しにする可能性も高い。
▲澤井慎二さん。新卒でリクルートに入社、6年間SUUMOに従事し、不動産会社への広告営業を経験する。2018年に不動産テック企業を共同創業した後、2020年に不動産業界に特化したSNSマーケティング会社、ライトドアを設立 X:@sawai_lightdoor
どの控除を選ぶ? 判断の精度が資産を守る
――現在のマンション価格が高水準で推移していることから、売却時に「譲渡所得(売却益)」が出るケースも多いと思います。譲渡所得の特例を活用する際、気をつけておきたい点はありますか?
稲垣:マイホームの譲渡所得を控除できる「3,000万円特別控除」と、新居購入後に所得税と一部住民税を控除できる「住宅ローン控除」が併用できないことですね。譲渡所得にかかる税率は、売却したマンションの所有期間が5年を超えていれば20.315%です。3,000万円特別控除を適用すれば、譲渡所得を最大3,000万円控除できるため、節税効果は最大「3,000万円×20.315%」で600万円強。
一方、中古住宅の住宅ローン控除は借入限度額が最大3,000万円、省エネ住宅などを除く一般住宅は2,000万円、控除率は0.7%、控除期間が10年ですから、最大控除額は210万円(一般住宅の最大控除額は140万円)となります。
したがって3,000万円以上の譲渡所得が出る場合はもちろん、譲渡所得が概ね1,050万円以上であれば、3,000万円特別控除を適用したほうが大切な資産を守ることにつながります。
過去記事「【税務の専門家に聞く】知っておきたいマンション購入時の税金と優遇制度の全貌」では住宅にまつわる税制の全貌を解説
藤田:ただ、住宅ローン控除による控除額は適用を受ける人が納める所得税額などによっても異なるので、どちらを適用すべきかはシミュレーションしなければ分かりません。税務に関する助言は税理士のみが行えるため、不動産会社に紹介してもらうなどして専門家の知見を借りるのが賢明でしょう。
また見落とされがちですが、10年を超えて居住していたマイホームであれば、3,000万円特別控除に加え「軽減税率の特例」が利用できます。最近は譲渡所得が3,000万円を超えるケースも少なくありませんから、こうした控除特例を賢く活用したいですね。
※控除特例などの適用要件や税額などについては国税庁ホームページや税理士の意見を参照してください。
▲プロの知見を借りてシミュレーションもしながら、マンション売却の戦略を立てるのがおすすめだ
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.住み替えの流れは大きく「売り先行」「買い先行」に分かれるということですが、まず始めに何に取りかかればいいのでしょうか?
- A.高田:どちらの順序であっても、まずは現在のマンションの査定をしてみるといいと思います。今はマンション市況がいいので、予想を大きく上回る金額で売れるということも少なくありません。また、自分の与信がどれだけあるかも早い段階で把握しておきたいですね。いずれも自分で把握できるものではありませんので、信頼できる不動産会社に相談することから再取得に向けて動き出すといいでしょう。
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