【物件ファンコラボ企画 彼女がマンションを買った理由 vol.5】「お風呂もトイレも仕切りは不要! 人生をかけて追求したストレスフリーな空間」

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読めて探せる不動産エンターテインメントサイト「物件ファン」と、マンションプラスによるコラボ企画の第5弾。自分でマンションを購入した女性たち六者六様のお部屋とリアルな暮らしを紹介する本企画。今回は、東京で暮らすマリコさんのケースをお届けします。

マリコさんプロフィール

▲マリコさん(会社員)/兵庫県出身。都内の大学で建築を学び、卒業後は憧れていた不動産デベロッパーに就職。8年の社宅生活の後、30歳で現在のマンションを購入

地下鉄を出ると、「ザ・都心」な風景が目の前に現れます。有名なランドマークを横目に辿り着いたのは、ひっそり佇むレトロマンション。立地ゆえに無意識に身構えていましたが、迎えてくれたマリコさんは、ふわりとラフな空気をまとった女性でした。

部屋玄関

▲千葉にあるアンティークショップ「ICCA」で購入したランプがぽわんと灯る玄関

扉を開けると、意表を突く空間が広がっていました。隠れ家バーのような、光量を落とした照明が印象的な玄関。ラワン材の壁、モルタルの土間、むき出しのコンクリートブロックが周囲を囲んでいます。

トイレ

▲玄関を入ってすぐのスペースにあるトイレ

玄関を入ってすぐ横にあるのは、なんと、仕切りのないトイレ! この空間を「玄関」と呼ぶのは語弊があるかもしれません。正確には「玄関兼トイレ」といったところでしょうか。

玄関からランドリースペースを見る

▲便座に座ったときの光景がこちら。右手ドアが居室への入り口。目の前の開口部はランドリースペースで、リビングからも出入り可能

居室のドアを開けると、一転、カーテン越しに柔らかい光が降り注ぐお部屋が待っていました。

リビング01

▲柔らかい光に包まれた昼間のリビング

すみずみまで光が満ちた空間にほっとひと息ついたのも束の間、どうやら居室も一筋縄ではいかないようです。というのも、まず目に飛び込んできたのは、特異な存在感を放つバスタブ。

リビング02

▲居室の中に壁なしのバスタブ! バスタブ周りの床と壁はモルタル、ラワン材には防水コーティングを施している

お風呂をあえて居室の中に設置した物件はたまに見かけますが、十中八九、ガラスの壁で仕切られていたりするもの。ところがマリコさんのお部屋のお風呂は、仕切りなし。むき出しのバスタブが居室の一角に鎮座しているのです。

ILDKの間取り

▲1LDKだった部屋を、玄関兼トイレスペース+居室のワンルームにリノベーション

なぜ、トイレとお風呂に仕切りがないのか。理由は明快で、「そのほうが快適だから」とマリコさん。

 

「トイレの最中に外から人が入ってきたらどうするのと思う人もいるかもしれませんが、私は一人暮らしなのでその心配はありません。遊びにきた友人と居室で過ごしているときは、玄関との間に壁と鍵付きのドアがありますから。居室側から見ると、玄関ごと『広い個室=トイレ』になるんです」

 

おそらく何度も同じ質問をされてきたのでしょう。お風呂についても穏やかに語ってくれます。

 

「これまで住んできた部屋の『狭くて湿度が高いお風呂と脱衣所』が苦手で。だからいつもささっとシャワーで済ませて、脱衣所は使わずに居室で体を拭いていました。それなら最初からお風呂の壁と脱衣所をつくらなければいいんじゃないかと。これも一人暮らしの部屋だからできることではありますが」

収納された雀卓

▲折り畳まれた麻雀卓と椅子。テレビは不使用時の見た目や存在感が嫌だったから置いていない

大学入学を機に一人暮らしをスタートさせたというマリコさん。当時から「住みたいエリア」はハッキリしていたそうで、最初に住んだのは自由が丘。その後、根津のワンルームを経て、就職してからは社宅で8年間ほど暮らしたといいます。元麻布や六本木で都心ライフを満喫していたところ、諸事情あって社宅は追い出されてしまったのだとか。

 

そのときマリコさんは30歳。想定外の事態に「とりあえず自分で賃貸の部屋を探して住もう」となりそうなものですが、そうはせずにいきなりマンション購入に踏み切ります。

 

「物心がついた頃から『大人になったら自分の理想の空間をつくって暮らす』と決めていました。賃貸ではそれが実現できないし、猫を飼っていたこともあって、マンションを買うなら今だ! と思ったんです。同年代でマンションを買った友人がいたので『自分にはまだ早い』という意識もそれほどありませんでした」

キャットタワー

▲窓とカーテンの間のキャットタワーが愛猫2匹の居場所

雀卓とマリコさん

▲壁から麻雀卓を出しセッティングするマリコさん。麻雀は学生時代からの趣味で、友人らが家主不在の間に自由に出入りし麻雀をしていくこともあるそう

猫の水飲み場

▲モルタルのシャワースペースは猫ちゃんたちの水飲み場でもある

マンション購入を決意したマリコさんが物件探しで重視したのは「予算」と「エリア」でした。

 

会社に徒歩でも行ける距離であること、そして大好きな宝塚劇場へのアクセスが良いこと。

リビング03

▲優雅に座っていたかと思いきや、「撫でていいのよ」と言わんばかりに目の前を歩き回ったり座り込むミナちゃん

そうして絞られたのは10件ほど。なにしろ都心ですから、ようやく予算内の物件が見つかったと思っても、猫と住むには狭かったり、陽当たりが悪かったりで、「これだ!」と思える物件にはなかなか出会えなかったといいます。

 

「そんななか、南向きで、ピカピカに業者リノベされたこの部屋が売れ残っていたんです。旧法借地権の物件なので、立地と広さの割には手が届く価格で。ここなら理想の空間を実現できるかもしれないと、思い切って購入することに。でも、すぐにリノベーションするのではなく、まずは新居で1年間暮らしながら、出てくる不満を書き溜めていきました」

トラちゃん

▲ミナちゃんよりやや控えめに歩き回るトラちゃん

新居で生活して1年が経った頃、満を持してマリコさんのお部屋づくりが始まります。プランの筆頭にあったのは「収納いらない、ベッドいらない、壁いらない、ドアいらない、脱衣場いらない、洗面所いらない……」などなど、自分のライフスタイルに合わない部屋での我慢を教訓にした、“不要なもの”のリスト。

 

この一風変わったプランを実現するために、マリコさんがパートナーに選んだのは内装建材のウェブストア「toolbox」の設計施工チーム、ツールボックス工事班でした。「自分の空間を編集するための道具箱」をコンセプトに掲げ、住まい手主導の家づくりを提案している同社なら、自分の理想とする空間を理解してくれそうだと思ったことが決め手だったといいます。とはいえ、気遣いからか、当初はトイレと収納に扉のついたプランを提案してくれたのだそう。

キッチン

▲キッチンシンクの下もシンプルの極み。掃除がしやすい、汚れが溜まらないことが最優先

「ありがたいご提案でしたが、丁重にお断りしました。人生をかけてつくりたい部屋をずっと思い描いてきたから、自分が快適に暮らせる空間のことは自分が一番わかっているんです」と言い切るマリコさん。

 

さらには「逆に、なんで世間では、壁に囲まれたお風呂と脱衣所があって、扉付きの収納があって、ソファとテレビがあって、寝室がある家が当たり前のように受け入れられているんですかね?」と疑問を呈します。

 

「将来売るときの資産性や、家族が増えたときのことを考えると、“当たり前”を逸脱できないのは理解できます。でも、私の場合、現時点ではそうしたことを考慮する必要はありませんでした。今後、もし棚が必要になれば取り付ければいいし、壁もあとから設置できます」

キッチンの水栓

▲濡れた手でレバーを触って水が垂れるのが嫌で見つけた、ヘッド部分のプッシュ操作で水が出る水栓。マリコさんが自らドイツから取り寄せた

当たり前に存在している水回りの壁すら「これは自分にとって必要なものなのか?」「心地よいものなのか?」と疑うことからお部屋づくりを始めたマリコさん。買った時点でピカピカにリノベされていた1LDKは一度白紙の状態に戻され、結果的に、いまのかたちへと変貌を遂げました。

リビング04

▲壁のない風呂、麻雀卓、ホームシアター、猫、と好きが全部詰まった部屋

お風呂は現状のプランに決定する前に、フルオープンのお風呂が部屋の一角にある金沢の旅館「香林居」に宿泊して体験してみたのだそう。その結果、「自然光の中で広いお風呂に入るのが、ものすごく気持ちよくて。壁がなくても全然いける!」と確信。

バスタブ

▲屈強な同僚や後輩に手伝ってもらって部屋に搬入した100㎏超えのホーローバスタブ。置き型にしたのは、見えないエプロン部の汚れが嫌だから。すべて見える状態だから汚れもカビもない

第三者から「湿気やカビがすごそう……」などと心配されることもあるそうですが、「実際にはそんなことはないんです」と、スマホのスマートホームアプリを見せてくれました。

 

「たしかにバスタイムの直後は多少湿度が上がりますが、そのあとすぐに通常時と同じ湿度に戻ります。いまの部屋よりも、昔住んでいた根津の半地下の部屋のほうがよっぽど湿度に悩まされました。そもそもこの部屋の湿度を大きく左右するのは季節と天気で、私一人がシャワーを使ったくらいではそんなに影響しないんですよ」

スマートホームアプリ

▲室内の温湿度はスマホアプリでモニタリング。入浴後に多少湿度が上がっても、すぐ元通りになっていた

なにより、「お風呂に入りながら映画を見るたびに、幸せを噛み締めてます!」と満面の笑みで語る様子は、どんなデータよりも説得力がありました。

スクリーン

▲「OK Google」のかけ声で上下できるスクリーンに映画を投影した様子。湯船で鑑賞する贅沢たるや…!

「パノプティコン」という考え方が好きだというマリコさん。パノプティコンとは、刑務所などにみられる監視システムのこと。

 

「ひとことで言うと、看守が真ん中にいて、すべてが一望できるつくり。囚人から看守は見えないけれど、『見られている』と意識させることで統制を図る、という思想ですね。そんなふうに自分の持ち物や生活をすべて目に入る状態にすることで、物も自分も律することができる気がして」

リビング05

▲洗顔や歯磨きは明るく開放的なキッチンで。「油を使う料理はしない」から、レンジフードもない

シェルフ01

▲理想を具現化した丸見えのステンレスシェルフには、見た目や素材感にこだわって選んだ「目に入って嫌じゃないもの」が並ぶ。「100均のものも全然ある」そうだが統一感がある

とはいえ一人で暮らしていると、つい「甘え」が出ていらないものが増えてしまったり、散らかしたりしてしまうもの。そこで、定期的に友人や麻雀仲間を招くようにしているのだそう。なるほど、友人もまたマリコさんの部屋の看守になるというわけです。

 

一見ストイックですが、椅子用クッション、客人用のグラスやタオルなどはしっかり用意され、ホスピタリティに溢れていました。遊びに来た友人たちは、勝手知ったる様子でそれぞれにグラスを手に取るのだとか。いつ誰が来ても物の置き場がわかりやすく、気を遣わなくていいのも、「パノプティコン」な部屋の利点のようです。

シェルフ02

▲来客用に、コップとミニタオルだけは多めにある

文庫本

▲カバーを外した文庫積み上げゾーン。ベルばら、萩尾望都など宝塚好きが垣間見えるシリーズがずらり

ブックカバー

▲鳩居堂で見つけた素敵な小箱に、文庫から外したカバーを収納。蔵書の目録として重宝している

休みの日はどう過ごしているのか訊ねると、「朝風呂に入って、宝塚を観に行って、帰ったらぶどうを食べて、それからそうめんを食べて……。夜になったら映画を観て、折り畳みマットを敷いて寝る。そんな感じですかね」との回答。自分でも「余生かな?」と思うくらい、この部屋での生活に満たされているそうです。

 

自分の性格や嗜好、行動様式にとことん向き合った末に手に入れた、理想の部屋。人生経験を重ねるとともに細部は研ぎ澄まされていったものの、イメージする「理想の空間」自体は昔からさほど変わっていないのだとか。

 

「思い返せば、初めて一人暮らしをした自由が丘の部屋にもプロジェクターがあって、麻雀卓がありました。なのにベッドはなくて。じつは、いまの部屋とあんまり変わってないんですよね(笑)」

 

玄関を入ってすぐのトイレ、リビングに鎮座する壁のないお風呂。初見では衝撃を受けた内装が、おいとまする頃には「これでいいのだ」に変わっていたのでした。

ガジェット

▲照明をはじめ、カーテンやスクリーンなどあらゆるものをスマートホームデバイスで操作するため、コンセントはかなり多め。さらに増設したくなったときのために電気工事士の資格を取得したのだそう

物件DATA
所在地:東京都
築年:44年
面積:42㎡
リノベーション費:700万円(施主支給品と家具・家電・照明機器を含む。解体50万+設計施工450万+施主支給品100万+洗濯機・雀卓・照明等100万)

 

 

取材・文:つやまゆうこ 撮影:赤澤昂宥

 

WRITER

つやまゆうこ
幼い頃から物件チラシを眺め、間取り図を描いて遊んでた根っからの間取りスト。平屋、古民家、古い喫茶店、歴史的建造物、路地探検が大好き。障害者福祉に従事する三児の母。

おまけのQ&A

Q.理想の部屋づくりは、これにて完結ですか?
A.マリコさん:ホワイトキューブのような空間が好きだから、追って壁や床を自分で白く塗ろうと思っていたんです。でも、いまの部屋での暮らしに満たされすぎて、このままでいいかって。塗装計画はいったん保留です(笑)。