マンションの漏水トラブルは、責任の所在や保険の適用をめぐって思わぬ問題に発展することがあります。マンション管理コンサルタントの土屋輝之さんに、その実態と備えについて聞きました。
原因が専有部か共用部かで異なる。漏水トラブルの責任は誰に?
――マンションで漏水が起きた場合、責任の所在は?
土屋輝之さん(以下、土屋):専有部に原因があるときは専有部の所有者、共用部に原因がある場合は管理組合が責任を負うというのがセオリーです。外壁の亀裂からの浸水による漏水被害をめぐる訴訟で、最高裁判所は2026年1月22日、「管理組合に賠償請求できる」との初判断を示しました。ただ、じつはこの裁判の一審と二審では、高等裁判所は「占有者は管理組合ではなく区分所有者全員」という理由で請求を棄却しています。
民法717条1項では「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵(かし・欠陥や不具合など)があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う」と定められています。今回の裁判では「占有者」とは誰かが論点になったわけですが、じつは区分所有法は管理組合に関する規定が非常に曖昧で、同法には「管理組合」という言葉も出てきません。
「管理組合」は区分所有者全員で構成される団体ですから「区分所有者全員」と実質的には同じですが、今回の判決によって「マンション共用部の占有者は管理組合である」ということが明確になったことで、今後、管理組合は運営しやすくなるでしょうし、被害を受けた方は救済措置を受けやすくなるでしょう。給排水管からの漏水についても同様です。
▲土屋輝之さん。さくら事務所 マンション管理コンサルタント。不動産仲介営業から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなど、不動産に関連したキャリアを長年にわたって築き、(株)さくら事務所参画。マンション管理サービス部門責任者※所属会社・役職は取材当時のもの
――外壁は共用部と判断できますが、給排水管はどのように線引きされているのでしょうか?
土屋:マンションによって異なります。各住戸の床下など、専有部にある配管は専有部とされるのが主流ですが、管理しやすくするため規約によって床下を含むすべての給排水管を共用部と定めているマンションもあります。平時から、どこからどこまでが共用部でどこが専有部なのか把握しておくといいでしょう。
漏水トラブルを防ぐことはできるのか。事前にとれる対策とは
――給排水管からの漏水の主な要因は?
土屋:主に経年劣化です。耐用年数は材質によって異なりますが、おおむね20〜30年です。メンテナンス頻度によっても耐用年数は変わってきますので、最低でも年に一度の高圧洗浄は欠かせません。
――給排水管の劣化状況を調べる方法はあるのでしょうか?
土屋:築20年を過ぎたら一度、内視鏡検査をすることをおすすめします。鋳鉄管の場合は「減肉」といって肉厚が経年につれて減っていきます。たとえば元々5mmの肉厚が築20年の時点で4mm程度あれば健全な状態ですが、築10年や15年で半分ほどにまですり減ってしまっていた例もあります。ディスポーザーがあるマンションは特に排水管の劣化が早い傾向があります。
自分のマンションに使われている給排水管の素材についても、把握しておくといいと思います。ステンレスや合成樹脂の架橋ポリエチレン管は基本的に劣化しないため、交換の必要はありませんが、長期修繕計画に不要な給排水管の交換が含まれていることもあるので注意したいところです。
――専有部の配管の状況確認や更新は難しそうですね。
土屋:そうですね。せっかく上質な材質の配管が使われているにもかかわらず、専有部のリフォームで別のものに変えられてしまう可能性もあります。これを避けるためには、リフォーム細則で更新時の材質を規定し、しっかりと申請の内容を精査することが大切です。給排水管の材質だけでなく、接続の仕方や継手の種類なども規定し、遵守してくれた区分所有者には補助金を出すなどしてもいいと思います。
また、リフォーム細則を整えるだけでなく、配管の状態を把握するための、仕組みの整備も重要です。たとえば、管理組合によるメンテナンスの一環として、劣化した排水管の交換を行うときなど、壁や床・天井を剥がすような大規模な専有部のリフォームをする際には、配管の状態もチェックできるといいですね。大規模改修時の検査実施を規約に盛り込むなどして、給排水管の状況確認と適切な更新につなげていくのが望ましいでしょう。
▲床下給水管の錆び・腐食が進行している様子
画像出典:さくら事務所
水漏れが起こったときの対応フロー。火災保険で補償される?
――水漏れが起こってしまったときの適切な対応を教えてください。
土屋:まずは、家財を避けるなどの応急処置をします。理事会あるいは理事長に届け出て、管理会社にも速やかに連絡を入れてください。天井からじゃばじゃば水が漏れてくるようであれば、管理会社が1ヵ所に水が落ちるような処置をしてくれるはずです。管理を委託していない場合は、管理組合が緊急対応をしてくれる会社をあらかじめ見つけておいて、周知しておくといいかもしれません。
続いて、調査です。共用部の瑕疵を要因とする場合、管理組合がマンション総合保険(マンション管理組合向けの火災保険)に加入していれば、調査費用も保険で賄えます。漏水が補償対象となる特約がついていれば、修繕費用についても補償されます。被害を受けた個人が加入している保険でも補償対象になっているケースがありますが、重複して補償されることはありません。マンション総合保険と個人の保険会社が同じであれば内部で調整され、保険会社が違う場合も保険会社同士でやり取りして調整してくれます。
――管理組合がマンション総合保険に入っていれば、個人で火災保険の漏水補償に入る必要はないのでしょうか?
土屋:いえ、できればフルスペックで加入されることをおすすめします。自分が被害を受ける場合だけでなく、加害者になってしまうリスクも想定しなければなりません。加害者になってしまった際の損害賠償費用などが補償される「個人賠償責任特約」は、年間数千円程度と高額なものではありません。また、管理組合がマンション総合保険に加入できないケースも増えていますから、管理組合の加入状況をよく確認しておくことも大切です。
▲「専有部分の配管は、規約によって専有部とされているマンションが圧倒的に主流」(土屋さん)だという。個人で加入する火災保険付帯の個人賠償責任保険なら、専有部での漏水トラブルに備えることもできる
「火災保険」はマンションの資産価値・持続可能性の鍵に
――なぜマンション総合保険に加入できない管理組合が増えているのでしょうか?
土屋:昨今、自然災害が激甚化していることもあって、保険会社の審査が厳格化しています。築40年で給排水管が新築当時のままだったり、屋上防水や外壁が適切にメンテナンスされていなかったりするマンションは、漏水補償を付けてもらえないどころか、保険の加入自体を断られるケースも出てきています。一方で、2026年1月に示された最高裁の判断により、管理組合が漏水に対する備えをしておく重要性が一段と高まりました。加えて、最近は「50年に一度」「100年に一度」とされるような豪雨が頻発しています。配管だけでなく、外壁などからの、雨水の浸入による漏水リスクも高まっています。
補償がないとすれば、修繕費は修繕積立金から拠出されることになりますが、漏水が度重なれば、実質的に修繕積立金ではなく「賠償積立金」になってしまいます。
反対に、しっかりメンテナンスをしているマンションの保険料率を下げる動きも見られています。中古マンションを購入する際に保険の加入状況まで見る方はまだまだ少ないでしょうが、確実にマンションの資産価値や持続可能性に大きく影響する要素のひとつです。
昨今、マンションの資産価値や管理状態の二極化が進んでいますが、火災保険に入れるかどうか、いかに条件の良い保険に加入できるかどうかは、この格差をますます広げていくことになると思います。
▲マンションの資産価値・持続可能性の維持には、「管理組合による定期的な配管の高圧洗浄といった適切なメンテナンスや、備えとしての保険加入が欠かせない」と土屋さんは話す
本来であれば、マンションの管理は住まいや街の安全性に関わりますから、車の車検を義務づけているように、法律で取り締まるべきほどの問題だと私は考えます。国土交通省の管理計画認定制度や管理業協会の適正管理評価制度で、設備や外壁、防水などのメンテナンス状況を可視化できるようにするなど、管理水準の底上げに向けたより実効性のある制度的枠組みが求められるのではないでしょうか。
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取材・文:亀梨奈美 撮影:ホリバトシタカ
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.火災保険に加入できないマンションがとるべき行動は?
- A.土屋:速やかに修繕工事を実施するということに尽きます。借り入れしてでも着手しなければ、管理組合運営のリスクは高まるばかりでしょう。かつては大手管理会社に管理を委託していれば、管理状態にかかわらず加入できるケースもありましたが、今はそのようなことはありません。安全性、居住快適性、資産性……どの観点からしても、火災保険への加入は必須だと思います。
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