マンションの間取り変更は、構造や規約、リフォーム細則などで制限されることもあります。長谷工リフォームの牛頭さんと田中さんに、事例を交えてお聞きしました。
マンションの間取り変更「できること」「できないこと」
――間取り変更リフォームはどのようなタイミングで検討されることが多いのでしょうか?
田中美佳さん(以下、田中):定年退職されたり、お子さんが巣立ったタイミングで居室を減らしてリビングを広くしたり、中古マンションを取得したタイミングで暮らしに合った間取りにリフォームしたりする方が多いと思います。
牛頭路子さん(以下、牛頭):キッチンや浴室の交換に合わせて、気になっていた部分をリフォームする方もいらっしゃいますね。
――新築マンションが高騰し、暮らし方や働き方もここ数年で大きく変わりましたが、間取り変更リフォームをされる方は増えていますか?
牛頭:以前と比べると増えていると思います。コロナ禍以降は、お客様の層にも変化が見られています。従来まで定年退職を機に間取り変更リフォームをされる方が圧倒的に多かったのですが、コロナ禍でいつどうなるかわからないと感じて、自分のやりたいことにお金を使う方が増え、それがリフォームにも流れているのかなと感じます。年代でいうとまだお仕事をされている50代の方がリフォームされるケースが増えている印象です。オンライン会議に集中するため寝室にちょっとした書斎スペースを設けたり、多目的スペースを新設されたりするリフォームが多いですね。
――マンションは間取りを自由に変えられるものなのでしょうか?
田中:構造や規約によっては、自由に間取りを変えられないこともあります。柱と梁で支えるラーメン構造であれば大体の壁は取り払えますが、壁で支える壁式構造だと取り払えない壁があるため、間取り変更の選択肢も限られます。
ただ、構造的には可能であっても、管理規約やリフォーム細則などで水回り位置や使える素材などが制限されているケースもあります。特に「音」の問題がハードルとなって、自由にリフォームできないことも少なくありません。たとえば、排水の経路が変わり、階下の寝室の上を通るようになってしまったら、騒音トラブルに発展しかねません。リフォーム細則は、こうしたことを避けるためのものです。
また高層マンションでは、11階以上の居室にスプリンクラーの設置が義務づけられているため、間取り変更が制限されることもあります。スプリンクラーの位置を変えることもできますが、大がかりな工事となりますので費用もかさみます。
牛頭:ご所有のマンションだとしても、構造や規約をよくご存じない方もいらっしゃいます。リフォームの前に、必ず私どものほうで管理会社さんを通じて竣工図や管理規約、リフォーム細則などを確認して「できるリフォーム」と「できないリフォーム」をお伝えしています。
――中古マンション購入直後にリフォームされる方も多いとのことですが、購入前に「できるリフォーム」「できないリフォーム」を確認するにはどうすればいいでしょうか?
牛頭:物件選びの段階で、私どものようなリフォーム業者に相談していただくといいと思います。弊社も、同グループの仲介会社である長谷工リアルエステートからリフォームの見積もりなどを依頼されることもあります。リフォーム前提で中古マンションを購入する際は、お客様、仲介会社、リフォーム業者が連携して進めていかれたほうが、予算オーバーややりたいリフォームができなかったということが避けられると思います。

▲長谷工リフォーム 東京支社 営業部門 インテリア本店営業課 チーフスタッフ 牛頭(ごず)路子さん。インテリアコーディネーター、マンションリフォームマネージャー。*所属先・肩書きは取材当時のもの
間取り変更リフォームはどうプランニングしていく?
――間取り変更リフォームにどれくらいの費用がかかるのでしょうか?
牛頭:費用については、一概には言えません。間取り変更となると、必ず壊すところと補修造作するところが出てきますが、その範囲はプランによって異なります。また、直床なのか、二重床なのか(※)、どの設備や素材を選ぶのかなど、さまざまな要素で費用は変わってきますので、私どもも都度、見積もりを出させていただいております。
(※)直床と二重床……直床は、コンクリートのスラブの上に、直接フローリングなどの仕上げを張る工法。二重床は、コンクリートスラブの上に束と防振ゴム、パーティクルボードなどで二重床の下地を組み、その上にフローリング材を張る工法。
――最初からプランも費用もきっちり決まるケースは少ないのでしょうか?
田中:そうですね。お客様にもよりますが、ヒアリングさせていただきながら複数回プランとお見積もりを出すことが多いです。その過程で、予算が増減する方もいらっしゃいます。
牛頭:まず一つ目のプランとお見積もりを出さないことには、お客様のご予算感や潜在的なニーズまでは見えてきません。
先日、マンションの間取り変更リフォームをさせていただいたご家族は、3人の息子さんがいずれ出て行くので、3つの部屋を一つの大きな部屋にしてほしいというのが当初のご要望でした。
しかし、一つ目のプランを出したところ、やはりお子さん方はそれぞれの個室がほしいということだったので、次に個室のプランを出しました。その後、収納の大きさや動線などを調整していき、最終的に6つ目のプランで確定。ご予算を抑えたいというご要望もあったので、プランだけでなく、使用する素材や導入する設備も考慮しながら費用を調整しつつプランを作っていきました。
田中:こちらのお客様は、最初に現状を見せていただいてから着工するまで半年程度かかりました。工事は2ヵ月程度です。

▲3人の息子さんがいるご家族の間取り変更リフォームでは、半年間で6つのプランをご提案したという。「お客様と会話を重ね、ご要望をプランへ落とし込んでいきます」と牛頭さん
――工事期間中は別の場所に転居しなければならないのでしょうか?
田中:全面リフォームとなると、一時的に転居していただく必要があり、家財も出していただくことになります。こちらで提携している引越し業者や仮住まい先をご紹介することもできます。
ただ、一部の間取り変更であれば、リフォームしないお部屋に家財を移し、生活しながら工事させていただくことも可能です。居住しながら工事したいということで、一部分ずつ改修される方もいらっしゃいます。
――間取り変更リフォームに補助金は出るのでしょうか?
牛頭:補助金の対象となるリフォームは、バリアフリーや省エネ、子育て支援に向けた改修など限定的です。間取り変更というと廊下の幅の拡張などが補助金の対象となりますが、マンションでは多い事例ではありません。間取り変更と一緒にバリアフリーや省エネ改修などを実施することで、補助金が受給できることはあります。
――コストダウンのコツは?
牛頭:近年、資材価格や人件費、物流コストが上昇傾向にあるため、リフォーム費用も上がってきています。これまでは2〜3年に一度程度、メーカーから値上げのお知らせがありましたが、最近は年に2〜3度は値上げが見られます。今後もリフォーム費用は下がる見込みがないので、早く実施することが最大のコストダウンの秘訣かもしれません。
あとは、我々のようなリフォーム会社とメーカーがタイアップしたキャンペーンやイベントを利用いただいたり、オリジナルの商品を採用いただいたりするとコストダウンに繋がると思います。

▲長谷工リフォームオリジナル セミオーダー収納家具 RASHIKU(ラシク)

▲長谷工リフォームオリジナル仕様 プレミアムシステムバス
――間取り変更となるとイメージしづらい部分もあるかと思いますが、どのようにご提案していくのでしょうか?
牛頭:やはり間取り図だけではイメージしづらいので、パースを起こしてご覧いただきます。パースを起こすと、間取りだけでなく、設備や内装材の色や仕様などもイメージしやすくなります。たとえば、クローズドなキッチンからオープンキッチンに変えるなど、お部屋の印象が大きく変わるリフォームの場合は、早い段階でパースを起こしてご覧いただくようにしています。一方、パースでイメージできることにも限界がありますので、メーカーのショールームにお連れすることもあります。
――間取り変更リフォームをスムーズに進めるコツは?
牛頭:ご家族でよく話し合っていただくことが大切だと思います。先ほどの3人の息子さんがいるご家族もそうですが、ご両親とお子さんで意見が異なることもあります。また、ご夫婦の間で希望が分かれることも少なくありません。
間取り変更となると、お住まいも暮らしも大きく変わることになりますので、ご家族それぞれがどのようなデザインをお好みなのか、どのような暮らしをしたいのか、いつまでここで暮らしたいのか……こうしたことを共有しておくと良いのではないでしょうか。デザインについては、雑誌やSNSも参考になります。
もちろん、途中で希望が変わることもあると思います。ただ、その過程で、自分たちらしさや自分たちの理想の暮らしが見つかるはずです。

▲長谷工リフォーム 東京支社 建設部門 技術部 インテリア技術課 チーフスタッフ 田中美佳さん。一級建築士、インテリアコーディネーター。*所属先・肩書きは取材当時のもの
事例1.自然災害を機にリビングダイニングを拡張
――マンションの間取り変更リフォーム事例を紹介してください。
牛頭:一つ目の事例は、リビングダイニングを拡張し、インパクトのあるブラックの天井と木の風合いを融合させてモダンな印象ながら、温かみのある空間に仕上げられたリフォームです。「家具は極力置きたくない」ということだったので、収納はすべて造り付けで、元の押し入れより大きなウォークインクローゼットも設けました。
間取り変更リフォームのきっかけは、頻発する地震や台風などの自然災害だったといいます。お近くにお住まいのご両親が一時的に避難して来られたとき、大人4人で過ごすにはリビングダイニングが手狭に感じられたそうです。お子様が誕生したこともあって、ご家族の「これから」を見据えてリフォームされました。

▲リビング横の和室をリビングダイニングに取り込んで拡張

▲ブラックの天井も、木の風合いを添えることで落ち着きのある印象に
田中:キッチンを囲っていた壁も取り払ったので、明るく、開放的な空間となりました。キッチンのサイドパネルは無垢材を採用しています。フローリングやリビングダイニングの一角に造設したカウンターにも天然木を使用しています。

▲無垢材の木を使ったキッチン。天板はステンレス

▲リフォーム前のキッチンは壁に囲まれていた

▲リビングダイニングの一角に設けられたカウンターには3mを超える天然木を使用
牛頭:旦那様の趣味が自転車ということもあって、洋室の一部を取り込んで玄関も拡張されました。ご両親やご友人がいらっしゃっても、ゆとりがある広さです。ただ、玄関土間の拡張には管理組合の許可が必要となりますのでご注意いただければと思います。
すべてのリフォームにかかった費用は、約1,000万円(※2020年施工当時価格)。工期は7週間程度でした。

▲洋室の一部を取り込むことで明るさとゆとりが生まれた玄関

▲和室を取り込んでリビングダイニングを拡張。玄関も洋室の一部を取り込んでゆとりのある空間に
事例2.住み替えを検討するもフルリフォームを決意
牛頭:二つ目は、間取り変更を含むフルリフォームの事例です。プランを具体化するためにオープンルームやモデルルームをいくつかご覧になっていく中で、住み替えも選択肢に加わったといいます。
ただ、ご希望どおりの物件に出会えなかったことで、フルリフォームを決意。弊社にご相談いただいた際のご希望はリビングダイニングの拡張のみでしたが、加えてキッチンの向きの変更、収納の新設、廊下の拡張などさまざまなリフォームをされました。

▲和室を取り込んでリビングダイニングを拡張

▲キッチンはオープンにして向きを変更
田中:最もこだわられたのは収納です。収納上手な奥様が、どこになにをしまうかイメージして立てた収納計画を基にプランニングしていきました。キッチンにはパントリーを設け、寝室の壁は一面クローゼットとし、スペースを無駄なく使っています。

▲奥様が自らスケッチした収納計画

▲キッチンには奥様の念願だったパントリーを設置

▲スライド棚のトレーは旦那様が設計
牛頭:玄関もこだわられた箇所です。リフォーム前は、旦那様の趣味の自転車を置くと人が通れるだけのスペースしか残らず、出張の多い旦那様がスーツケースの出し入れの度にストレスを感じていたといいます。
廊下の拡張のために見直したのはトイレ。向きを変えることで廊下の幅を広げ、自転車を2台置いても余裕のあるスペースが実現しました。機能的な廊下収納も新設されています。
工事費用はトータルで約1,240万円(※2019年施工時価格)。工期は約22日です。

▲元々あった玄関の収納スペースは、さらに使いやすくアレンジ。新設した廊下収納はロボット掃除機が出入りできるよう扉の下端をカット

▲リビングダイニングの拡張だけでなく全面リフォーム
取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.その他に印象的だったリフォームは?
- A.牛頭:新築マンションの一室を、家族みんなで使える「コモンルーム=作業部屋」としたリフォームが印象的でした。中高生ぐらいの娘さんとご夫婦の3人家族だったのですが、リビング横の洋室に大きな机を置き、本棚を造作して、勉強や仕事、DIYなどができる空間にされました。これまであまり見られなかったユニークな発想だと思います。 詳細を見る。