ALC造とは?建築現場のプロが語る特徴とメリット

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ALC造について、一級建築施工管理技士の山本悠太さんに解説いただきました。ALCとは「Autoclaved Light weight aerated Concrete」の略で、発泡剤を使って作られた軽量気泡コンクリートのことです。ALC造は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物の外壁、間仕切り、床などにALCパネルを使用した建物を指します。 本記事ではALC造の主な特徴やメリット、施工における注意点、コスト、メンテナンス性について詳しく解説しています。ALC造の建物に興味がある方はぜひ参考にしてください。

山本悠太さん
 

【プロフィール情報】

 

山本悠太(一級建築施工管理技士)
2013年に新卒で大手ゼネコンに技術職(施工管理)として入社。9年間勤務し、大型研修施設、高層マンション、大規模倉庫を担当。2022年よりリフォーム会社へ転職。現在も、店舗内装など小規模物件の施工管理に従事する。

ALC構造住宅の外壁

 

――ALC造とはどういった建築工法ですか?初めて聞く方にも分かりやすく教えてください。

 

山本悠太(以下、山本):ALCは、「Autoclaved Light weight aerated Concrete」の略で、発泡剤を使って作った軽量気泡コンクリートのことです。ALC造とは、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物の外壁や間仕切り、床などにALCを板状に整形したパネル(ALCパネル)を使用した建物を指します。

 

 

――いわゆる「コンクリート」とALCは何が違うのでしょうか。

 

山本:ALCは内部に無数の気泡を含んでおり、見た目や質感などの点で一般的なコンクリートとは異なります。たとえば、ALCは素地の状態だと白くて表面が粗いのが特徴です。

 

 

――ALC造の建物は見た目で分かるものでしょうか。

 

山本:外壁にALCパネルを使用する場合、表面に塗装を施すため一見するとコンクリートとあまり変わりません。また、表面にストライプやレンガ風などのデザインを施した意匠パネルと呼ばれるALCパネルもあるため、見た目だけでは判断が難しいことも多いですね。とはいえ、一般的なALCパネルを使用した建物の場合、塗装の上からALCパネルのジョイントが見えるため、よく見れば判断することは可能だと思います。

 

 

――ALCは軽量気泡コンクリートとのことですが、強度は問題ないのでしょうか。

 

山本:ALCは一般的なコンクリートと比較すると割れや欠けが生じやすく、そのままの状態では強度面に不安があります。ただし実際は、外壁や間仕切り、床など、使用される場所に応じて鉄筋や溶接金網を入れるなどして適切な補強を行うため、強度に問題はありません

 

 

――ALCパネルにはどんな特徴がありますか? 他の外壁材との違いを教えてください。

 

山本:一番の特徴は「軽さ」です。同じ大きさのコンクリートと比較するとおおよそ4分の1程度の重量のため、建物への負担を減らすことができます

 

 

――軽さ以外にはどのような利点があるのでしょうか?

 

山本:ALCはコンクリートよりも熱伝導率が低く、10倍程度の断熱性能があるといわれています。また、ALCは不燃材料のため防火性にも優れている点が強みです。

 

 

――断熱性能が優れているとのことですが、外壁にALCパネルを使用すると断熱をする必要はないのでしょうか?

 

山本:コンクリートと比較すると熱伝導率が低いというだけなので、外壁にALCパネルを使用している場合でも建物の内側から断熱工事を行う必要があります。

 

 

――ALCパネルの耐久性は、他の外壁材と比較するといかがでしょうか?

 

山本:サイディングなどと比較すると強度もあり、耐久性は高い素材です。また、ALCパネルは耐用年数が50年程度ともいわれているため、適切なメンテナンスを行えば長く安心して住むことができます。

 

 

ALC構造のマンション

 

――ALC造はどのような建物に使用されるのでしょうか?

 

山本:ALC造は、ALCパネルを外壁などに使用した建物を指します。ALCパネルは鉄骨造やRC造の建物において外壁や間仕切りとして使われることが多く、マンション、オフィスビル、学校、病院、商業施設などさまざまな建物で使用されています。

 

 

――ALC造が採用される理由はあるのでしょうか?

山本:ALCパネルが多くの建物に採用されている背景として、耐火性や防音性、耐久性などに優れている点が挙げられます。ただし実際にALCパネルが採用されるかどうかは、建物のデザインによるところも大きいと思います。また、工期やコストなどの兼ね合いから、RC造では耐力壁のような構造上重要な壁以外にALCパネルが採用されるケースも多くあります

 

 

――戸建て住宅ではALCパネルは使われないのでしょうか?

 

山本:いえ、戸建て住宅でもALCパネルを採用する場合はあります。たとえば、鉄骨造の戸建て住宅では、外壁材としてALCパネルが使用されることもありますね。木造住宅でも、構造用合板という木材のかわりに床に使用されるケースがあります。

 

 

――木造住宅において、構造用合板ではなくALCパネルを使用するメリットは何でしょうか。

 

山本:構造用合板と比較すると、遮音性や防火性が高い点がメリットです。

 

 

――現場でALCパネルを扱う時、特有の注意点はあるのでしょうか?

 

山本:ALCパネルは割れ欠けが起こりやすいので、運搬時や施工時にぶつけたりしないよう、慎重に扱う必要があります。また、素地の状態だと水を吸収しやすいことから、水気にも注意しますね。たとえば、雨がかかるような場所で保管する場合は、ブルーシートなどでしっかり養生しなければなりません。

 

 

――水に弱いALCパネルを外壁で使用することは問題ないのでしょうか?

 

山本:外壁でALCパネルを使用する場合、表面を防水効果のある塗装などで保護するため問題ありません。

 

 

――他にALC造の注意点はありますか?

 

山本:ALCパネルは表面強度が低いため、大判タイルや石など重量のある仕上げ材を直接張り付けるのは避けたほうがよいとされています。大判タイルや石などの材を張る場合は、ALCではなくECP(押出成形セメント板)と呼ばれる強度の高いパネルを採用するのが一般的です。

 

 

――技術的に工夫が必要なことはありますか?

 

山本:ALCパネルを外壁で使用する際は、雨水が建物内に浸入しないように工夫が必要です。たとえば、立ち上がりを設けてその上にALCパネルを施工する、ALCパネルの継ぎ目などの隙間はすべてシーリング材を充填する、などの対策が有効です。

 

 

山本:ALCパネルのおおまかな施工手順としては、「下地の確認」「下地金物の溶接」「ALCパネルの取り付け」の3つの工程にわけられます。

 

 

――「下地の確認」では、具体的に何を行うのでしょうか。

 

山本:金物を取り付けるための下地が、正規の位置にあるかどうかを確認します。下地とは金物を溶接するためのプレートで、ALCパネル取り付け工事の前段階で仕込んでおく必要があるものです。コンクリートに埋め込んだり、鉄骨に溶接したりとさまざまな方法で取り付けられます。現場では、ALCパネルの施工とは別の作業員が仕込むことになるため、ALCパネルの施工前に改めて下地の確認を行うことが重要です。

 

 

――「下地金物の溶接」とは、どのような工程でしょうか。

 

山本:アングルと呼ばれる鋼材を溶接し、ALCパネルを設置するための下地を作る工程です。アングルはALCパネルの上下や開口部分などに設置され、これによりパネルの位置が決まるため精度の高い技術が求められます。

 

 

――「ALCパネルの取り付け」はどのように行うのでしょうか。

 

山本:溶接した下地金物に沿ってALCパネルを取り付け、Z金物と呼ばれる専用の金物で固定します。ALCパネルは重量のある材料のため、現場の状況に応じて小型の揚重機※などを使用して取り付ける場合もあります。

 

※揚重機
重量のある資材などを持ち上げるための機器。ウインチ、フォークリフト、クレーンなど。

 

 

外壁を検査する作業員

 

――初期費用など、ALC造のコスト面についても教えてください。

 

山本:初期費用の面では、サイディングなどの外壁材と比較すると割高になる可能性もあります。しかし、ALCパネルは耐久性が高い分、表面の塗装とシーリング材のメンテナンスをしっかり行えば、よい状態を長期間維持できます。そのため、長い目で見るとコストパフォーマンスはよいと言えるでしょう。

 

 

――ALC造の場合、どのくらいの頻度でメンテナンスを行うのでしょうか?

 

山本:外壁の塗り替えやシーリング材の打ち替えといったメンテナンスは使用する材料によって異なりますが、おおむね10年から15年程度の周期で行うのが一般的です。

 

 

――10年は何もしなくてもよいということですか?

 

山本:あくまで目安ですので、定期的な点検は必要です。気候条件や自然災害などさまざまな要因により、想定よりも劣化が進んでいる場合もあります。そのため、「10年は何もしなくてよい」わけではなく、専門業者による定期的な点検を行うことをおすすめします。

 

 

――ALC造について、よくある誤解は何でしょうか?

 

山本:よくあるのは、「ALCパネルは水に弱いから劣化しやすいのではないか?」という誤解です。確かにALCパネルの吸水性が高いのは事実ですが、塗装やシーリングで適切に保護することで劣化は防げるので過度に心配する必要はありません。

 

 

――次によくある質問を教えてください。

 

山本:断熱性能がコンクリートの10倍あるといった情報があるため、「断熱材は必要ありませんよね?」といった質問をよくいただきます。結論から言うと、ALC造でも断熱材は必要です。

 

確かに、熱伝導率はコンクリートが1.6W/m・K※なのに対して、ALCは0.17W/m・Kなので10倍というのは間違いではありません。しかし、代表的な断熱材であるウレタンフォームは、熱伝導率がおよそ0.04~0.026W/m・Kと、圧倒的に熱を伝えにくい素材です。数値を比較すれば、ALCパネルだけでは断熱性能が不足していることは明らかでしょう。そのため、外壁にALCパネルを使用したとしても断熱工事は必要です。

 

※W/m・K
熱伝導率を表す単位。数値が小さいほど熱が伝わりにくいことを示す。

 

 

――遮音性の面ではいかがでしょうか。

 

山本:ALCパネルは遮音性能にも優れています。たとえば、集合住宅で隣の部屋と接する壁に相応の遮音性能が必要な場合でも、認定を受けたALCパネルを使用すれば問題ありません。

 

 

――ALC造の技術について、課題などはありますか?

 

山本:昔に比べるとかなり進化しているため、現状大きな課題はないと感じています。性能に関しても改善されていますし、工法に関しても昨今ではロッキング工法※が採用されるケースが多く、地震時の破損や脱落を防止する仕様になっています。

 

※ロッキング工法
地震が発生した際、外壁のパネルが躯体とは異なる微小回転(ロッキング)して外壁への負担を抑える工法。

 

 

――それでは、ALCの技術は今後どう進化していくとお考えですか?

 

山本:現在も耐久性や断熱性などに優れた商品は多くありますが、今後は性能や施工性などで、より優れた商品が登場すると思います

 

 

――性能が上がると、施工性にも影響はあるのでしょうか?

 

山本:たとえば、断熱性能が向上した「断熱工事が不要なALCパネル」が登場すると、工期短縮・コストカットなど多くのメリットがあります。また、さらなる軽量化や設置方法の簡素化が進めば、少人数でも施工できるようになるでしょう。今後は職人不足などの問題がさらに深刻化することが懸念されるため、施工性における進化を期待しています。