長谷工コミュニティの「技術研修センター」では、マンションの管理員などを対象とした研修を30年以上にわたって行っています。研修の一部を体験したフリーアナウンサーの西岡孝洋さんと、同センターで部長を務める新津洋二さんに、マンション管理を支える仕事の裏側を語ってもらいました。
技術研修センターとはどのような場所なのか
――技術研修センターはどのような施設なのでしょうか?
新津洋二さん(以下、新津):マンションの品質向上を支える人材育成の拠点となる施設で、管理員や新入社員、キャリア入社社員などに向けて、実践に役立つ基礎講習を提供しています。開設は1989年で、今年で37年目を迎えました。
▲技術研修センターは開設以来、マンション管理に携わる人材を輩出し続けている。今回は、通常5日かけて行う新人ライフマネージャー研修の簡易版として、西岡さんも講習を受講した上で対談取材を行った
新津:実際のマンションに使われている設備を用いた実践型の体験学習をはじめ、清掃研修、マナー研修、法令学習など、現場で必要とされるあらゆる分野をカバーしています。これだけの設備が揃った研修施設はなかなかありませんから、長谷工コミュニティの管理員だけでなく、さまざまな企業の新入社員や、 管理員・物件担当者・施設担当者など、 社外の方々にも広く活用いただいています。
また、当センターは東京都の職業訓練校のカリキュラムに認定されており、シルバー人材向けの研修にも活用されています。自社雇用の管理員は年間500名以上、外部企業の受講者は年間延べ1,100名以上にのぼります。
▲新津洋二さん。長谷工コミュニティ 技術研修センター 部長。管理業務主任者。※所属先・肩書きは取材当時のもの
――西岡さん、こうした研修施設があるということはご存じでしたか?
西岡孝洋さん(以下、西岡):管理員さんやコンシェルジュさんには日々お世話になっていますが、正直なところ、どのような研修を積まれているかまで、思いをはせたことはありませんでした。
今日はさまざまな研修を実際に体験させていただき、これほど多くのことを学んだ上で現場に立たれているのだと知りました。
▲西岡孝洋さん。1998年、フジテレビジョンにアナウンサーとして入社し、スポーツ実況を数多く担当。マンション好きが高じて宅地建物取引士の資格を保有する。2025年3月に同社を退職・起業し、複数のメディアに出演している。これまで全7戸のマンションを購入し、3戸を所有中。X:@nishioka_0213
研修体験で見えた、マンション生活を支える仕事の裏側
――西岡さんには、基礎研修コースの中から管理・清掃・設備の講習の一部をご体験いただきました。いかがでしたか?
西岡:マンション管理についての座学を受けて感じたのは、管理の在り方は時代とともに変わってきているということです。最近のマンションやそれを取り巻く環境は、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)ができた当時には、さまざまな意味で想定されていなかったものだと思います。
そうした中で、法改正などにより、管理を第三者に委託する仕組みや管理状態を認定・評価する制度などが整ってきたのでしょう。
このような制度が求められるようになった背景には、住民側の管理への向き合い方の変化もあると思います。私が最初に購入したマンションでは、理事を抽選で決めていました。当時は理事になりたくないと思ったこともありましたが、今は私も含め、管理に関心を持つ人が増えていると感じます。管理員さんにも、以前にも増して管理の知識が求められるようになっているはずですから、こうした講習には非常に大きな意義があるのだと思います。
▲西岡さんは「管理とその品質の重要性を今まで以上に実感した」と話す
西岡:清掃講習で驚いたのは、箒の使い方から使用する洗剤まで細かく規定されていたことです。安全面や建物を傷めないようにという配慮からだと伺い、とても感心しました。
日々お掃除してくださっていることは分かっていても、ここまでマニュアル化されているとは思いませんでした。気持ちよく暮らせているのは、管理員さんや清掃員さんがいてこそだと、改めて思い知らされます。
▲マンションのエントランスを再現した研修施設で、清掃の講習を受けた西岡さん。講師からは「できるかぎり水拭きで清掃し、洗剤を使用する場合も、安全性が確認された規定のものに限定している」とレクチャーを受けた
西岡:設備の講習では、実際にさまざまな設備を見て、触りながら教えてもらえるので非常におもしろかったです。トイレの断面なんて、これまで見たことがありませんでしたからね(笑)。
▲トイレの排水システムについて、模型の断面を見ながら説明を受ける西岡さん
――管理員がこうしたことまで学ぶべき理由は?
新津:管理員には最低限、マンション管理や設備などの基本的な仕組みを理解しておくことが求められます。漏水や災害が起きたときにそれが分かっていなければ、適切な対応はできません。
緊急時の対応は基本的にアウル24センター(総合監視センター)が担うため、管理員がお部屋に入って対処する場面はほぼありません。それでも、たとえば漏水が起こった場合、研修で部屋内の床下配管や共用の配管を実際に見て学ぶことで配管がどこを通っているのかを理解でき、水や設備の使用を控えてもらう、元栓を止めてもらうといった一次対応ができます。
――マンションの管理員は緊急時の対処方法も心得ておく必要があるということで、西岡さんには最後に放水を体験していただきましたが、いかがでしたか?
西岡:防災訓練でホースを持って構えるところまでは体験できても、放水まではなかなか経験できることではないですから、少し自信がつきました。管理員さんだけでなく、マンションに住むすべての方が、体験しておいたほうがいいのではと感じました。
私は身長があるほうですが、それでも思ったよりホースから出てくる水の勢いがすごかったので、いざというときに初めて使おうと思っても、うまく扱えないと思います。
▲放水体験では、最初は水圧の強さに驚いていたものの、数回でコツを掴んだ西岡さん
▲炎を描いた的めがけて放水する
西岡:特にタワーマンションや高層階にお住まいの方は、火災への恐怖が少なからずあるでしょう。スプリンクラーがあっても「もし作動しなかったら」「はしご車が届かなかったら」と考えると、怖いですからね。放水を体験したことがある方がフロアに数名でもいれば、かなり安心なのではないでしょうか。
新津:先日、マンション防災フェスタのイベントで技術研修センターを開放し、250名ほどの方に放水を体験していただきました。さまざまな体験をご用意しましたが、なかでも放水体験は非常に人気で、手を添えながらお子さんにも体験していただきました。
なぜ長谷工は30年以上、人材育成に力を入れてきたのか
――これほどまで長きにわたって、マンションの管理を支える人材の育成に力を入れてきたのはなぜでしょうか。
新津:長谷工コーポレーションは、マンション施工戸数・施工シェアともに国内トップクラス※の実績を積み重ねてきました。ただ建てて、販売して、管理するというだけではなく、グループとして、住まう方に直接関わる管理員の育成にもしっかり力を入れることが大切だと考えてきました。
今後は人手不足が進み、DXやAI化によって管理員は減っていくのではないかとも言われています。あるいは管理員の仕事は、人にしかできない対応と効率化できる作業とに分かれていくのかもしれません。それでも、居住者との日々のやりとりのような顧客対応は、まだまだ人が担うべき業務だと考えています。
西岡:まさに今日感じたのは、居住者が接するのは「人」だということです。その人がどういう姿勢で仕事をしているのかは、知識以上に大事になると思います。研修の中でもホスピタリティの話が出ましたが、こうした気持ちの部分もとても重要だと感じました。
※長谷工コーポレーション「マンション施工累計実績」
――技術研修センターが開設されてからの37年間で、マンションを取り巻く環境は大きく変化してきました。この変化をどのように研修に落とし込んでいるのでしょうか。
新津:テキストの改訂や内容の確認は常に行っています。区分所有法改正への対応や、清掃研修の資料改定など、メンバーとともにアップグレードしながら研修ができるようにしています。
とはいえ、管理員の業務そのものが劇的に変わるわけではありません。法制度や求められる業務レベルが変わる部分をきちんと押さえつつ、ホスピタリティについては、いつの時代も定期的に研修しています。
▲パイプスペース内部の設備構成について、説明を受ける西岡さん
所有者と管理会社が「パートナー」としてマンションの価値を守る時代へ
――長谷工が長年取り組んできた「人材の育成」が、現場での対応の質を支えるだけでなく、マンションの共用部を良好な状態に保ち、そこに住まう方の安心や心地よさにもつながっていることが分かりました。こうした日々の管理の積み重ねは、マンションの評価にも関わるものだと思います。これからのマンション管理には、どのようなことが求められると思いますか。
西岡:マンションを所有する者として思うのは、この財産を将来的に売るにせよ、生涯住み続けるにせよ、日々の住みやすさを支えてくれる管理員さんやフロント担当者さんの存在は、非常に重要だということです。
研修を通して、日々の清掃や設備の確認、いざという時の対応といった積み重ねによって、マンションは良好な状態に保たれていると実感しました。長い目で見れば、質の高い管理は、マンションの評価にもつながっていくものだと思います。
新築マンションの供給数が減少していく中、これからは今あるマンションの価値をどれだけ守れるかという視点も、より重要になっていくと思います。所有者と管理会社が一体となって価値を維持・向上させていく気持ちのあるマンションと、そうではないマンションの差はさらに大きくなっていくのではないでしょうか。
所有者はマンションの管理にもっと目を向けていかなければいけませんし、管理会社には所有者と同じ方向を見て一緒に歩んでいくことが求められます。今後ますます管理に対する評価は厳しいものになっていく一方で、そうした姿勢がしっかり評価されるようになっていくはずです。そういった意味でも、私たちにとって管理会社の皆さんは間違いなくパートナーです。
新津:西岡さんのおっしゃるとおり、マンションの管理は資産価値にも影響します。仮に同じようなマンションが並んでいて、管理費や修繕積立金が同じ金額だったとすれば、評価してもらえるのは管理が行き届いているマンションでしょう。
▲マンションの価値を守る、管理の重要性を語り合う
西岡:内見に行くと必ず共用部は目に入りますし、管理員さんとお会いすることもあります。そのときの対応は非常に大事で、受け答えがつっけんどんだったり、ごみ置き場の清掃が行き届いていなかったりすると、それだけで印象は大きく変わってしまいます。管理員さんのお人柄やそのお仕事ぶりは、まさにマンションの「顔」です。
新津:今後AI・DXが推進されていくほど、管理員の存在はより大切になっていくのかもしれませんね。マンションの価値を維持・向上させていくには、こうした研修だけでなく、管理部門が一体となって取り組み、全体を底上げしていかなければなりません。
各担当者が物件の状態やマンション管理を取り巻く環境をきちんと把握し、情報を共有した上で、改修工事や契約の見直し、適正な委託契約の締結などをご提案していくことが非常に大事だと思っています。
※本記事の取材は、2026年8月28日に行いました。
取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵(fort)
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.西岡:マンションはそれぞれ異なりますので、基本を学んだとしても現地では全然違うということもあるのではないでしょうか?
- A.新津:おっしゃるとおりです。技術研修センターは、現場で必要な、基本的知識を身につけていただく場だと考えています。西岡さんに体験していただいた清掃講習も、どのマンションでも最低限求められる内容を学ぶものです。現場には指導員やインストラクターがおりますので、それぞれのマンションに合った実務は、実際に働きながら身につけていくことになります。
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