マンションプラスの読者から「犬が風の音を怖がる」というお悩みが寄せられました。犬はなぜ音を怖がるのか、マンションで犬と快適に暮らすにはどうすればいいのか。『いぬのきもち』編集長の田中深雪さんに聞きました。
犬が音を怖がる理由と、マンションで起きやすい「音ストレス」
――まず、犬が苦手とする傾向がある音にはどのようなものがありますか。
田中深雪さん(以下、田中):犬が怖がる音は、次のように多岐にわたります。
・インターフォンやチャイム
・雷・雨・風などの悪天候
・花火
・地震や緊急地震速報のアラーム
・救急車のサイレン
・飛行機・大型トラック・バイクなどの乗り物の音
・工事音
・人の話し声や足音 など
インターフォンやチャイムの音に対して犬が吠えるという悩みが圧倒的に多いですが、最近はゲリラ豪雨や台風なども多いですから、天候による悩みも増えている印象があります。
犬は「予測できないこと」に対する警戒心が強く、人間以上に危機を察する能力が高い生き物です。大型犬と比べて小型犬のほうが音に敏感な傾向がありますが、人間と同じように性格はそれぞれ異なり、育ってきた環境や住環境も違うため、どんな音が苦手なのかはその子次第です。一方で、環境に順応しやすいという特性もありますので、慣れてしまえば平気という子も少なくありません。
――犬は「警戒」や「恐怖」を感じると、どのような行動をとるのでしょうか?
田中:まずは、やはり吠える子が多いですね。他には、しっぽや耳が下がったり、固まって動かなくなったりすることもあります。愛犬が吠えると「近所迷惑になっていないか」と心配になってしまいますが、警戒心から生じる本能的な反応でもあります。しつけをしていても咄嗟に吠えてしまうこともあり、完全に抑えるのが難しいこともあるかな、と思います。
一方で、過度に吠えたり、鳴き叫んだりするような音ストレスが多い生活環境は、犬にとっても望ましいものではありません。飼い主としても、愛犬が吠えてしまうことでのご近所トラブルが気になるところですよね。
▲田中深雪さん。生活情報誌とWebの編集を経て、2019年4月から『いぬのきもち』編集長。愛玩動物飼養管理士の資格を持つ。※所属先・肩書きは取材当時のもの
犬が安心できる住まいとは? 今日からできる環境づくり
――過度な「吠え」に対して、何か対策できることはあるのでしょうか。
田中:物理的に音ストレスができるだけ少ない環境をつくることが大切です。悪天候が原因であれば、外の音が入りにくいように防音カーテンをつけるのも有効でしょう。また、テレビや静かな音楽など、愛犬が聞き慣れた音を流しておくことで、外からの音の刺激を和らげる効果が期待できます。留守番中も、あえてテレビをつけておくというご家庭もあります。インターフォン対策の王道として、チャイムを鳴らしてその都度おやつを与え、「チャイムが鳴る=いいことが起きる」というイメージに変える方法もあります。
どのようなことが原因であっても、安心させてあげることが一番の対策になります。元来、犬は自分の居場所がほしい生き物ですから、快適で安心できるハウスやベッドを用意しておくのも大切です。日差しが直撃するのを避け、地震の際には家具の転倒などからも守られるので、ハード系のクレート(丈夫な素材で作られた箱型キャリー)もおすすめです。
犬は飼い主の反応に敏感で、強く影響を受けます。飼い主が慌てたり、大きな声を出したりするとかえってその行動がエスカレートしてしまうこともあります。犬は言葉を理解しにくく、かえって「かまってもらえた」と誤解して喜ばせてしまうことも。何かをやめさせたいときは、怒るより「誘導する」ほうが圧倒的にスムーズです。特に生後4ヵ月頃までは「社会化期」といって恐怖心より好奇心が強い時期です。この時期に音に慣らしておくと、ストレスを感じにくくなります。ただ、犬は非常に賢いので、この時期を過ぎても時間をかければ学んでいってくれます。
一方で、一度でも強い恐怖体験をすると、その音を覚えてしまい、その後も過敏に反応するようになってしまうこともあります。特定の音にパニックになるなどの傾向があるなら、かかりつけの獣医師に相談をするのも解決の糸口になるかと思います。相談しながら行動療法や投薬といった治療を行うことで症状の緩和や改善ができることもあります。しつけや生活環境の工夫を頑張っても解決が難しい状況がある際には、お一人で抱え込まずに相談できる方に打ち明けてください。
――音対策だけでなく、マンション暮らしに取り入れられる、犬のための環境づくりとは?
田中:音対策にも通ずるところですが、フローリングには滑りにくいカーペットやマットを取り入れていただくのも手だと思います。床が滑りやすいと、小型犬は特に脱臼などのリスクが高くなります。
また、最近のマンションは段差も少なく、バリアフリーになっている物件も多いですが、ソファが盲点になりがちです。小型犬の骨は非常に細いので、ソファから飛び降りるだけで骨折してしまうこともあります。段差は椎間板ヘルニアの原因になることもありますので、ダックスフンドなど胴長の子がいるご家庭では、特に気をつけていただきたいですね。
▲ヒトと愛犬との生活総合誌『いぬのきもち』は、犬のお世話、しつけ、健康などの基本の育て方から、グッズやお出かけなどのライフスタイルまで、幅広い情報を伝える通販月刊誌。「飼いはじめの方向け」と「ベテラン飼い主向け」の2タイプあり、今年で24年目。また『いぬのきもちWEB MAGAZINE』では、本誌には載っていないエンタメ情報なども幅広く公開している。いぬのきもち・ねこのきもち公式 X:@inunekome
内窓・IoT・ポータブル電源…犬と人の暮らしを変える先進的な設備
――犬を飼っていると「暑さ対策」も重要ですよね。
田中:最近は異常なまでに暑くなっていますからね。そして、暑い時期が長い。小型犬に最適な温度は26度前後、大型犬となると20度でも暑いくらいですから、初夏から秋口までエアコンは常時つけっぱなしが基本です。直射日光が厳しい窓には遮熱シートを貼るなどの対策も有効です。
加えて「内窓」の設置も検討してみてください。既存の窓の内側に窓を取り付けることによって、夏は外からの熱を防ぎ、冬は部屋の暖かさを逃がしません。犬はもちろん、人間も快適な室温で過ごしやすくなり、光熱費の削減にもつながるかと思います。窓やサッシは変えられないというマンションも多いと思いますが、内窓なら設置できることが多いはずです。
内窓は、断熱と防音、どちらの効果も期待できます。外からの音も室内からの音漏れも軽減するので、犬を飼っているご家庭には大変おすすめです。「先進的窓リノベ2026事業」という手厚い補助金制度も設けられています。最近は共働きで日中は家を空けるご家庭も多いですから、夏の暑い日にいつの間にかエアコンが切れてしまったら一大事です。断熱性が高ければ、エアコンで冷やされた室内がすぐに暑くなることを軽減できるので、安心感が違ってくると思います。
▲既存のサッシと内窓の間の空気層が熱の移動を遮断し、断熱性能が高まる
画像出典:環境省「先進的窓リノベ2026事業」
――「内窓」以外におすすめの設備はありますか?
田中:最近は「ペットIoT」の開発が非常にさかんで、見守りカメラは一気に普及したと思います。外出中にペットに万一のことがあっても、すぐに気づいて対策をとりやすいので重宝します。また、停電でエアコンが停止してしまった場合も、スマートリモコンがあれば、復旧後すぐに外からエアコンを稼働させられます。
スマートキーも便利だと思います。仲の良い人でもなかなか鍵を預けることはできませんが、スマートキーなら外出先から施錠・解錠ができますから、自分がなんらかの理由で帰宅できない場合もどなたかに来てもらえば、ペットの様子を見たりお世話してもらったりすることができます。
――先進的な設備は「防災」にも役立つのですね。
田中:そうですね。防災という意味では、ポータブル電源も、もしもの時に役立つと思います。昨年、石巻に取材に伺ったのですが、犬を飼っているご家庭は口を揃えて充電器やポータブル電源はマストとおっしゃっていました。マンションにお住まいの方が在宅避難する場合にも重宝するでしょう。ポータブル電源は災害時だけでなく、ペットとのお出かけやキャンプなどでも使用できますので、備えておいて損はない設備だと思います。
▲田中さんは夫婦でマンションに暮らし、犬1頭、猫2匹と生活する
ペットと共生する時代に、マンションに求められる住環境とは
――犬と共生しやすいのは、どのようなマンションですか?
田中:まず、段差が少ないマンションは人にも犬にも優しいですよね。脱走や転落防止の観点では、犬が飛び越えられる高さの窓やすり抜けられる隙間のあるベランダの柵には注意が必要です。
また、最近は内窓を付けずとも、もともとの断熱性能が高いマンションも増えています。遮音性能もマンションによって違いがありますから、こうした性能にも目を向けてみると良いかもしれませんね。
――マンションにはペットを飼っているご家庭もあれば、犬や猫が苦手な方も暮らしています。どのように共生していけばいいとお考えですか?
田中:犬や猫を飼うのは特別なことではありません。犬や猫が好きな人もいれば、苦手な人もいるのは当然のことです。犬を飼っている方については、それを当たり前とは思わず、マンションの管理規約を守るのはもちろん、周りの方への配慮が不可欠です。
同時に、コミュニケーションをとることも意識してみていただきたいですね。愛犬が吠えやすいなら先に「吠えたらすみません!」と伝えたり、積極的に挨拶したり、飼い主さん同士が日頃からコミュニケーションをとっておくことで、有事の際に助け合うこともできます。
また、ペットを飼っていない方とマンション内ですれ違ったり、エレベーターで一緒になったりすることは避けられません。犬は知らない人を警戒しがちなので、音への反応と同じで急に触れられると驚いて吠えたり、噛んだりすることもあります。飼っていない方は、急に触らずにまずは飼い主に「触ってもいいですか」と聞いていただけるとありがたいです。お互い配慮が必要だと思います。
そして何より大切なのは、飼い主と犬とのコミュニケーションです。いくら環境が整っていても、信頼関係ができていなければ犬が心から安心して暮らすことはできません。ただかわいがるだけでなく、犬の生態を理解し、犬にとっての「快適」や「安心」を考えて日々向き合っていただくことが、愛犬とご自身との穏やかな暮らしにつながっていくのではと思います。
▲愛犬が安心・安全でストレスを感じない環境づくりの鉄則は「基本のしつけと室内環境+頼れるモノの活用+コミュニケーション」だという
取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵(fort)
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.田中さんもマンション暮らしとのこと。犬との暮らしで気をつけていることを教えてください。
- A.田中:まず、床にはコルクマットを敷き詰めています。飛びはねたり走り回ったりするので、足腰への負荷を軽減するためというのと、やはり防音対策も兼ねてのことです。ご紹介した見守りカメラは各部屋に付けていて、何かあればすぐ帰宅できるようにしています。あとは、隣人との良好な関係性をつくり、トラブルを未然に防ぐためにも、コミュニケーションは大切です。私は積極的に挨拶するようにしています。過度に仲良くする必要はありませんが、お散歩の際に会ったら挨拶してみる、少しお話ししてみるのも良いと思います。
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