道路斜線制限は、道路に面した建物の高さに制限を設けるルールで、都市の景観と住環境を守るために重要です。住宅ライターの村田日菜子さんに、この制限の背景や適用条件、道路の幅や建物の配置による制限の変化、そして新築時に考慮すべき点について詳しく解説いただきました。斜線制限によって生じる建築上の制約や、北側斜線制限・隣地斜線制限との違い、建築士や設計士による工夫も紹介。理想の住まいを実現するためのアドバイスも満載です。
【プロフィール情報】
村田日菜子(住宅ライター)
住宅ライター事務所イエコト代表。Webコラムや住宅情報誌を中心に、住宅購入やリフォームのノウハウ、マネー情報、専門家取材記事などの執筆・編集を手掛けています。
そもそも「道路斜線制限」とは
――まず、「道路斜線制限」とは具体的にどのようなものでしょうか?
村田日菜子(以下、村田):道路斜線制限とは、道路に面した建物の高さに制限を設けるルールです。簡単に言うと、「道路の反対側から一定の角度で斜めに線を引き、その斜線内に建物を収めることで建物が高くなりすぎないようにしましょう」という決まりになっています。
街中で、道路側の上部が斜めに削られたような形状の建物や、上層階が小さく作られているマンションを見かけないでしょうか?そういう形状の建物は、斜線制限によるものが多いんです。
――どのような「斜めの線」を引くのでしょうか?
村田:地域によって決められた勾配に従って線を引きます。斜線のスタート地点は、敷地が面している道路の反対側の境界線です。そこから住居系の用途地域では「1:1.25」、商業系・工業系の用途地域では「1:1.5」の勾配で斜線を引きます。「1:1.25」というのは、水平に1m進むごとに1.25m上がる斜線なので、商業系・工業系よりも住宅系地域のほうが高さ制限は厳しいことになります。
ただし、道路から一定以上の距離が離れたところからは、道路斜線の高さ制限は受けません。この「適用距離」は用途地域や容積率(敷地面積に対する建物の延床面積の割合)によって異なり、住宅系地域であれば20〜35mの範囲で決められています。
道路斜線制限が設けられている背景
――なぜこのような制限が必要なのでしょうか?
村田:道路斜線制限の最大の目的は、道路の採光や通風の確保です。たとえば、狭い道路の隣に背の高い建物が並んでいると、非常に圧迫感があり、道路に日も当たりにくくなりますよね。風通しが悪くなると、空気の循環も遮られてしまいます。そのため、道路斜線制限によって道路の近くの建物の高さを抑えて、日当たりや風通しを良くしているんです。
道路斜線制限の適用条件
――道路斜線制限は、どのような場合に適用されるのでしょうか?
村田:道路斜線制限は、すべての用途地域で適用されます。そのため、家を建てる際には少なからず影響がおよぶと理解していただくと良いでしょう。ただし2003年に導入された「天空率」をうまく使い、斜線制限と同等以上の採光や通風が確保されていると評価されれば、斜線制限を緩和できます。「天空率」とは、ある地点から魚眼レンズで天空写真を撮影したときに、建物が映し出されている範囲を除いた空の見える割合です。また、建てる土地によっては緩和措置の対象となり、家を建てられる範囲が広がる場合もあります。
――その「緩和措置」とは、具体的にどのような内容ですか?
村田:たとえば、「高低差緩和」があります。敷地が道路よりも高い位置にあると、道路斜線制限で建築できる範囲が低くなってしまいますよね。そのため、道路との高低差が1m以上ある敷地では、道路から「(高低差-1m)÷2」の計算式で算出される位置が斜線のスタートになります。高低差が1.8mあれば、0.4m高い位置から斜線がスタートするということです。他にも、道路の向こう側に公園・広場・水面がある場合、それらの反対側の境界線から斜線が始まる「水面緩和※」など、さまざまな緩和措置があります。
道路の幅や建物の配置による制限の変化
――道路の幅が広ければ、それだけ高い建物が建てられるということですか?
村田:その通りです。幅の広い道路に面していれば、斜線のスタートが敷地から遠くなるため、高さの制限が緩くなります。また、第一種・第二種低層住居専用地域以外の住宅系地域では道路の幅が12m以上の場合に道路幅の1・25倍より先の範囲で斜線の勾配が「1:1.25」から「1:1.5」に緩和されるので、より高い建物を建てることが可能です。
――建物の配置や敷地の使い方で、制限を軽減する方法はありますか?
村田:はい。代表的なのが、建物の位置を前面道路から後退(セットバック)させる方法です。通常は道路の反対側の境界線が斜線のスタート位置ですが、建物を後退させると、反対側の境界線も同じ距離だけ後退したものとみなして斜線が引かれます。道路にぴったり寄せて建てたほうが良いのか、道路から少し離して建てたほうが良いのかは、その土地の形状や道路の幅によって異なるため、検証が必要です。
――複数の道路に面した土地の場合はどうなるのでしょうか?
村田: 2つ以上の道路に面している場合、基本的にはそれぞれの道路に対して斜線制限が適用されます。角地では建蔽率(敷地面積に対する建築面積の割合)が緩和されるため、大きな建物が建てやすそうに思えますが、前面道路が狭いと両方の道路からの斜線でボリュームが削られてしまう場合があるので注意が必要ですね。
一方で、狭いほうの道路を広いほうの道路幅とみなして検討できる「2道路緩和」と呼ばれる規定もあります。ただし敷地全体に適用できるとは限らないため、土地ごとに確認が必要です。
道路斜線制限によって発生しやすい建築上の制約
――住宅設計において制約が出やすいケースはありますか?
村田:戸建て住宅の場合、通常の2階建てであれば影響を受けないことが多いのですが、狭小地で3階建てを計画するような場合には大きな影響を受けることがあります。都心部の狭小地で、特に狭い道路に面した敷地を購入する場合には注意したほうが良いですね。
――具体的にはどのような制約が出てくるのでしょうか?
村田:たとえば、「子ども部屋にロフトがほしい」というご要望に対し、道路斜線制限が影響して、天井高の確保が難しくなるケースは少なくありません。そうした場合、ロフトの高さを建築基準法で定められた1.4m以下に収めながら、屋根の傾斜で生まれたスペースを小屋裏収納として活用するなど、設計上の工夫で解決を図ります。
「北側斜線制限」や「隣地斜線制限」との違い
――「北側斜線制限」とはどういうものですか?
村田:北側斜線制限は、敷地の北側にある土地の日当たりを確保するためのルールです。良好な住環境を守るためのルールなので、住宅系の地域のみで適用されます。敷地の北側境界線から一定の高さ(5mもしくは10m)を取り、そこから一定の角度で斜線を引いて建物の高さを制限するものです。こうすることで、北側の隣家が南からの日当たりを一定時間確保できるようにします。
――「隣地斜線制限」とはどういうものですか?
村田:隣地斜線制限は、商業地域や工業地域など高層建築が建てられるエリアにおいて、日当たりや風通しなどの面で周囲への影響を抑えるために設けられたルールです。敷地の境界線から一定の高さまでは垂直に建物を建てられますが、その高さを超えると、一定の角度で引かれた斜めの線の範囲内で建物を建てるように制限がかかります。隣地斜線は高さ20mまたは31mの地点からスタートするため、一般的な戸建て住宅を建てる場合に影響するケースはほとんどありません。
道路斜線を考慮する際に建築士や設計士が行う工夫や調整
――建築士や設計士はどのように道路斜線制限を確認しているのでしょうか。
村田:まずは、建蔽率・容積率から建物の平面的なボリュームを算出することから始めます。次にざっくりとした道路斜線制限の影響を考え、建物の大まかな配置や高さ、セットバックの必要性などを検討します。そして最終的に3次元CADで斜線制限を立体的に表示することで、規制に干渉していないかを詳細に把握する流れです。
――設計段階での具体的な対応方法を教えてください。
村田:よく取られる手法が、屋根形状の工夫です。たとえば、斜線に沿って屋根を斜めにカットした「片流れ屋根」にしたり、建物の上階部分を道路から後退させたりします。シンプルな箱型の建物をイメージしていても、法的な制約から、どうしても屋根形状の変更が必要になるケースは珍しくありません。
しかし、その制約によって生まれたデザインが、かえって建物全体の良いアクセントとなり、個性的な外観を生み出すこともあります。制限をネガティブに捉えるだけでなく、どうデザインに活かすかという視点も大切です。
新築を計画している人へのアドバイス
――土地選びの段階で注意すべきポイントはありますか?
村田:土地の資料に記載された面積や形状だけでなく、「道路が敷地のどの方角に接しているか」はとても重要なチェックポイントです。特に「北側道路」の土地は、注意が必要なケースの一つといえます。日当たりの良い南側を広く確保しようと建物を敷地の北側に配置すると、北側の道路からかかる道路斜線制限の影響を直接受けることになるからです。2階や3階の形状、ひいては間取り全体に大きな制約が生まれる可能性があります。
――建築計画を立てる際のアドバイスをお願いします。
村田:土地探しの段階から建築士などの専門家に相談し、「その土地で、どのようなボリュームと形の建物が建てられるのか」を法的な観点から把握した上で、土地購入を判断されることをおすすめします。制限があっても、敷地の特性を最大限に活かした設計で、満足度の高い住宅を実現することは可能です。法規制を理解した上で、創意工夫により理想の住まいを追求していただきたいと思います。
家電コンサルタントに最新のIoT家電情報や使い方を聞いてみました!