市街地再開発とは?専門家が語る都市づくりの今と未来!

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「市街地再開発」は、都市の機能を現代のニーズに合わせて更新し、土地をより効率的かつ健全に利用するための事業です。本記事では、不動産ライターの神納まおさんが、市街地再開発の定義や目的、必要とされる背景、具体的な進め方について解説します。 再開発事業のメリット・デメリット、補助金制度、地権者が知っておくべきポイント、地域や不動産価値への影響、そして国内外の成功事例まで、市街地再開発の「今」と「未来」を専門家の視点から深掘りします。都市計画や不動産投資に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。

神納まおさん
 

【プロフィール情報】

 

神納まお(不動産ライター)
不動産総合デベロッパーでの勤務を経てWebライターへ。不動産売買、建築、不動産投資に関する記事を執筆しています。執筆実績400記事以上。

都市開発の工事

 

――市街地再開発とは何でしょうか?分かりやすく教えてください。

 

神納まお(以下、神納):「市街地再開発」とは、都市の機能を現代のニーズに合わせて更新し、土地をより効率的かつ健全に利用するための事業です。

 

 

――具体的に何を行うのでしょうか。

 

神納:都市再開発法に基づき、老朽化した木造の家の密集、土地の区画の過度な細分化、公園や道路といった公共施設の不足など、都市が抱える課題を解消します。

 

 

――市街地再開発の目的は何でしょうか。

 

神納:主な目的は細分化された敷地を一つにまとめ、共同で利用できる不燃性の高い建築物を建設することです。それと同時に、広場、街路、公園などの公共施設を整備して、快適で安全な都市空間を再生することを目指しています。簡単に言えば、都市全体の機能を向上させ、より魅力的な街へと生まれ変わらせることが大きな目的ですね。

 

 

――なぜ市街地再開発が必要とされているのでしょうか。

 

神納:大きな理由は災害対策です。日本の都市部では、戦後の高度経済成長期に建設された木造建築物が密集し、老朽化が進んでいる地域が少なくありません。こうした地域は、地震や火災が発生した際、被害が広がりやすいという問題を抱えています。日本は特に地震が多い国なので、「安全で安心して暮らせる街」を実現するためには市街地再開発が必要なのです。

 

 

――具体的に、都市が抱える脆弱性や課題にどのように対応するのですか。

 

神納:たとえば、老朽化した建物を不燃化・耐震性の高い共同建築物に建て替え、さらに広場や避難経路、緊急車両の通行路などを確保することで、都市全体の防災能力を向上させます。

 

 

――他に、市街地再開発はどのような社会的問題に対応しているのでしょうか。

 

神納:日本では少子高齢化と人口減少が進行し、住宅の供給過剰や空き家問題などが顕在化しています。そのため、都市計画は拡大から持続可能なものへの転換が求められているのが実情です。市街地再開発は都市機能を効率的に維持・更新し、持続可能なものにするまちづくりへ寄与するでしょう。

 

 

都市部の再開発風景

 

――市街地再開発の進め方や具体的な流れについて教えてください。

 

神納:最も一般的な「組合施行」の場合を例にすると、まず「1.発意・勉強会」「2.基本計画の作成・準備組織の設立」「3.都市計画決定」「4.事業認可・組合設立認可」「5.権利変換計画認可」「6.既存建物の除去・着工」「7.工事完了・清算・権利引き渡し」「8.組合解散・新ビル運営」という8つのステップがあります。

 

 

――「1.発意・勉強会」から「4.事業認可・組合設立認可」までを具体的に教えてください。

 

神納:まちづくりへの関心は、地域住民や地方公共団体からの「この地域を良くしたい」という思いから始まります。そのため、「1.発意・勉強会」で課題や将来像を共有するのが最初のステップです。

 

次に、「2.基本計画の作成・準備組織の設立」において市町村が基本計画を作成し、地権者は準備組合を設立して事業内容を調整します。その後、「3.都市計画決定」で地方公共団体が都市計画を決定し、区域や公共施設の配置を定め、「4.事業認可・組合設立認可」にて都道府県知事から事業認可と組合設立認可を受けて再開発事業が本格的に進行する流れです。

 

 

――「5.権利変換計画認可」から「8.組合解散・新ビル運営」までを具体的に教えてください。

 

神納:「5.権利変換計画認可」の「権利変換計画」は、地権者の土地や建物の権利を新しい建物の専有部分や共有部分の権利として割り当て直す計画で、都道府県知事の認可を受けて確定します。そして権利変換後、「6.既存建物の除去・着工」となり、「7.工事完了・清算・権利引き渡し」を経て「8.組合解散・新ビル運営」で再開発組合は解散し、新たに管理組合が設立されてビルの維持管理を引き継ぎ、完了となります。

 

 

――再開発事業のメリットについて教えてください。

神納:再開発をすると住宅、商業施設、医療や保育施設など多様な都市機能を集約でき、生活の利便性が大幅に向上することが大きなメリットです。利便性が高くなるだけではなく、防災・安全性も強化されます。街並みも計画的に美化されるので、地域のブランド価値の高まりも期待できます。また、新たな商業施設やオフィスが建設されれば雇用創出や地域経済の活性化にもつながります。

 

 

――続いて、デメリットを教えてください。

 

神納:再開発によって街が大きく変わることは、メリットでありデメリットでもあります。元々住んでいた方の中には、今まで住んでいた街が変わることで、ストレスを感じる方もいるでしょう。また街の雰囲気が変わり、引っ越してくる方が増えれば治安にも変化が見られるかもしれません。他にも居住維持費の高騰や、転出・転移に伴う負担、事業中の計画変更・遅延のリスク、地権者間の対立などもデメリットと言えます。

 

 

――市街地再開発に対して、補助金や助成制度はありますか?

 

神納:市街地再開発事業では、国や地方公共団体によるさまざまな補助金や助成制度を利用できます。代表的な補助制度が、国土交通省が所管する「社会資本整備総合交付金」です。再開発事業と一体的に整備される都市計画道路などについては、道路事業として費用の一部が別途補助されるケースもあります。

 

 

――地方公共団体による独自の助成制度にはどのようなものがありますか?

 

神納:たとえば札幌市では、再開発事業を主体とした住民活動を支援する「再開発促進助成制度」を独自に設けています。まちづくりを積極的に進めようとする団体に対して、その活動に要する費用の一部を助成する制度です。

 

 

――他にも助成制度はあるのでしょうか

 

神納:市街地再開発事業においては、事業の円滑な推進を目的として、さまざまな税制上の優遇措置が認められています。具体的には、所得税・法人税の軽減や、不動産取得税・固定資産税の減免、登録免許税・事業所税の軽減などです。

 

税制優遇があることで、再開発事業の経済的な採算性が向上し、地権者や事業者が事業に参加しやすくなります。ただし、一部の事業制度では税制優遇の対象とならない場合もあるため、個別の事業計画に基づいて詳細を確認することが大切です。

 

 

市街地開発の風景

 

――市街地再開発において、地権者や住民は何をするべきでしょうか?

 

神納:市街地再開発事業は、地権者や住民の生活に長期的な影響をおよぼすので、事前にどのような開発が行われるのかポイントを把握し、適切に対応しておくことが非常に大切だと思います。

 

 

――具体的にはどのようなことがポイントになるのでしょうか。

 

神納:具体的には、再開発の内容確認、自身が所有する権利と資産価値の把握、法的な問題に関する専門家への相談などが挙げられます。また、転出(立ち退き)の選択肢の検討と補償内容の確認、地域コミュニティとの連携と情報共有も必要です。

 

一部の地権者や協力事業者によって強引に事業が進められ、経済的に弱い地元住民や資本力の弱い地元事業者が切り捨てられるリスクもあります。地域全体で情報を共有することも大切だと言えます。

 

その他、工事期間中の仮住まいや再入居後の新しい生活環境など、長期的な視点で生活再建計画を立てておきましょう。

 

 

――市街地再開発は地域や不動産価値へどのように影響しますか?

 

神納:再開発が行われるエリアでは、中長期的に地価や賃料が上昇する傾向にあります。その主な理由は、利便性の向上、街のブランド価値向上、雇用の創生と人口流入などです。また、再開発計画の発表により、その地域に対する期待感からも不動産取引は活発化します。

 

 

――周辺地域には影響はないのでしょうか。

 

神納:周辺地域にも影響は出てきますね。たとえば、再開発エリアにアクセスしやすい周辺地域は、通勤・通学などの需要の増加によって地価や賃料の上昇が起こる可能性があります。特に、新駅の開業や最寄駅の停車本数増加など、交通面で利便性が上がる場合はより影響は強くなると思います。

 

一方で、再開発地域へのアクセスが悪い周辺地域では、賃貸需要の一部がアクセスの良い地域に移ってしまう可能性があるでしょう。これにより、逆に地価や賃料が下がるリスクもあります。

 

 

――大規模都市開発の成功事例と、成功要因を教えてください。

 

神納:一つ目は、大阪の「グラングリーン大阪(うめきた2期)」です。成功要因としては、鉄道の地下化や大規模な土地区画整理によって、国内外からのアクセス性が高まったことが挙げられます。特に、関西国際空港へのアクセス改善は国際競争力強化に大きく貢献している要素です。また、「UMEKITA PARK」を中心に緑とイノベーションを融合した都市づくりや、多彩な複合施設を整備したことで、持続可能な都市生活を実現した点も評価ポイントです。

 

二つ目は、森ビルが30年以上の歳月をかけて完成させた東京都港区の「麻布台ヒルズ」です。約8.1ヘクタールの広大な敷地に、高さ330mの「森JPタワー」を含む3棟の超高層タワーと低層棟が配置され、住宅、オフィス、商業施設、ホテル、文化施設、教育機関などがシームレスに融合しています。成功要因として評価されているのは、3つの高層タワーが豊かな緑に溶け込むようにデザインされ、「立体緑園都市」構想を実現し、都市の中に癒しのオアシスを創生している点です。さらに、環境とウェルネスに配慮した取り組みの実施や、最先端の防災性能と都市機能を集約している点も高く評価されています。

 

 

――地方都市の再開発・まちづくりの成功事例を教えてください。

 

神納:富山市のコンパクトシティ戦略や、和歌山市駅前地区再開発が挙げられます。富山市のコンパクトシティ戦略は、街の中心地に都市機能を集約し、高齢者や子育て世帯にも住みやすいまちづくりを進めた例です。自治体が長期的な視点で政策を推進し、住民の理解を得ながら計画を進めたことや、郊外の無秩序な開発を抑制したことが成功要因として評価されています。

 

和歌山市駅前地区再開発では、学校跡地を活用した大学誘致や文化施設の整備と連携し、駅前に商業、ホテル、市民図書館、駐車場などを整備しました。都市機能の集約・連携や、周辺地域でのマンション・飲食店の建設などにより、経済的な好循環が生まれたことが成功要因とされています。

 

 

――成功要因に共通点はあるのでしょうか。

 

神納:明確なビジョンと戦略、ステークホルダーとの連携や合意形成などが大きな成功要因だと考えています。都市が抱える本質的な課題を見つけ、地域住民と一体となって解決していく姿勢が大切ですね。また、地域資源を活用した新たな価値の創造、持続可能なまちづくり、柔軟な計画とマネジメントが敷かれていることも共通点です。

 

 

――都市づくりの未来はどうなっていくと思いますか。

 

神納:今後の都市づくりにおいては、物理的なインフラ整備だけではなく、住民の生活の質向上のための「人」を中心としたまちづくりが求められるでしょう。当然、実現には柔軟で適応性の高い計画が不可欠です。スマートシティ※の概念を取り入れ、都市機能の効率化や住民サービスの向上を図ることで、より持続可能な都市モデルを構築していくことも期待されます。

 

※スマートシティ
IT技術などで都市機能を最適化した街のこと。

 

市街地再開発は、過去の課題を克服して現在のニーズに応え、そして未来の世代に豊かな都市環境を引き継ぐための終わりのない挑戦です。この挑戦を通じて、私たちの都市は常に進化し、より良い未来を築いていくでしょう。