特集

2026.07.27

床下にご先祖様!? 佐藤健寿の奇になる住まい「台湾パイワン族の石板屋」

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本連載「佐藤健寿の奇になる住まい」ではこれまで、マンションプラスで扱ってきた集合住宅から少し視点を広げ、世界各地のユニークな住宅やその土地独自の“住まい”を紹介してきました。今回は、台湾南部・屏東県(へいとうけん)の山あいのパイワン族を訪ねます。

佐藤健寿プロフィール

▲佐藤健寿(さとうけんじ):写真家。『奇界遺産』(エクスナレッジ)シリーズは写真集として異例のベストセラーに。他著書に『奇界/世界』『PYRAMIDEN』『CARGO CULT』(朝日新聞出版)など。写真展は過去、ライカギャラリー東京/京都、高知県立美術館、山口県立美術館、群馬県立館林美術館などで開催。「佐藤健寿展 奇界/世界」は全国を巡回し13万人を動員。TBS系「クレイジージャーニー」他出演多数。2026年9月23日まで沖縄・北谷町立博物館で「佐藤健寿展 奇界/沖縄」を開催中。
Instagram:@x51 

写真家、佐藤健寿さんが世界の不思議な住居をめぐる特集、「奇になる住まい」。今回佐藤さんが向かったのは台湾南部・屏東県の山間部。ここは台湾原住民族パイワン族が代々暮らしてきた地域である。

 

「台湾って、面積は九州ほどしかないんですが、3000m級の山がいくつも連なる中央山脈が島を南北に貫いているんです。西側沿岸部には日本人観光客にもなじみ深い台北や高雄がありますよね。一方で、南部の山地や東海岸地域を訪れる人はあまり多くありませんが、そこには、今も多くの台湾原住民族が暮らしています。もちろん、今の彼らの暮らしは台湾西部の人たちと何も変わりませんが、かつては個性的な住居に住んでいたんです。今回はそのひとつ、パイワン族の石板屋の村『老七佳石板屋集落(ろうしちかせきばんやしゅうらく)』へ向かいます」
と佐藤さん。

 

(※石板屋(せきばんや):石の薄い板(スレート)を用いた伝統的な住居のこと)

 

台湾第二の都市、高雄から車で約1時間。さらに四輪駆動車で山道を進む。

現在、パイワン族が多く暮らす力里村の広場。壁画には祖先像とパイワン族が神聖なものとする百歩蛇(ヒャッポダ)のモチーフが描かれている

▲現在、パイワン族が多く暮らす力里村の広場。壁画には祖先像とパイワン族が神聖なものとする百歩蛇(ヒャッポダ)のモチーフが描かれている

力里渓(りきりけい)沿いに山道を登っていく。乾季のため、川にはほとんど水が流れていない

▲力里渓(りきりけい)沿いに山道を登っていく。乾季のため、川にはほとんど水が流れていない

▲老七佳石板屋集落へ向かう吊り橋。眼下には力里渓。現在の橋は2013年に整備されたもので、集落への玄関口となっている

▲老七佳石板屋集落へ向かう吊り橋。眼下には力里渓。現在の橋は2013年に整備されたもので、集落への玄関口となっている

吊り橋を渡り、さらに山腹を登っていくと山肌に築かれた集落が現れた。

 

老七佳石板屋集落は標高約570mの山腹に位置する。眼下に深い谷底を見ることができる。

 

現在は生活の場としては使われていないが、パイワン族の石板屋が数多く残る台湾有数の伝統集落として保存されている。

集落入口で出迎えてくれる民族衣装を着たパイワン族の女性

▲集落入口で出迎えてくれる民族衣装を着たパイワン族の女性

老七佳石板屋集落では、来訪者は集落に入る前にお清めの儀式を受ける

▲老七佳石板屋集落では、来訪者は集落に入る前にお清めの儀式を受ける

老七佳石板屋集落の様子

▲老七佳石板屋集落の様子

現在も約80棟の石板屋が残る

▲現在も約80棟の石板屋が残る

山腹の傾斜に沿って石板屋が段々畑状に建ち並ぶ

▲山腹の傾斜に沿って石板屋が段々畑状に建ち並ぶ

老七佳石板屋集落を囲む中央山脈南端の山々。眼下には水量の少ない力里渓が蛇行する

▲老七佳石板屋集落を囲む中央山脈南端の山々。眼下には水量の少ない力里渓が蛇行する

老七佳石板屋集落は、深い谷を見下ろす山腹に築かれている

▲老七佳石板屋集落は、深い谷を見下ろす山腹に築かれている

パイワン族の伝統的な住居「石板屋(スレートハウス)」。

 

家屋の黒い壁は、薄い石板を何層にも積み上げてつくられている。そしてその壁を覆う屋根にも同じ石板が使われている。建材に使われているのは黒灰板岩で、かつては集落から約3km離れた石切場から切り出し、一枚30kgほどもある石板を人力で運んでいたという。

一つの石板屋には2万以上の石板が使われている

▲一つの石板屋には2万以上の石板が使われている

石板屋の屋根には、強風に備えて白い石が置かれている。白い石には水の力が宿るとされ、火災除けの意味もこめられている

▲石板屋の屋根には、強風に備えて白い石が置かれている。白い石には水の力が宿るとされ、火災除けの意味もこめられている

家には強度の高い黒色石板が使われ、歩道には白い石板が使われている

▲家には強度の高い黒色石板が使われ、歩道には白い石板が使われている

石板には黒いものと白いものがある。黒い石板は「男石板」と呼ばれ、重量と強度があることから壁や屋根の建材として使われる。一方、白い石板は「女石板」と呼ばれ、建材には適さないため、歩道や敷石などに利用されてきた。

 

「山の麓にあった壁画の百歩蛇(ヒャッポダ)は、もともと噛まれると百歩歩くうちに死ぬとされる蛇がモデルです。それがパイワン族の精霊的な守護神にもなっているわけですが、この家々の石の重なりも蛇の鱗を真似ている。つまりその力で家々が守られるという呪術的な意味もあるそうです」

と佐藤さん。

集落内の小道。住居だけでなく、塀や階段、通路に至るまで石板が使われている

▲集落内の小道。住居だけでなく、塀や階段、通路に至るまで石板が使われている

石積みの壁面には、ドラゴンフルーツと思われるサボテンの仲間も植えられていた

▲石積みの壁面には、ドラゴンフルーツと思われるサボテンの仲間も植えられていた

集落を歩いていると、ひときわ目を引く家がある。門や壁面に彫刻が施された建物だ。そこに刻まれているのは、パイワン族が神聖視する百歩蛇と祖先を表す人頭像である。

 

「こうした彫刻は、集落長の家だけに許されたものなのです」
そう説明してくれたのは、ガイドのカクさんだ。

 

パイワン族社会にはかつて厳格な身分制度があり、集落長は世襲によって受け継がれてきた。住居の装飾そのものが、その家の地位や歴史を示していたのである。

門や壁面には祖先像や百歩蛇の彫刻が刻まれている。こうした装飾は、集落長階級の住居にのみ許されていた

▲門や壁面には祖先像や百歩蛇の彫刻が刻まれている。こうした装飾は、集落長階級の住居にのみ許されていた

住居の装飾そのものが、一族の歴史や社会的地位を示していた

▲住居の装飾そのものが、一族の歴史や社会的地位を示していた

軒下には狩猟で得た動物の頭骨が並べられていた

▲軒下には狩猟で得た動物の頭骨が並べられていた

続いて案内されたのは、ガイドを務めるカクさんの生家だ。

 

石板屋の内部は外観から想像する以上に暗い。石壁に囲まれ、窓も最小限しか設けられていないためだ。室内は夏でも涼しく、山間部の環境に適応した住まいであることが分かる。

カクさんの愛犬が来訪者を迎える

▲カクさんの愛犬が来訪者を迎える

石板屋の内部。室内は薄暗いが、厚い石壁の遮熱性と、石板の隙間による緩やかな換気によって快適な空間になっていた

▲石板屋の内部。室内は薄暗いが、厚い石壁の遮熱性と、石板の隙間による緩やかな換気によって快適な空間になっていた

パイワン族にとって家は単なる住居ではない。亡くなった家族を住居の敷地内や床下に埋葬する風習があったという。

 

日本では、死者は墓地に葬られ、生者の生活空間とは切り離されるのが一般的だ。しかしパイワン族にとって祖先は遠い存在ではなく、亡くなった後も家族を見守り続け、住まいの中で共に暮らす存在である。


家族が集う居間。厚い石壁と太い梁に囲まれたこの土間の床下には、祖先が埋葬されている

▲家族が集う居間。厚い石壁と太い梁に囲まれたこの土間の床下には、祖先が埋葬されている

屋根の小さな開口部から届く光が、暗い室内に明るさをもたらしている

▲屋根の小さな開口部から届く光が、暗い室内に明るさをもたらしている

「なんと、家と墓地が一体化しているんですね。これまで世界でいろいろな葬礼の形を見てきました。たとえばマダガスカルとかインドネシアでは、遺体をミイラ化させて家の近くに安置し続ける風習もありますが、家の中にそのまま死者を埋葬するというのは初めて見ましたね。石板屋の佇まいも印象的でしたが、個人的にはこの家の中に墓地があるという風習の方にむしろ衝撃を受けましたね。世界的にも結構珍しい風習なんじゃないでしょうか」
と驚く佐藤さん。

 

石板屋は単なる住居ではなく、生者と死者をつなぐ場所であった。
祖先の記憶は代々、家屋と共に受け継がれ、家そのものが一族の歴史を蓄積していく。新しい家を建てるのではなく、同じ住まいを修繕しながら使い続ける文化が生まれた背景には、こうした祖先観も関係しているという。
パイワン族にとっての家とは、家族が暮らすための建築物であるとともに、祖先から子孫へと受け継がれる一族の記憶そのものでもあった。

石板屋の柱に立てかけられた弓矢などの狩猟具

▲石板屋の柱に立てかけられた弓矢などの狩猟具

ガイドのカクさん。テーブルには、二人が同時に酒を飲むための酒器「連杯」が置いてある

▲ガイドのカクさん。テーブルには、二人が同時に酒を飲むための酒器「連杯」が置いてある

現在、この集落に定住している住民はいない。話を聞くことができたシェイさん一家も普段は麓で暮らしており、ガイドや建物の維持管理のために定期的に集落を訪れている。

パイワン族のシェイさんは、普段は山の麓に住むが、先祖代々の土地に新しく石板屋を建てた

▲パイワン族のシェイさんは、普段は山の麓に住むが、先祖代々の土地に新しく石板屋を建てた

石板屋の屋内では、虫除け、木材の保護のため、常に火が焚かれ煙で家全体が燻されていた

▲石板屋の屋内では、虫除け、木材の保護のため、常に火が焚かれ煙で家全体が燻されていた

集落には電気もインターネットも通っていない。かつては太陽光発電設備も設置されていたが、現在は使われていないという。

 

それでも老七佳石板屋集落は、台湾を代表する伝統集落として保存が続けられている。

 

その理由のひとつが、世界遺産登録を見据えた保全活動だ。

 

老七佳石板屋集落は、台湾文化部が選定する「台湾世界遺産潜在リスト」に登録されている。しかし台湾は国連加盟国ではないため、ユネスコ世界遺産への正式な推薦を行うことができない。

 

世界遺産を目指しながら、制度上は申請することすらできない。

 

老七佳石板屋集落は、そんな複雑な事情がある。

 

それでも人々は石板屋を修復し、集落を守り続けている。住民がいなくなった今もなお、この場所がパイワン族の歴史と文化を語る重要な拠点であり続けているからだ。

シェイさんの奥様は漢民族。週末はよく家族で集落へ来て石板屋の掃除などを行う

▲シェイさんの奥様は漢民族。週末はよく家族で集落へ来て石板屋の掃除などを行う

石板屋の村を取材した後、私たちは台湾最南端に近い恒春(こうしゅん)へ移動した。立ち寄ったのは地元の人々で賑わう恒春夜市だ。台北や高雄の夜市とは異なり、観光客向けの派手な演出はほとんどない。並んでいるのは夕食を買い求める地元客と、昔ながらの屋台ばかり。英語表記のメニューもほとんど見当たらない。

地元客で賑わう恒春夜市

▲地元客で賑わう恒春夜市

「台北とかにある夜市はかなり観光化が進んでいて、地元半分、インバウンド半分みたいな感じですけど、ここはまだ地元密着型の夜市という感じで風情がありますね。前に台湾の人に聞いた話では、かつて夜市はテイクアウトが主流だったそうです。でも観光客が屋台形式で食べるので、それが台湾人にも広まって、今は屋台が主流になったそうです。ちなみに台湾では牛肉麺と火鍋をよく食べます。というかそれしか食べないかもしれないです」
と佐藤さん。

 

この日の夕食は牛肉麺。

 

恒春夜市の牛肉麺:★★★★★(5/5) 

 

 

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※日本国内にお住まいの成人の方のみご応募いただけます。
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※当選のご連絡は当アカウントからのみ行いますので、偽アカウントにご注意ください。
※当選の際に、カード情報の入力を求めたり、外部サイトのリンクをお送りすることは一切ございません。
※当選者の発表は、当選された方へのご連絡をもって代えさせていただきます。落選された方へのご連絡は行いませんので、ご了承ください。また、当落状況に関するお問い合わせには対応いたしかねます。
※当選後、DMにてご連絡いたしますが、指定の期限内にご返信がない場合は当選は無効となります。
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撮影・取材:佐藤健寿 文:松田恒一

PHOTOGRAPHER

佐藤健寿
写真家。『奇界遺産』(エクスナレッジ)シリーズは写真集として異例のベストセラーに。他著書に『奇界/世界』『PYRAMIDEN』『CARGO CULT』(朝日新聞出版)など。写真展は過去、ライカギャラリー東京/京都、高知県立美術館、山口県立美術館、群馬県立館林美術館などで開催。「佐藤健寿展 奇界/世界」は全国を巡回し13万人を動員。TBS系「クレイジージャーニー」他出演多数。2026年7月18日より沖縄・北谷町立博物館で「佐藤健寿展 奇界/沖縄」を開催予定。

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WRITER

松田恒一
旅行と建築が好きなフリーライター。各地を訪ねながら、その土地ならではの住まいや暮らしの文化を取材している。現在マンションについて勉強中。趣味はランニングと筋トレ。

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おまけのQ&A

Q.ちょうどこの記事が公開される頃に、沖縄での個展が始まっているかと思いますが、沖縄で好きな場所や被写体はありますか?
A.佐藤:やはり離島でお盆あたりに行われているお祭りが好きですね。過去には波照間島のムシャーマとか宮古島のパーントゥなど撮影していました。今回は展示に合わせてあまり知られていない小浜島の祭りなども撮影しているので、ぜひ沖縄の展示を見にきてください。