税理士・山田真哉に聞く、マンション売却時の税金と資産防衛の考え方

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マンション価格が高騰している昨今は、売却益(譲渡所得)に対して課される「譲渡所得税」が想定以上に高額になるケースも少なくありません。マンション売却時の税金について、税理士の山田真哉さんに聞きました。

――マンションの売却にはどのような税金がかかるのでしょうか?

 

山田真哉さん(以下、山田):マンションの売却時にかかる税金は、売買契約書に貼付する印紙税や住宅ローン完済時の登録免許税、そして譲渡所得にかかる住民税・所得税・復興特別所得税が挙げられます。譲渡所得にかかる税金は「譲渡所得税」と総称されることもあります。

 

すべて必ずかかる税金ではなく、印紙税は電子契約であれば非課税、登録免許税は住宅ローン完済済みの場合は課されません。また、譲渡所得が出なければ住民税・所得税・復興特別所得税は課されません。

 

印紙税や登録免許税は税額が決まっています。印紙税額は、売買金額に応じて下表のように変動し、住宅ローン完済時の抵当権抹消にかかる登録免許税額は、ひとつの不動産につき1,000円です。マンションの場合は、土地と建物で2,000円になるのが一般的です。

不動産売買契約書の印紙税の軽減措置

▲不動産売買契約書に貼付する印紙税額は、契約金額によって異なる。契約金額が10万円を超えるもので、2027年3月31日までの間に作成される契約書は、表右の軽減税率が適用される
出典:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」より

――譲渡所得税の税額は?

山田:所得税は、基本的に各種所得金額を合計した総所得金額によって税額を計算する「総合課税」が原則です。しかし、譲渡所得については、他の所得金額と合計せず、分離して税額を計算する「分離課税」となります。分離課税の税率は原則約20%ですが、不動産の短期売買を防止する目的で短期譲渡所得に対する税率は約40%とされています。

 

詳細な税率は以下のとおりです。所有期間は、売却した年の1月1日時点のものを指します。つまり、不動産を取得してから6回以上お正月を迎えたら長期譲渡所得、5回までなら短期譲渡所得となります。

  住民税 所得税 復興特別所得税
短期譲渡所得
(所有期間5年以下)
9% 30% 0.63%
長期譲渡所得
(所有期間5年超)
5% 15% 0.315%

※復興特別所得税は東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保を目的に2037年まで課税される

譲渡所得は、たとえば7,000万円で買って1億円で売った場合の3,000万円の差額を指すわけではなく、次の式で算出します。

課税譲渡所得金額=収入金額ー(取得費+譲渡費用)ー 特別控除額

収入金額は買主から受け取る金銭の額、譲渡費用は不動産を売るためにかかった費用、そして取得費は売却した不動産の購入にかかった費用を指します。取得費については、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた金額となります。

山田真哉さんプロフィール

▲山田真哉さん。公認会計士・税理士。内閣官房行政改革推進会議の「EBPM・歳出改革等有識者グループ」構成員として政策議論にも参画する。自身のYouTubeチャンネル『オタク会計士ch【山田真哉】少しだけお金で得する』は登録者110万人超え。※所属・肩書は取材当時のもの。X:@kaikeishi1

――税率が最大約40%というと譲渡所得によってはかなりの税額になりそうですが、税額を抑えることはできるのでしょうか?

 

山田:売却した不動産が居住用財産であるなど一定の条件を満たせば「3,000万円特別控除」が適用されます。譲渡所得が3,000万円以下であれば、同特例の適用により譲渡所得税は課されません。これまでマンションの売却で3,000万円以上の利益が出るケースはほとんどなかったため「マイホームはほぼ課税されない」と認識されていましたが、近年はマンション価格が著しく高騰しており、3,000万円を超える譲渡所得が出るケースも決して珍しくなくなっています。また、建物の価値が高い高層マンションも増加していることから、建物の減価償却費相当額が大きくなり、結果として譲渡所得が生じるケースも増えている状況です。

 

所有期間が10年を超える居住用財産の場合は、一定の条件を満たすと「軽減税率の特例」が適用されます。これは譲渡所得の一部の税率を抑えられる特例で、3,000万円特別控除と併用できます。

 

また、取得費用や譲渡費用が多ければ多いほど譲渡所得は下がりますから、これらの費用を漏れなく計上することも大切です。

【取得費用となるもの】

・売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料の他設備費や改良費
・土地や建物を購入(贈与、相続または遺贈による取得も含む)したときに納めた登録免許税(登記費用も含む)、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税
※業務の用に供される資産の場合には、これらの税金は取得費に含まれません。
・借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせるために支払った立退料
・土地の埋立てや土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
・土地の取得に際して支払った土地の測量費
・所有権などを確保するために要した訴訟費用
※これは、たとえば所有者について争いのある土地を購入した後、紛争を解決して土地を自分のものにした場合に、それまでにかかった訴訟費用のことをいいます。なお、相続財産である土地を遺産分割するためにかかった訴訟費用等は、取得費になりません。
・建物付の土地を購入して、その後おおむね1年以内に建物を取り壊すなど、当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壊しの費用
・土地や建物を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
・既に締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金

参考:国税庁「No.3252 取得費となるもの」より

【譲渡費用となるもの】

・土地や建物を売るために支払った仲介手数料
・印紙税で売主が負担したもの
・貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
・土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額
・既に売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で売るために支払った違約金
※これは、土地などを売る契約をした後、その土地などをより高い価額で他に売却するために既契約者との契約解除に伴い支出した違約金のことです。
・借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など

参考:国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」より

――近年、マンションを相続するケースも増えていますが、相続したマンションの売却時に使える控除特例はありますか?

 

山田:相続したマンションの売却では「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」が適用になる可能性があります。これは相続した際に納税した相続税の一部を取得費に加算することで、譲渡所得を下げる効果のある特例です。

山田真哉さん「マンション売却時、大切な資産を守るための選択肢は複数あるので見極めが肝心だ」

▲マンション売却時、大切な資産を守るための選択肢は複数あるので見極めが肝心だ

――控除特例の適用における注意点は?

 

山田:まず、譲渡所得が出た場合は必ず確定申告が必要ということです。たとえば、3,000万円特別控除を適用することで税額がゼロになったとしても、適用するためには確定申告が求められます。

 

また、3,000万円特別控除・軽減税率の特例と住宅ローン控除は併用できません。住宅ローン控除は、居住年およびその前2年に加え、その後3年間、譲渡所得の課税の特例を受けていないことが適用要件のひとつです。「併用した場合、最初の3年間だけ住宅ローン控除が受けられない」と捉えている方もいますが、実際には居住開始時に適用できなければ住宅ローン控除を受けることができません。

 

事前にどちらを適用すべきかシミュレーションして決定することになると思いますが、2026年度税制改正によって中古住宅の住宅ローン控除が大幅に拡充する見通しです。国会で可決されれば2026年1月1日に遡って適用されることになりますので、税制改正後の控除期間や借入限度額等をよく確認しておきましょう。

 

 

――適用要件における注意点は?

 

山田:適用要件の中で気をつけなければならないのは、適用期限です。3,000万円特別控除、軽減税率の特例ともに、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却しなければ適用となりません。住まなくなってから長期間放置していたり、賃貸に出したりして適用期限を超えてしまった場合は、かつて自己居住用財産だったとしても適用できません。

 

一方、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例は、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日が適用期限です。相続税の申告期限は10ヵ月ですので、売却後、約3年10ヵ月が適用期限となります。

山田真哉さん「うっかり時間が経過して控除が受けられない、という事態を避けるためにも、あらかじめ制度の概要を把握しておきたい」

▲うっかり時間が経過して控除が受けられない、という事態を避けるためにも、あらかじめ制度の概要を把握しておきたい

――その他に注意点はありますか?

 

山田:これは控除特例の適用有無にかかわりませんが、購入時の金額がわからないことで譲渡所得が跳ね上がってしまうこともあります。購入金額の根拠となる売買契約書等を紛失してしまうなどして取得費がわからない場合は、原則、売った金額の5%相当額を取得費とします。この場合、たとえば5,000万円で売却した不動産の取得費が250万円とみなされてしまうわけですから、譲渡所得が高額になりやすくなってしまいます。相続した不動産は特に売買契約書が見つからないケースも少なくありません。

 

 

――税額の計算や確定申告などは、自分でできるものなのでしょうか?

 

山田:基本的には自分でできるようになっています。適用要件の詳細などは国税庁のホームページで確認できますし「タックスアンサー(よくある税の質問)」のページもわかりやすいと思います。確定申告についても、譲渡所得や減価償却費相当額の計算式はややこしいものの、e-Taxに必要事項を入力していけば自動で計算していってくれるので、購入・売却にかかった費用や取得時期などがわかるものを手元に揃えておけば、そこまで難しいものではありません。

 

 

――税理士に相談すべきケースとは?

 

山田:必ずすべきというわけではありませんが、買い替えや相続不動産の売却で譲渡所得が出た場合で、計算方法や控除特例の選択に悩むのであれば相談してみるといいと思います。マンションを売却してくれた不動産会社が税理士を紹介してくれることもありますし、無料の税務相談会等を開催していることもあります。

 

税理士目線でいえば、売却後の確定申告時期が迫っているタイミングではなく、できればマンションを売る前にご相談いただきたいですね。マンションを売る前であれば、たとえば税率が下がるタイミングや、どの控除特例を適用すべきかについても助言させていただきやすいです。

 

 

取材・文:亀梨奈美 撮影:ホリバトシタカ

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.譲渡所得が出ず、逆に損失が出てしまった場合に節税につながる特例はありますか?
A.山田:譲渡所得がマイナスになることを「譲渡損失」と呼びますが、長期譲渡所得に該当する居住用財産の場合、譲渡損失を給与所得などその他の所得と損益通算および繰越控除できる可能性があります。譲渡損失が出た場合は確定申告が必須ではありませんが、同特例の適用には確定申告が必要です。