緑あふれる外観が印象的な、大阪ガスによる実験集合住宅「NEXT21」は、ただのマンションではありません。社員とその家族がそこに暮らし、大阪ガスの最新技術などを試しながら、30年以上、未来のより良い暮らしに向けて実験を続けてきました。担当者に、取り組みを始めた背景やこれまでの歩みについて伺います。
住みながら、未来の技術を試す場所
──1993年に竣工したNEXT21は、住んでいる人たちの、毎日の暮らしそのものが研究になるユニークなプロジェクトです。そもそもどのような背景でスタートしたのでしょうか。
内上裕介さん(以下、内上): じつは1993年のNEXT21竣工以前から、大阪ガスでは「未来の暮らし」を見据えて実験を行っていました。たとえば、高度経済成長期の1968年には、建物全体で換気を行う仕組みや、ガスメーターの自動遠隔検針など、現在の住宅では一般的になった設備の実証実験に取り組みました。また1985年には、「省エネ住宅」や「スマートホーム」の原型を、実験住宅で先行的に検証していました。
▲高度経済成長期にあたる1968年に建てられた、東豊中実験住宅
▲1985年に建てられ、実験の場として使われたアイデアル住宅NEXT
その後、ガス機器単体ではなく、より広義に「未来の暮らし」を考えるため、東京大学の内田祥哉先生や京都大学の巽和夫先生(ともに故人)をはじめとする有識者の方々と共同でつくった実験集合住宅がNEXT21でした。
──NEXT21は、どのような考えでつくられたのでしょうか。
内上: 建物そのものは長く使いながら、内装や設備は時代に合わせて更新していく、という考え方を採用しています。具体的には、建物の骨格(スケルトン)は100年使うことを想定し、一方で内装や設備(インフィル)は柔軟に改修していく。これを私たちは「スケルトン・インフィル」と呼んでいます。
NEXT21では、実験期間を約5年ごとに分割して各実験テーマを設定し、10〜30年後の暮らしを見据えた居住実験を重ねながら、内装や設備、住まい方などをアップデートしてきました。
──これまでに、どのような実証実験が行われてきたのですか?
内上: それぞれの時期における社会課題に合わせて、大きく「先進的なエネルギー技術の実証」「都市部における環境共生」「新しい住まい方の発信」の3軸で実験を進めてきました。なかでも注力してきたのは、弊社の主力事業であるエネルギー分野です。
たとえば、燃料電池ひとつとってもいくつかの種類がありますが、NEXT21では実験の時期ごとに時代を先取りする燃料電池の技術を試し、その後、実際の商品として広まったものもあります。ほかにも、エネルギーを効率良く使うシステムや、水素をエネルギーとして住宅で利用するための仕組みなど、常に時代の一歩先をいく技術を検証してきました。
▲内上裕介さん。大阪ガス エネルギーソリューション事業部 計画部 環境政策チーム マネジャー。2006年に入社以降、新築の集合・戸建住宅ジャンルにおける技術サポートに携わる。その後、家庭用ガス機器の商品開発責任者などを経て、2025年より現職。※所属先・肩書きは取材当時のもの
──NEXT21は、1階の中庭から屋上庭園まで緑が連続しているのが印象的です。建物の中にここまで豊かな緑を取り入れたのは、当初からの構想だったのでしょうか。
内上: そうですね。1993年当時は、都心部の緑がいま以上に貴重でした。そのためNEXT21では、大阪城公園と天王寺公園を結ぶ“野鳥の通り道”のような存在を目指して、建物の中に緑を整備しました。
緑地の管理には「日本野鳥の会」にも協力をいただき、専門的なアドバイスを受けながら運営しています。結果として、暑さを和らげるヒートアイランド対策だけでなく、住民同士の交流にもプラスに働いています。
▲NEXT21の全景
▲NEXT21は至るところに「緑」を感じる設計だ
社員と家族の“リアルな暮らし”が、実験のヒントになる
──NEXT21のユニークな点は、実験棟でありながら「実際に人が住んでいる」こと、そして居住者が未来の暮らしを創るための「共同研究員」のような側面を持っていることだと思います。やはり、居住者は研究職の社員が中心なのでしょうか?
内上: 住人はグループ社員とその家族から募集していますが、研究とは関係ない部署の社員もたくさん暮らしています。「研究者ばかりではデータの偏りが出る」という考えから、あえてそうしているのです。ただし、実験住宅ですので「実験への積極的な協力」は条件から外せません。また、実験の時期によっては「住戸の一部をパブリックな場として公開する」といった、生活者としては少しハードな条件が付くこともあります。
なお、竣工当初は「4人世帯・専業主婦」という家族構成が主流でしたが、現在までにライフスタイルは多様になり、少子高齢化、共働き、リモートワーク、さらにはシェアハウスと、大きく変化してきました。NEXT21では、実験の時期ごとに、こうした変化に対応したコンセプト住戸を造っています。たとえば、「高齢の母子家族」と「その親族が隣に住む」といった具体的なシチュエーションを設定して募集をかけることもあり、条件によっては非常に高い倍率になります。
──「実験への協力」とは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか。
内上: たとえば、48時間の停電実験があります。居住者は実際に停電した住戸で過ごし、「どう工夫して暮らすか」「何に不満を感じるか」を記録します。積極的に動いてくれる人もいれば、動かない人もいる。その「なぜ動かなかったか」というヒアリングこそが、リアルな知見になるのです。
資材の再利用にこだわる、NEXT21流の改修
──2025年度からは、NEXT21の実験は新たな段階に入っているそうですが、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
内上: これまでは、省エネ性能や新しい設備の実験が中心でしたが、NEXT21も竣工から30年以上がたち、これからは「建物をどう改修しながら長く使い続けるか」に目を向けています。現在は、環境負荷を抑えながら建物を長く使い続けることに加え、日本の住居文化を現代の暮らしの中でどう受け継いでいくかなどもテーマに、既存住戸の改修プロジェクトに取り組んでいます。
──どのようなプロジェクトでしょうか?
内上: 最大の特徴は、「できるだけ捨てずに再利用する」という考え方です。通常の改修工事では、部材を壊しながら解体することが一般的ですが、今回は再利用を前提に、できるだけ傷つけないよう丁寧に取り外しました。NEXT21ではこれを「丁寧解体」と呼んでいます。
取り外した部材は、一つひとつサイズや重さを測定し、写真とともに記録。そのデータをもとに、「この部材を次の住戸のどこで使えるか」を検討しました。その結果、回収した部材の約7割が再利用できる状態でした。また、回収した部材を504住戸改修で再利用することで、従来の方法と比べてCO2排出量を約47%削減できました。一方で、丁寧に解体するぶん時間がかかるという課題も見えてきています。
▲住戸の部材は、可能な限り再利用できるように丁寧に解体された
▲解体された部材は、再利用を待つあいだ、NEXT21の地下にある設備室に保管された
──空間デザインの面でもユニークな工夫がされているそうですね。
内上: はい、たとえば和室の欄間(らんま)のように空気が抜ける構造を取り入れることで、一般的なダクトを使わずに部屋全体を空調しています。
▲和室における欄間のような構造を採用したNEXT21の室内
また、間取りは建具を柔軟に開閉することで、個室としても、大きなリビング空間としても使えるようにしています。
▲建具の開閉によって、一つの部屋としても、別々の部屋としても利用できる
NEXT21で試された技術は、どう社会に広がったのか
──この30年以上の実験は、実際の製品やサービスにどのようにつながっているのでしょうか。
内上: 実は、皆さんが日常的に使っている製品の中にも、NEXT21での実験を経て世に送り出されたものが数多くあります。代表例が、家庭用燃料電池「エネファーム」です。NEXT21では2000年頃から実証実験を重ね、その後の商品化につながりました。
また、自宅で使いきれなかった電力を大阪ガスが買い取る仕組みも、NEXT21での実験データをもとに事業化されています。ほかにも、ガラストップコンロやミストサウナなども、NEXT21で検証されてきました。
──単に機器をテストするだけでなく、「暮らし」とセットで検証することを大事にされているのですね。
内上: そこは非常に重要です。エネルギーの会社とはいえ、エネルギーだけを語っていては、世の中は振り向いてくれません。住まいや人々の暮らしとセットで価値を提案していく必要があります。
私たちの目的は、NEXT21を通じて社会をより良くしていくことです。今後は実験結果の論文化や外部発信も、今まで以上に強化したいと考えています。また、建物の中での実験にとどまらず、「都市で集まって住む意味を再定義する」といった、より大きなコミュニティや地域社会への価値還元を深めていきたいですね。
取材・文:榎並紀行
WRITER
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami
おまけのQ&A
- Q.NEXT21が「レゴランド®・ジャパン」にあるのは本当ですか?
- A.内上:はい。名古屋のレゴランド®・ジャパンにある、日本の名所を再現した「ミニランド」エリアに、大阪を象徴する建物のひとつとしてNEXT21が展示されています。また、大学の入試にNEXT21についての問題が採用されることもあり、「自分たちの取り組みが社会に届いている」と実感するうれしい瞬間ですね。
▲名古屋のレゴランド®・ジャパンにある、NEXT21を再現したレゴの模型
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