マンション販売の常識が変わる? 最新デジタルマンションギャラリーの全貌

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LEDビジョンとXR(クロスリアリティ※)技術の融合で、マンション販売の現場は急速に変わりつつあります。スタイルポートの間所暁彦社長と、環境計画研究所の秋和悟之社長に、マンション販売におけるデジタルギャラリーの今について聞きました。

※現実世界と仮想世界の融合による新体験を生み出す、VR(仮想現実)等を含んだ技術の総称であり、概念のこと

――本日はスタイルポートと環境計画研究所、両社が主催したデジタルマンションギャラリーの体験会に伺いました。まずは、昨今のマンション販売現場を取り巻く状況についてお聞かせください。

 

間所暁彦さん(以下、間所):マンションの販売現場では、従来型の仮設モデルルームに代わる新しい販売スタイルが、急速に定着しつつあります。販売現場にデジタル技術が採用されるようになった当初は、モデルルーム新設にかかる工事費や用地賃料の削減、スクラップ&ビルドを見直すSDGsの観点に重きが置かれていましたが、最近はマンション価格の高騰もあり、デジタルでの購入体験における「没入感」や「感動」を重視する方向に変わってきています。

 

本日はその最先端技術を体感いただく場にお越しいただきましたが、マンション図面情報を3DCGに変換することでPCなどを使った内覧を可能にしたり、マンション販売における各種資料をクラウドデータ化することで販売・顧客側双方の利便性を高めたりするサービス「ROOV(ルーブ)」を展開する弊社は、2020年頃から環境計画研究所さんと協業することも増えてきました。

間所さんプロフィール

▲(写真左)間所暁彦さん。スタイルポート・代表取締役。1991年、矢作建設工業に入社し、2006年より矢作地所の開発担当取締役として不動産開発に携わる。2011年にスタイル・リンクを設立し代表取締役に。さらに2017年にスタイルポートを設立し、現職。※所属・肩書きは取材当時のもの
X:@AkihikoMadokoro

過去記事「スマホ、PCどこからでも物件の内覧可能!? 住宅販売の最先端DX事例と未来像とは」では住宅販売のDX事例を紹介

 

 

――環境計画研究所さんは長年、マンションギャラリーの施設計画を手掛けてこられたそうですね。その間に、リアルな接客の場となるマンションギャラリーではどのような環境やニーズの変化がありましたか?

 

秋和悟之さん(以下、秋和):私たちは20年以上、マンションギャラリーの施設計画や内装デザインに加え、映像や模型など販売に必要なコンテンツも手掛けてきました。コロナ禍をきっかけにオンライン打ち合わせが浸透し、接客スタイルは大きく変わりました。その一方で、デベロッパーにとってのフラッグシップ(最高峰)物件や富裕層向けのマンションでは、リアルな場だからこそ提供できる新しい体験が求められるようになっています。

秋和さんプロフィール

▲(写真右)秋和悟之さん。環境計画研究所・代表取締役社長、読売広告社・執行役員。大学卒業後に環境計画研究所に入社し、マンションギャラリーを中心とした3次元空間プロモーションとして国内・海外のさまざまな空間デザインに従事する。日本空間デザイン賞入選など多数の実績を持つ。※所属・肩書きは取材当時のもの

――お二人の会社はもともと別々に事業を展開されていました。協業のきっかけは何だったのでしょうか。

 

秋和:スタイルポートさんは「ROOV」などで不動産販促の実績を積まれており、デベロッパーからの引き合いも強い。我々が現場に入ると、すでにスタイルポートさんも関わっていることがよくありました。

 

間所:環境計画研究所さんはリアル空間のプロデュース、私たちはオンライン接客や3D表現などデジタルからスタートしました。オンラインでできることが増えたとはいえ、やはり不動産は対面商談が不可欠なので、リアルとデジタル、それぞれの強みを進めるうちに現場レベルで両社の持つ技術などが必要とされて、だんだんと交わってきたと思います。

 

 

――マンション市場の変化が新しい販売手法を後押ししている側面もあるように思います。

 

秋和:以前は大量集客が主流でしたが、コロナ禍以降は一人ひとりに最適化するパーソナライズ型へと変わりました。価格高騰によって富裕層向けと一般向けの二極化も進んでおり、それぞれに合った売り方が必要です。必要とされた住まい選びにもきちんと向き合い、それをテクノロジーで支えることが重要だと考えています。

 

 

――今日の体験会では、LEDビジョンを活用した空間演出を拝見しました。改めて、どのようなものか教えていただけますか。

 

秋和:今のマンション販売の最前線は、デジタル技術を組み合わせたプレゼンテーションへと進化しています。プロジェクションマッピングなども活用してきましたが、特にここ数年はLEDビジョンの活用が大きく広がっています。

 

 

――具体的にはどのような使い方があるのでしょうか。

 

秋和:たとえば、リアルなリビングやキッチンの空間にデジタルルームを組み合わせ、シームレスにシミュレーションを体感できるようにしました。野村不動産さんの合同ギャラリーでは、3面のLEDで複数物件を次々に切り替えて見せたり、ユニットバスのサイズ感を比較したりしています。

 

 

――眺望の再現にも使えると伺いました。

 

秋和:LEDは発色が良く、特に夜景を美しく表現できます。悪天候の日でも晴天時の眺望を見せたり、夜の周辺環境を鮮やかに再現したりすることで、お客様の不安を和らげることができます。L字型の壁面や床面を活用すれば、実際以上の広がりや臨場感、季節感まで演出できます。

LEDビジョンには、夜景が鮮やかに映し出されている

▲LEDビジョンには、夜景が鮮やかに映し出されている

LEDビジョンはマンション周辺の道路もリアルに映し出す

▲LEDビジョンはマンション周辺の道路もリアルに映し出す

――構造の説明にも活用できるそうですね。

 

秋和:そうですね。鉄筋やコンクリートの構造を等身大で見せたり、床に図面を投影したりして距離感を体で理解していただくこともできます。頭で理解することと、体感するのとでは納得感が大きく違うと評価いただいています。

LEDパネルは床にも設置可能。室内に家具を置いた場合のサイズ感も把握しやすい

▲LEDパネルは床にも設置可能。室内に家具を置いた場合のサイズ感も把握しやすい

――ハード面の進化も著しいと聞きました。

 

秋和:以前のLEDは施工やメンテナンスに大きな手間がかかりましたが、今は壁から約9cm程度の厚みで設置でき、前面から施工や部品交換が可能です。施工性もメンテナンス性も大きく向上しました。

 

 

――続いて、Apple Vision Proを活用したXR体験についてお聞きします。数あるデバイスの中で、なぜApple Vision Proを選んだのでしょうか。

 

間所:理由は大きく3つあります。1つ目は高精細であることです。他社製品ではドットの粗さが気になることもありましたが、Apple Vision Proは非常に自然に見えます。2つ目は空間精度の高さと低遅延性です。自分が動いても仮想オブジェクトがしっかりその場に留まり、酔いにくい体験が可能です。3つ目は、本体だけで体験できることです。従来のように高性能PCと有線接続する必要がなく、自由度の高い体験ができます。

Apple Vision Proを装着すると、写真中央に映るマンションが視界に入ってくる

▲Apple Vision Proを装着すると、写真中央に映るマンションが視界に入ってくる

――実際の体験の流れを教えてください。


 

間所:まず、デジタル化したマンション模型を目の前に表示し、建物全体の構成を見ていただきます。その後、実寸大の空間に切り替わり、エントランスや共用部、専有部の内部へと入り込んで体験していただきます。天井高や空間の広がり、昼夜の違いなども直感的に把握できます。

 

 

――竣工前に先行内覧のような体験ができるわけですね。


 

間所:そうです。建物全体の把握から実際の空間を体感するところまで、竣工前にご案内できます。以前は、事前に情報を見せすぎると来場につながらないという考え方もありましたが、今は集まったお客様一人ひとりに丁寧に向き合い、納得して購入していただくことが重視されるようになり、その中でデジタルの活用も広がってきています。

 

 

――没入体験が購入につながるのは、どういう点にあるのでしょうか。


 

間所:不動産は高額な買い物なので、感動だけでは購入に至りません。理屈としての納得と、身体的な実感の両方が必要です。従来のモデルルームは感覚的な魅力を伝える場としては優れていましたが、常にスペースを必要とするため、コスト面での制約があり、それだけでは必要十分な情報を提供できているとは言えませんでした。デジタルは理屈も身体的な実感も両方をアシストするものであり、購入行動に結びつけるには、こうした体験が、物件への深い理解や納得感をどれだけ助けているかが、より問われてくると思います。

 

 

体験会には、デベロッパーや販売センターの担当者など16社が参加。実際にLEDビジョンとXRを体験した3名に感想を伺いました。

 

「クオリティとコストの選択肢が広がれば、導入が一気に進む」 デベロッパー担当者・Aさん

 

 

――実際に体験してみて、いかがでしたか。

 

A:XRについては以前も使ってみたことはありましたが、クオリティが低く、「これではお客様が買うことにはつながらないだろう」と見送っていました。でも今日体験してみて、内容やクオリティが進化しているのが分かりました。特に共用部の中に入って空間が見えるというのは今まであまりなかったので、あれは使ってみたいなと思いました。

 

 

――課題に感じる点はありますか。

 

A:一部屋ごとのバリエーションを作るコストとのバランスですね。販売の現場では忠実に再現するよりも、大づかみにイメージが伝わればいいという場面もあるので、クオリティとコストの「松竹梅」が選べるようになるといいですね。

 

「ここまで来たか、と驚いた。未来しかない」 販売センター営業担当・Bさん(中堅)

 

 

――率直な感想を聞かせてください。

 

B:もうここまで来たか、というのが率直なところです。4〜5年前と比べて進歩しましたね。ここまでクオリティが高いと、実際の模型がいらなくなってくるなと。お客様にギャラリーに来てもらわずとも、XR機器を持参して、どこでもご体感いただくことができるようになれば、マンション販売の根本が変わるだろうと思います。

 

 

――さらにこんな機能が追加されたらいいな、という要望はありますか。

 

B:没入感はかなり高いので、風や温度、あとは「音」ですかね。フローリングとタイルで歩いた時の靴の音が違うとか、素材の質感がよりリアルになるとさらに凄いことになりそうですね。実際に自分で体験してみると、未来しかないなと感じました。

 

「提案の武器や引き出しが増えるのは大歓迎」 販売センター営業担当・Cさん

 

 

――体験してみて、特に印象に残った点は?

 

C:Apple Vision Proで上を見上げた時のタワーマンションの迫力が非常に印象的でした。タワー物件の販売では、あの存在感を伝える手段として有効だと思います。また、モデルルームでは伝えにくい廊下やエントランスなど、共用部の雰囲気を体験してもらう場面でも活用できそうです。

Apple Vision Proを装着すると、視界には仮想空間が広がり、マンションを地上から眺めるようなイメージが見える。左モニターにはApple Vision Proで見えているイメージが映る

▲Apple Vision Proを装着すると、視界には仮想空間が広がり、マンションを地上から眺めるようなイメージが見える。左モニターにはApple Vision Proで見えているイメージが映る

LEDビジョンに映る、マンションのエントランス。床面のパネルもイメージを投影し、目前に立っているような感覚を味わえる

▲LEDビジョンに映る、マンションのエントランス。床面のパネルもイメージを投影し、目前に立っているような感覚を味わえる

――今後、デジタルマンションギャラリーの技術や活用はどのように進化していくと考えていますか。

 

秋和:XRに適した部分と、LEDビジョンのように肉眼で見るのに向く部分があるので、それぞれを無理に混ぜるのではなく、適切に使い分けることが大事だと考えています。XRを主役にするなら空間設計そのものも変わってきますし、一方で、肉眼で確認したいというニーズにはLEDが有効です。今後はその使い分けの幅がさらに広がっていくと思います。

 

間所:リアルのモデルルーム、LEDビジョン、XRといった複数の手法をどう組み合わせ、お客様に最適な形で提案するかという総合的な設計力が、今後ますます重要になると感じています。

 

 

――マンション販売のスタイルそのものが変わっていく、ということでしょうか。

 

秋和:以前のように、大量集客や営業力に頼る売り方ではなく、これからは一人ひとりに合わせた「個別最適」の時代になっていきます。そうした変化の中で、マンションギャラリーのあり方そのものが見直されているのだと思います。

 

間所:実際の施設運用を通じて事例も増え、現場の声を反映しながら改善を重ねる段階に入っています。以前は受け入れられにくかった提案も、今は業界全体がデジタルとリアルの最適な組み合わせを真剣に考えるようになってきました。

時代が変わる中で、両社のタッグは必然だった

▲時代が変わる中で、両社のタッグは必然だった

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

 

秋和:不動産は非常に高額な買い物です。お客様に「納得」と「感動」の両方を届けられる場を、テクノロジーを活用しながら追求していきたいと考えています。

 

間所:マンションギャラリーは今後も進化していきます。リアルにしかできないことと、デジタルだからこそできること、その両方を活かしながら、お客様一人ひとりに最適な購入体験を提供していきたいです。

 

 

取材・文:小野悠史

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WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.マンション販売におけるデジタル技術の普及を振り返って、印象的なことは?
A.間所:コロナ前は「ネットで情報を出しすぎると、お客様がモデルルームに来てくれなくなるから邪魔だ」と、はっきり言われたこともありました。当時の王道はとにかくモデルルームに呼び込んで、リアルな接客でなんとかする、というスタイルでしたから、3Dモデルやデジタル接客ツールを提案しても、話を聞いてもらえないこともありました。それが今では、デジタルを使っていかに一人ひとりに最適な体験を届けるかについて同じ業界の方々と真剣に話をしている。時代は変わるものだな、と感慨深いです。