宅配ボックスの知られざるアレコレを直撃! 元宅配ドライバー漫画家が聞いてきた

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不在時でも荷物を受け取れる宅配ボックスは、じつは日本発祥の技術。今から40年以上も前に誕生していたといいます。宅配ボックスのパイオニアであるフルタイムシステムの原周平副社長に、元宅配ドライバーの漫画家・ゆきたこーすけさんが直撃。

――「宅配ボックス」はいつ、どんな経緯で誕生したのでしょうか?

 

原周平さん(以下、原):私たちはもともとマンション管理の会社がルーツになっています。昔のマンションはいわゆる「管理人さん」が同じマンションに住みながら管理業務を行うのが一般的で、他の住人の方とも顔なじみになって困りごとを聞く機会も多くありました。

 

その中で、特に多かったのが「不在時の荷物の受け取り」の問題でした。そこで日中に荷物を受け取れない方のために、管理人室で一時お預かりする無料サービスをスタートさせました。

原さん

フルタイムシステム 代表取締役副社長 原周平さん。※肩書きは取材当時のもの

ゆきたさん

▲漫画家・イラストレーターのゆきたこーすけさん。元宅配ドライバーの経験を活かし、当時の体験に基づくエピソードを漫画で発信している。「運び屋ゆきたの漫画な日常

――当初は今のような宅配ボックスではなく、管理人室でまとめて荷物を受け取っていたんですね。

 

原:はい。利用者の方からも好評でしたが、みるみるうちに管理人室が荷物で溢れかえってしまいました。また、荷物の管理の問題や、管理人さんの負担が大きすぎるといった問題も生じてしまい、このままの形で継続するのは難しいのではないかという声もあったようです。

 

ただ、住人の方は困っているし、ニーズは間違いなくある。そこで、創業者である私の父、原幸一郎 が考えたのが、「箱型のロボットシステム」です。24時間、365日、荷物を安全に一時預かりする、世界初のシステムを開発することになりました。

 

 

――そこから宅配ボックスの開発が始まったのですね。

 

原:まずは開発をしてくれる会社探しから始まり、試作品のコンピューター式の宅配ボックスを自社管理のマンションに導入し、実証実験を行いました。実験結果をふまえてさまざまな試行錯誤を繰り返し、1983年に最初の宅配ボックスが誕生。1986年に宅配ボックス専業の会社としてフルタイムシステムを設立したという流れですね。

 

ゆきたこーすけさん(以下、ゆきた):ダイヤル錠がついていて、宅配業者が荷物を入れてから暗証番号を設定するアナログ式の宅配ボックスもありますが、フルタイムシステムさんは最初からコンピューター式だったんですか?

 

原:そうです。暗証番号をその都度設定するタイプは「ダイヤル(機械)式」と呼ばれますが、じつはあれは後から出てきたもので、当社のコンピューター式のほうが先に誕生しました。

初期型の宅配ボックス

▲実証実験を経て、1983年に開発された初期型の宅配ボックス。現在のように液晶モニターはなく、内蔵プリンターから出力された用紙にサインをして荷物を受け取る仕組みだった

――宅配ボックスが世の中に普及するきっかけは何だったのでしょうか?

 

原:大きな転機は、1994年に郵政省(当時)の省令改正です。それまで、宅配の荷物は基本的に手渡しで受取人の印鑑やサインをもらうことが義務付けられていましたが、一定の管理やセキュリティーの体制が整えられていることを条件に、不在時における配達方法として「無人ボックスへの預け入れ可能」とする通達が全国の郵便局に出たんです。つまり、宅配ボックスが正式に法律で認められたということですね。

 

当時、不在で郵便局に持ち戻りになった荷物が全国の郵便局に山積みになるなど、大きな社会問題となっていた背景もあり、そうした動きにつながったのだと思います。

最新の宅配ボックス

▲最新の宅配ボックスの一つ。メールボックスと宅配ボックスの二つの機能を一つにまとめたメールボックス一体型タイプ「ポスタク」。不在時の荷物預かりだけでなく、クリーニングの預かりやレンタル自転車の鍵と充電器、防災備品の設置など宅配ボックスを活用したさまざまなサービスが続々と生まれている

――今も宅配の再配達の問題がクローズアップされていますが、当時からすでに社会課題になりつつあったんですね。

 

原:はい。当時も宅配ドライバーさんにとても喜ばれたと聞いています。その頃はまだ「再配達」という言葉は浸透していませんでしたが、日中の不在によって荷物を持ち帰らざるを得ないことに、現場のドライバーさんは大変お困りでしたから。

 

1994年の省令改正をきっかけに、分譲マンションだけでなく賃貸マンションにも宅配ボックスが導入されるようになり、後発の業者も増えていきました。2000年代初頭には、14~15社にまで増えて、マーケットが一気に広がったと聞いています。

原さん

▲宅配ボックスは、開発から10年ほどは年間販売台数も20〜30台程度にとどまっていたが、省令改正後からは一気に拡大していったそう

原:その後、2010年代に入って再配達の問題がクローズアップされるようになり、2017年にいわゆる「宅配クライシス」の問題が起きてからは、急激に宅配ボックスの需要が高まりました。新築分譲マンションだけでなく、既存のマンションへの後付けや、賃貸マンションに導入したいという問い合わせも一気に増えました。

 

ゆきた:私は2003年から宅配ドライバーの仕事を始めましたが、その頃には普通に宅配ボックスがありました。始めた当初はそこまで再配達は多くなかったのですが、2010年代に入ってインターネット通販が普及していくにつれて急増していった印象があります。それだけに、宅配ボックスの存在はありがたかったですね。

 

原:実際、宅配ドライバーさんから「あのマンションに導入してもらえないか?」みたいな相談をいただくこともあります。そうした現場で困っている方の声をふまえて、管理会社に提案することもあります。

原さんとゆきたさん

▲「実際に再配達の問題に直面しているドライバーさんの声は貴重ですから、ご要望や意見をお聞きする機会は定期的に設けるようにしています」と原さん

――ゆきたさんから宅配ドライバー目線で、宅配ボックスに対する要望や意見などがあれば、ぜひお伺いしたいです。

 

ゆきた:宅配ドライバー目線でいうと、一番怖いのは「誤配達」です。自分がうっかり間違えて入れてしまうこともあるのですが、送り主の方が伝票の部屋番号を書き間違えているケースや、転居を知らずに旧住所に送っているケースもあって。伝票に書かれた住所通りに届けても誤配達になるケースって、じつは多いんです。

 

フルタイムシステムさんのコンピューター式の場合は、誤配達をしてしまっても遠隔で比較的に速やかに開けてもらえるのですが、ダイヤル(機械)式の宅配ボックスだとすぐに回収できないケースもあります。なんとか、誤配達を防止できる良い仕組みがあるといいなと思うのですが。

 

原:弊社の場合は、ゆきたさんがおっしゃる通り、ドライバーさんが誤配に気づいた場合は遠隔で差し戻しができたり、弊社が転送作業を代行したりといった対策をとっています。

 

ただ、確かにダイヤル式だったり、コンピューター式でもそうしたネットワークが整備されていないオフラインタイプもありますので、そうなると完全な誤配防止というのはなかなか難しいのかもしれませんね。そこは管理会社さんにご対応いただくしかないのかと思います。

ゆきたさん宅配ボックス漫画

▲回収にひと手間かかることがあるため、宅配ドライバーさんが一番恐れるという「誤配達」。遠隔で開けてもらえるため、ネットワーク管理されたコンピューター式の宅配ボックスが設置されているとホッとする宅配ドライバーさんが多いなんていう声も

――誤配達の問題を受けて、ダイヤル式からネットワーク管理タイプのコンピューター式に変更するマンションも増えていますか?

 

原:誤配達の問題だけでなく、ダイヤル式の場合は犯罪に悪用されるケースが出てきたため、ダイヤル式からの入れ替えのご相談は増えています。私が聞いて驚いたのは、他社さんの話ですが、ダイヤル式宅配ボックスを、そのマンションに住んでいない人が「私物化」していたケースです。なんと近隣のランナーがランニング用の靴を一時保管するために、勝手に使っていたんです。

 

 

――それはひどいですね……。物を入れる際に暗証番号を設定するタイプの宅配ボックスだと、そういった悪質なこともできてしまうと。

 

原:ダイヤル式のほうが導入コストは安いため、特に賃貸物件の場合はそちらを入れるオーナーさんも多いのですが、トラブルが起きてから入れ替えるとなると、結局は余計なコストがかかってしまいかねない。賃貸物件においても、最初からコンピューター式を導入したほうがいいと思いますし、実際にそうなってきている傾向はありますね。

冷凍・冷蔵ボックス付きの宅配ボックス

▲ネットスーパーなどからの食品を受け取ることが多い家庭向けに、冷凍・冷蔵ボックスがついたタイプも。時代ごとのニーズに合わせ、宅配ボックス自体も進化している

シェアサイクルのバッテリーと鍵

▲マンションに備え付けのシェアサイクルのバッテリーと鍵を収納するボックスがついたタイプも。中で充電も行うことができ、使用後はそのまま元の位置に返却すればOK

ゆきた:あと、ドライバーとして苦労するのは大型マンションへの配達です。タワーマンションなどの大きなマンションの場合、一度にまとめて配達ができると思われるかもしれませんが、実際には上から下まで何往復もしながら配達している事が多いんです。1棟だけで1時間以上かかる場合もあります。その間、車をどこに止めておくかという問題もありますし、その点でも宅配ボックスにはものすごく助けられていますね。

 

原:セキュリティーが厳しいマンションだと、一つ配達する度にエントランスまで戻ってインターホンを押し、いちいちオートロックを開錠してもらわないといけないなんてケースもありますからね。ドライバーさん目線でいえば、宅配ボックスや所定の場所に一括で置いていけるのが一番ラクだし、複数の部屋に荷物を届ける場合でも、せめて1回の入館で済むような仕組みにしてあげないといけない。

 

 

――宅配ボックスを設置するだけでなく、さらに利便性を向上させるための運用面の改善や、ドライバーさんの負担を減らす仕組みづくりにも取り組んでいるんですね。

 

原:そうですね。テクノロジーの発達とともに宅配ボックス自体も進化していますが、それだけでは足りない。我々は、宅配ボックスというのは「サービス」だと考えています。もっと言うと、宅配ボックスはうちの「社員」であり、その社員がより社会のお役に立てるような環境を整備するのが私の仕事だと思っているんです。

 

運用面に関してもさまざまなご意見を伺いながら、見直すべきところは見直していく必要があります。また、時代に応じて最適な受け渡し方も変わりますから、社会の動向に気を配りつつ常にアップデートを重ねていきたいですね。

 

 

取材・文:榎並紀行 撮影:宗野歩 漫画:ゆきたこーすけ

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.世界初の宅配ボックスの1号機が導入されたマンションは?
A.原:大阪にあったのマンションです。コールセンター(コントロールセンター)への呼出電話、居住者ごとの専用カード、配達員用のレシート受取など、さまざまな技術を組み合わせた世界初のコンピューター制御式宅配ボックスとして誕生しました