マンションの寿命は何年? 区分所有法改正で見直す「100年住む」新常識

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老朽化、合意形成の壁、所有者不明など、マンションの再生にはさまざまな課題があります。そんな中、2002年以来23年ぶりに、区分所有法が大改正されました。建替えだけではない再生の選択肢とは何か。マンション政策の立案にも深く関わってきた、東京都市大学大学院特任教授の齊藤広子さんに話を聞きました。

――これまでの区分所有法は、マンションの置かれた現実から見て、どのような点が障壁となっていたのでしょうか。

 

齊藤広子さん(以下、齊藤):区分所有法のようになかなか変えられない法律では、時代の変化とともにどうしても差し障りが出てきます。おおよそ20年ほどの間隔でしか、大きくは変えられないものなんですね。だからこそ、今回の改正で何を変えるかはとても重い意味を持っていました。

 

大きな障壁は、建替えを進めにくい制度であったことです。区分所有法は老朽化マンション対策として機能することが期待されていましたが、実際には建替えは十分に進んできませんでした。その背景には、建替え決議に「区分所有者・議決権の各5分の4以上」という高い要件があり、これを引き下げるべきではないかという議論がありました。

 

賃借人への対応も課題でした。建替え決議が成立すれば区分所有者には退去を求められますが、賃借人については借地借家法の規定が適用され、退去要求するための法的な手当が十分ではありませんでした。

 

さらに、建替え以外の選択肢をとるにしても、制度上の壁がありました。たとえばマンションを一括売却する、解体して更地化し代金を分配する、建物を残したまま1棟全体をリノベーションをするといった方法です。従来法は建替え以外を十分に想定しておらず、原則として区分所有者の全員合意が必要だったのです。

 

今回の改正ではこうした課題を踏まえ、建替えや売却、再生などを進めやすくする制度を法律に盛り込むことを目指して議論してきました。

斉藤さんプロフィール

▲齊藤広子さん。東京都市大学大学院情報データ科学研究科特任教授。専門は不動産学・不動産マネジメント論。マンションの管理・再生をはじめ、住宅地や団地の再生、空き家対策など、住まいとまちのマネジメント手法の研究と実践に取り組む。国土交通省社会資本審議会住宅・宅地分科会前会長、東京都マンションの適正管理に関する検討会 座長を務めた。※所属先・肩書きは取材当時のもの

――所有者不明の問題も足かせになっていたと伺いましたが。

 

齊藤:所有者不明住戸への対応が進んだ点も大きいと思います。今回の改正により、裁判所の手続きを経て、一定の場合には、所在が分からない区分所有者を決議の母数から除外できるようになりました。

 

私自身がこの問題の深刻さを実感したのは、東日本大震災のときです。被害の大きいマンションでは「マンション全体を売却し、お金を区分所有者で分けて別々に生活しよう」という判断もありえましたが、そうするには区分所有者の全員合意が必要になる。しかし、行方不明となった住戸所有者がいて合意形成ができないケースがありました。住戸数の少ないマンションでは、たった1人の所在不明者がいるだけで何も決められなくなるケースがあります。所有者不明であることが、マンションの管理や再生にとって大きな障壁になっていたのです。

 

 

――今回の改正では、具体的にどのような点が変わりましたか。

 

齊藤:結論から言えば、建替え決議の基本要件は5分の4のままとなりました。ただし、建替えの必要性が高いマンションについては要件が緩和されました。たとえば、エレベーターがない、バリアフリー化されていない、耐震性に課題がある等の場合には、決議要件が5分の4から4分の3に引き下げられています。これは大きな変更だと思います。

 

――賃借人への補償や、建替え以外の選択肢についてはどう変わりましたか。

 

齊藤:建替え決議が成立した場合、賃借人には退去を求める一方で、補償金を支払う仕組みが整いました。

 

また、これまで区分所有者の全員合意が必要だったマンション全体の売却や、建物を残したままの1棟リノベーションについても、5分の4の決議で進められるようになりました。建替えだけでなく、再生の選択肢を増やしたということです。

 

さらに、管理不全マンションについては裁判所が財産管理人を選任できる制度も創設されました。今回の改正は、どちらかと言えば、管理不全に陥ったマンションをなんとか救うための備えという側面が強いと、私は受け止めています。

高い決議要件や所有者不明問題が、マンションの再生を阻んできたと齊藤さんは指摘する

▲高い決議要件や所有者不明問題等が、マンションの再生を阻んできたと齊藤さんは指摘する

――問題点には、それぞれ何らかの措置が盛り込まれたようですね。他に大きな改正点はありますか。

 

齊藤:管理組合の総会運営も大きく変わりました。これまでは、管理規約の変更など特別決議は「区分所有者全体と議決権全体の4分の3以上」の賛成が必要でした。しかし、管理に対する区分所有者の関心が低いマンションでは委任状や議決権行使書が集まらず、決議自体が成立しないケースが多かったのです。そこで、一定の場合(具体的には区分所有者・議決権の過半数が出席の場合)には「総会に参加した人」を基準に4分の3を数える仕組みに改められました。これは実務上、非常に大きな変化だと思います。同時に、区分所有者一人ひとりが管理にきちんと参加し、管理不全に陥らせない責任を負っているということも、改めて規定されました。

 

 

――他にも新しくなった部分はありますか。

 

齊藤:新たに「国内管理人」制度が設けられました。区分所有者が海外に居住して管理に参加できない場合、国内で議決権行使などを担う代理人を置いてもらう仕組みです。マンションごとに規約で定めれば、設置を義務付けることも可能になります。

 

――専有部分の配管など、これまであいまいだった問題も整理されたのでしょうか。

 

齊藤:たとえば築年数の経ったマンションでは、縦の配管は共用部分として管理組合で管理する一方、各住戸内の横引き管は専有部分として個人負担になることが通常でした。ただ、各住民ではそこまで管理できないことも多い。そこで、規約で定めて総会決議を行えば、管理組合が一体的に修繕できるよう整理されました。

 

また、「管理組合は不動産を保有できるのか」という点も明確化されました。将来の建替えに備えて隣地を取得する場合など、これまでも実務上は行われてきましたが、法的に認められるのかはあいまいでした。そこで、今回の改正で管理組合法人が不動産を所有できることを法律上明確にしたのです。いわば、現場が必要に迫られて積み重ねてきた実務を、法律がようやく後追いで認めてくれた。その意味で、これは前向きに頑張っている管理組合への応援にもなる改正だと思っています。

 

 

――今回は区分所有法だけでなく、複数の法律にまたがる改正だったと聞きます。

 

齊藤:今回は、区分所有法、被災マンション法、マンション管理適正化法、マンション再生円滑化法の4法改正です(※1)。

 

区分所有法改正の議論では、外部管理者方式(第三者管理者方式)も論点になりました。管理組合の担い手不足を背景に、管理会社など外部専門家が管理者を担う方式ですが、「管理会社に任せて本当に大丈夫か」「利益相反が生じないか」という懸念もあります。

 

そのため、外部管理者方式を導入する際には住民への説明会を実施すること、大規模修繕工事の発注時にも住民への説明責任を果たすことなどが、マンション管理適正化法の中で整理されました。

「決議要件の緩和から所在が分からない区分所有者の除外、総会運営の見直しまで行われた」と話す齊藤さん

▲「決議要件の緩和から所在が分からない区分所有者の除外、総会運営の見直しまで行われた」と話す齊藤さん

(※1)1. 区分所有法=正式名称:建物の区分所有等に関する法律 2. 被災マンション法=正式名称:被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法 3. マンション管理適正化法=正式名称:マンションの管理の適正化の推進に関する法律 4. マンション再生円滑化法=正式名称:マンションの再生等の円滑化に関する法律

 

過去記事「マンション管理の新しい形「第三者管理者方式」とは?」では、分譲マンション管理組合向けの管理受託サービス「smooth-e(スムージー)」を紹介

 

 

――決議要件の引き下げについては、専門家の皆さんの間でもかなり意見が分かれたそうです。

 

齊藤:個人的には、決議要件の引き下げには最後まで慎重でした。本当に下げる必要があるのか、強い疑問があったからです。

 

今のマンションは二極化しています。管理にしっかり取り組んでいるマンションがある一方で、管理不全に陥っているマンションもあります。私は今回の改正は、どちらかと言えば管理不全マンションを救うことに比重が乗っていると考えています。

 

決議要件を一律に下げれば、これまで高い合意形成を重視してきたマンションにも影響が及びます。そこには慎重であるべきだと思っていました。つまり、“頑張っているマンション”の足を引っ張らないということです。

 

 

――それでも最終的には落としどころを見いだしたということでしょうか。

 

齊藤:結果としては、管理不全マンションを救うために一定の要件緩和を認めつつ、適切に管理されているマンションは従来どおり運営できる余地を残す形になりました(最低、区分所有者・議決権の過半数が参加すること、さらに高い基準を規約で定めることが可能)。

 

つまり、一律に要件緩和するのではなく、「それぞれの、マンションの実情に応じた管理や合意形成を考えていきましょう」という方向に舵を切ったともいえます。

 

 

――一部のメディアやマンション業界の関係者からは、踏み込んだ改正だという声もあるようです。

 

齊藤:今回の改正では、全国のマンションで管理規約の見直しが必要になります。すべての管理組合に「規約を確認し、改正してください」と求める制度改正は、これまでありませんでしたので、踏み込んだという声も上がっているのかもしれませんね。

 

これまでは法律が変わっても、「条文が少し変わった」という程度で終わることが大半でした。しかし今回は、日本中のマンションに自らの規約を見直すことを求めるため、規約全体を見直すきっかけになる改正です。自分たちのマンションの規約と新しい標準的な規約(国土交通省作成 標準管理規約)を見比べ、「どこが違うのか」「どの仕組みが自分たちに合っているのか」を考える機会にしてほしいと思っています。

決議要件の引き下げには最後まで慎重だったと語る齊藤さん。マンションごとの実情に応じた合意形成の必要性を説く

▲決議要件の引き下げには最後まで慎重だったと語る齊藤さん。マンションごとの実情に応じた合意形成の必要性を説く

――今回の法改正を活かせるマンションと、活かせないマンションの違いは何でしょうか。

 

齊藤:法改正だけでなく、マンションに起こっていることを「自分たちのこと」として捉え、よりよい環境づくりに取り組める体制があるか、ないか。法改正などをきっかけに共創の場づくりを楽しんで行えるかだと思います。たとえば、共に学ぶためにイベント形式で法改正を学んだり、子ども向けクイズにして親も一緒に考えたりする。そうした形で関心を高め、自分たちのものとすることが、結果として制度を使いこなし、コミュニティの育成、質の高い管理につながると思います。

 

 

――そうした関心を高め、実際の行動につなげるためには、何から始めるべきでしょうか。

 

齊藤:私は、「みんなで力を合わせて管理計画認定(※2)を取ってみましょう」といっています。認定を取得したマンションの約4分の3では、管理規約や長期修繕計画の見直しが進んでいます。

 

共通目標ができることで、管理への関心が高まり、ネガティブな意見も乗り越えやすくなります。自分たちのマンションへの誇りが高まるというデータもあるほどです。また、認定取得への取り組みはいわば、マンションの健康診断。「自分たちのマンションは問題ない」と思っていても、点検して初めて課題が見えることがあります。

 

(※2)管理計画認定制度とは、マンションの修繕や管理が国の基準を満たしていることを地方公共団体が認定する制度。

 

 

――マンションプラスでもマンションの老朽化問題について、これまで何度も取り上げてきました。法改正を機に老朽マンションの建替えが進むかどうか、現場にも接してきた中での実感はいかがですか。

 

齊藤:実際に今、建替えを本気で検討できるマンションがどれほどあるのかというと、かなり限られると思います。デベロッパーに聞いても、「それほど多くはない」という感覚ではないでしょうか。建替え可能な条件を備えたマンションは立地に恵まれていて、すでにさまざまな提案を受けて、かなり検討が進んでいるともいえます。

 

加えて建築費の高騰も、建替え実現のハードルを上げる、大きな要因となっています。従前より数千万円単位で負担が増える状況は芳しくありません。

 

 

――そうなると、今後のマンションはどのような方向に向かうのでしょうか。

 

齊藤:これからのマンションは「できるだけ長く使う」という方向に舵を切るしかないと思います。すでに80年、100年使うことを前提にした方針を総会で決議するマンションも出てきています。

 

これだけ長期の計画を意識すると、給排水管を更新しよう、窓を二重化しようといった長寿命化投資の議論が進みます。将来の見通しが立てば、予防的な修繕や暮らしの改善にも踏み切りやすくなります。今後は、長寿命化を前提としたマンション運営が増えていくのではないでしょうか。

 

実際に、最近のマンションでは「当面は建替えをしない」と総会で決議し、80年、100年使う方針を示すところも出てきました。先が見えるようになれば、各住戸に内窓を入れる、リフォームをするなど住環境への投資もしやすくなります。マンションの将来が見えることは、住む人自身の人生設計のしやすさにもつながると思います。

 

 

――建替えではない形の再生も広がりそうですか。

 

齊藤:これまでのような「全面建替え一択」では難しくなっていくと思います。残す部分、建替える部分、高齢者向け住宅など別用途に転換する部分を組み合わせる、いわば「ミックス型」の再生が必要になってくるでしょう。

 

実際に大阪では、敷地の一部を売却し、その収益を活用しながら一部を建替えようとしている事例もあります。売却代金を受け取って転出する人もいれば、建替え後も住み続ける人もいます。そうした柔軟な再生手法は今後増えていくと考えます。

これからは「できるだけ長く使う」方向へ。齊藤さんは長寿命化を見据えた再生の重要性を語る

▲これからは「できるだけ長く使う」方向へ。齊藤さんは長寿命化を見据えた再生の重要性を語る

関西初の、敷地の半分以上を保留敷地として戸建業者に売却した、大阪府池田市の建替え事業について、詳しくは以下をご覧ください。
マンション建替え実績・事例 石澄住宅 ブランシエラ池田石澄

 

 

取材・文:小野悠史 撮影:石原麻里絵(fort)

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WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.今回の改正で、心残りだったことはありますか。
A.齊藤:じつはたくさんあります(笑)。たとえば戸建て住宅地への適用です。近年は区分所有法を活用して管理組合をつくる戸建て住宅地も出てきていますが、そこへの適用については、今後の課題として残りました。区分所有ビルについても同様ですね。他にも気になっているのが省エネ対策です。マンションを省エネ化へ向かわせるには、省エネ改修に関する決議要件のハードルを下げるという考え方があります。ドイツなどでは実際にそうした制度設計が取られています。また、区分所有法をもっとわかりやすく、現場に合った法律の条文にしてほしいです。今回は実現しませんでしたが、次の議論につなげていきたいテーマです。