読めて探せる不動産エンターテインメントサイト「物件ファン」と、マンションプラスによるコラボ企画第2弾は、「二拠点生活」をテーマに全6回で発信しています。最終回は、家族で暮らしていた大阪の自宅マンション内で別部屋を購入し、ひとりで移り住んだMさんのケースをお届けします。
▲Mさん/臨床検査技師。東京の大学で学んだのち大阪の大学病院に就職し、臨床検査技師として21歳から定年まで勤め上げた。2023年、博士(医学)取得。現在は近くの病院で週4〜5日働きながら、臨床検査の勉強会の世話人やJAB(ISO15189)の審査員、講演などもこなす多忙な日々を送る
30年以上の結婚生活を経て芽生えた“一人暮らし願望”
大阪・難波から電車で30分ほどの大阪狭山市。各駅停車しか停まらない駅前には、繁華街にはない、のどかな空気が漂っていました。
「ここは駅近ですし、スーパーやお花屋さん、スポーツジムも徒歩圏内にあって暮らしやすい。結婚してからずっと慣れ親しんできた環境だから、このマンションからは離れたくないんです。でも、一人暮らしがしたくなって」
こだわってリノベーションしたことが一見して分かる素敵なお部屋のダイニングテーブルで、Mさんは笑いながらそう話します。
▲もともと2LDKだった間取りを1SLDKに変更。手前からキッチン、ダイニング、リビング、その隣はワークスペース。左手前に見える室内窓の奥はベッドスペースになっている
Mさんがこの部屋に引っ越してきたのは半年ほど前。夫と2人の子どもたちと32年間暮らしてきたマンション内に別の部屋を購入してリノベーションを施し、単身での引っ越しを決行しました。夫にはいっさい相談せず、引っ越し当日の朝に、離れて暮らすことを打ち明けたのだとか。
「以来、夫とは別居をしています。娘は九州で就職したので、家族で住んでいた階下の部屋には今、夫と息子が2人で暮らしています。たまに荷物を取りに部屋に行くと意外と小ぎれいにしていますね。夫とは顔を合わせませんが、息子は別。週末に息子がこちらに来て、一緒にごはんを食べることもありますよ」
同じマンションにある2つの部屋を行き来する、超近距離の二拠点生活。ただし、それを実践しているのは、Mさんというよりも息子さんのようです。
▲ハニカムタイルの三和土(たたき)がなんともおしゃれな玄関。左手にあるガラス戸の奥は、バスルーム+脱衣所
▲脱衣所の中は、淡いイエローのストライプの壁紙がアクセント。入浴時は内側のカーテンを閉めると目隠しになる
▲トイレにはさくら色のクロスを採用。くすみがかったニュアンスカラーが柔らかく落ち着いた空間をつくっている
別居の理由は「ごはんは食卓で食べたいから」
Mさんの職業は臨床検査技師。平日は毎日、病院勤めです。その他にも勤務の合間を縫って研究したり論文を書いたりと、結婚当初から多忙な日々を送っていました。
▲和室二間分の押し入れだったスペースを活用した、広いウォークインクローゼット。リビングとワークスペースの両方からアクセスできる
夫は育児にはそれなりに協力的だったものの、子どもたちが大きくなるにつれて、だんだんと夫婦の会話がなくなり、心がすれ違うように。家計費の負担に差があることや、食卓に置いてある夫の持ち物を片づけてくれないことにも不満が募っていったそうです。
「家族でごはんを囲む時間を大切にしたいのに、ここ数年は食卓に十分なスペースがなく、私は台所で食事していたんですよ。恥ずかしい話ですが、この部屋を買った最大の理由は『ごはんは食卓で食べたいから』なんです」
▲たまにMさんのお部屋で一緒にごはんを食べるという息子さんと。引っ越し後は、念願の「すっきりした食卓」で食事できるようになった
予想外のめぐり合わせで別部屋の購入を決意
夫への不満は、一人暮らしへの憧れに。とりわけ子どもたちが手を離れたあとは、「一人暮らし」という夢が少しずつ膨らんでいったといいます。
「物件サイトでリノベーションした部屋を眺めては『こんな部屋に一人で住んでみたい』と憧れる毎日でした。でも、住み慣れたこのマンションを離れるのは現実的じゃない。人生最後の夢はどうせ叶わないんだろうなとあきらめていたんです」
▲鮮やかな緑色の枠が部屋全体のアクセントになっている、ワークスペースの建具。ガラスの三連窓ゆえに、閉めても圧迫感を覚えない
そんなある日、同じマンションの階上に空き部屋が出たことを広告チラシで知ったMさん。息子にチラシを見せて「どう思う?」と訊ねたところ、返ってきたのは「電話してみたら?」という言葉。翌日には不動産会社に電話をかけたそうです。
「部屋を内見したら、階下の部屋とは違い、とにかく明るくて広い。以前から気になっていたお部屋だったこともあり、即決しました。『もしローンの審査が通らなくても、キャッシュで購入します!』と不動産屋さんに伝えたほど、決意が固まっていましたね」
▲Mさんが日々元気をもらっているというモンステラ
夢に描いた理想の住空間をリノベで実現
購入後のリノベーションを依頼したのは、不動産サイトで知り、センスの良い内装に惚れ込んでいたというアートアンドクラフト。Mさんの希望は「明るくて、ワークスペースがあるおしゃれな部屋」でした。
「下階の部屋は日当たりがイマイチだったんです。洗面所は特に暗く、日中でも電気をつける必要があるのですが、朝は太陽の光の中で身だしなみを整えたい。そんなことを伝えたところ、リビングに洗面台を設置するプランを提案してくれて。すごく気に入っているんです」
▲日当たりの良いリビングの入り口付近に、洗面台を造作。リビングの扉は既存のドアをレモン色に塗り替えて再利用した
▲玄関近くのサニタリーの引き戸にあしらわれた琥珀色のガラスブロックが美しい。Mさんのリクエストで実現した
さらに、Mさんがこだわったのがワークスペースです。長年勤めた病院を定年退職したあとも、別の病院で週4日働くほか、セミナー講師や専門誌への寄稿などもこなす、忙しい日々。集中して作業するための仕事部屋は欠かせませんでした。
▲ワークスペースの室内窓からリビングのテレビを見ることもできる。天井のシーリングライトがお気に入り。
グリーンの枠がかわいい、三連のガラス窓。その先にある仕事部屋には、一枚板を使用した大きな造作デスクが据えられています。三連窓、室内窓、掃き出し窓と、三面に開口がある開放的な空間ながら、住戸の最奥に位置するため、程よいおこもり感も。「めちゃくちゃ集中できます」と、Mさんもご満悦の様子です。
▲白い升目の木枠は、既存の障子戸を塗って再利用。設計士さんが提案してくれた
以前の住まいよりも広くなったキッチンは、使い勝手も大きく向上。L字型のキッチンは、シンク下収納、天井の吊り下げラック、パントリーと収納が充実しています。そして何よりも明るい、気持ちの良いスペースに仕上がりました。
「以前は食卓が狭くて、仕方なく台所で食事したりお酒を飲んだりしていました。キッチンが広くなったいまは、おしゃれな空間を満喫しながら、あえてキッチンでお酒を飲む時間を楽しんでいます」
▲青いモザイクタイルが目を引くキッチン。木とアイアンを組み合わせた収納棚は、Mさんのチョイス
▲キッチンを囲う腰壁のニッチ(飾り棚)には、お気に入りの小物をディスプレイ
「スープの冷めない距離」で卒婚を
この部屋に引っ越してきた半年間ですでに6回、友人を招いて女子会を開いたというMさん。念願だった「気ままな一人暮らし」の滑り出しは上々のようです。
「『さみしくないの?』と聞かれることもありますが、いまのところ全然。夜、キッチンで部屋を眺めながらお酒を飲んでいると、『はあ〜、自由』と幸せをしみじみ感じます」
▲ダイニングの室内窓の向こうはベッドルーム。レトロなすりガラスが、朝の光を穏やかにベッドまで届けてくれる
これからの人生は自分のために生きたい、そして長年携わってきた臨床検査業界の発展に尽くしていきたいと言うMさん。突然の引っ越しを夫から責められることもなく、夫婦それぞれに穏やかな生活を送っている様子ですが、一方で、「夫が病気で倒れたりしたら、階下の部屋に行くことがあるかも」とつぶやきます。
「夫に『助けてほしい』と頼まれたら、助けないわけにはいかないでしょうね。妻としてではなく、人として。まあ、夫が私に弱みを見せることはないと思いますが(笑)」
▲ダイニングの掃き出し窓の外もバルコニー。リビングからワークスペースまで、すべての居室をL字バルコニーが囲む
昨今、新しい夫婦のかたちとして注目されている「卒婚」。婚姻状態を保ったまま、それぞれの人生を充実させるために離れて暮らす夫婦のあり方を指す言葉ですが、Mさんの場合は同じマンション内、いわゆる「スープの冷めない距離」での卒婚です。
つかず離れず、もしお互いに何かあったときは、日常的に支え合える可能性を残しておく。マンションの空室率が上昇をつづけるこの時代、Mさんご夫妻のようなライフスタイルが珍しくなくなる日も、そう遠くないのかもしれません。
▲そこかしこに置かれた観葉植物やお花が部屋を彩る。水やりがMさんの日課
物件DATA
所在地:大阪府大阪狭山市
面積:89.69㎡
購入価格:1550万円
リノベーション費用:合計約1771万円

取材・文:葱山紫蘇子 編集:岸良ゆか 撮影:東郷憲志
WRITER
大阪で娘3人息子1人と暮らす独り身。元劇団維新派役者竹山らいち、元ミニシアター従業員、元介護職。建物と書き出し小説と漫画と毛布のヘリが大好き。 X:@sisokoex
おまけのQ&A
- Q.この部屋での一番好きな時間は?
- A.起床後の、植物の水やりタイムです。前の部屋ではそんな余裕はなかったけれど、この部屋に来てからは、植物を育てるための心のゆとりが持てるようになりました。
長谷工が建設現場で開催! 子どもも大人も夢中になる、「職業体験」の裏側