最近の新築分譲マンションでは、食器洗い乾燥機(食洗機)が標準装備されているケースも増えています。日本における食洗機開発の先駆けとして知られるパナソニックに、選び方のポイントや後付け設置時の注意点について伺いました。
ライフスタイルで選べば良いが、後付け設置時は現地調査が必須
――マンションに導入できる食洗機には、どのようなタイプがありますか?
パナソニック・宮本真梨子さん(以下、宮本):マンションか戸建てかというよりも、キッチンのタイプや広さ、さらに賃貸か持ち家かといった条件によって、導入できる食洗機は異なります。タイプとしては大きく2つあり、キッチンに食洗機を組み込む「ビルトイン型」と、空いたスペースに設置する「卓上型」です。ビルトイン型は、後付けする場合、現状のキャビネットの撤去などが必要なため、賃貸住宅では原状回復が難しいケースもあります。そのため、賃貸であれば卓上型が使いやすいでしょう。さらに、卓上型の中でも「タンク式」は自分で水を入れて使用できるため、分岐水栓の取り付けも不要で、より手軽に導入できると思います。
▲パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社の宮本真梨子さん(キッチン空間事業部 営業統括 マーケティング部 食洗機マーケティング課)※所属先・肩書きは取材当時のもの
――ビルトイン型と卓上型では、性能面での違いはありますか?
宮本:洗浄力については、どちらも同等の性能を確保できるように設計されています。節水能力にも大きな差はなく、プルオープンタイプの最新機種であれば、手洗いに比べて約9分の1の水量で済みます。
※NP-45MD9シリーズと手洗いとの比較。1回48点の食器と6人分の小物を洗った場合
両者の最大の違いは「容量」です。ビルトイン型の方が容量が大きく、特にフロントオープンタイプでは、最大で12人分(※)の食器を1度に洗うモデルもあります。一方、卓上型は最大でも5人分程度なので、この点に大きな差があります。近年は共働き家庭の増加により、1日分をまとめて洗うニーズが高まり、フロントオープンタイプの需要も伸びてきています。
※「日本電機工業会自主基準」
▲近年、国内での需要が高まっているフロントオープンタイプ。扉が前面に大きく開き、多くの食器や調理道具が収納可能。システムキッチンと一体感のあるスッキリとしたデザインも特徴
▲システムキッチンに組み込まれた引き出し式に開くプルオープンタイプ。食器の出し入れがしやすい
――ライフスタイルによって、選ぶべき食洗機のタイプも異なってくるのでしょうか?
宮本:たとえば在宅勤務やで自炊が多く、使った食器をその都度、こまめに洗いたい方には、ビルトイン型のプルオープンタイプが便利です。一方、共働きで1日分の食器や調理器具道具を夜にまとめて洗いたい方には、大容量のフロントオープンタイプがおすすめです。
また、卓上型にもさまざまな種類があります。一例として単身世帯向けの弊社製品「SOLOTA(ソロタ)」は、初めて一人暮らしをされる方や、単身赴任の方にも好評です。分岐水栓の取り付け工事が不要で、ほぼA4ファイルサイズほどのスペースに置けます。1人分の食器であればビルトイン型にこだわらず、こうしたコンパクトな卓上型で十分対応できます。
▲パーソナル食洗機の「SOLOTA」。着脱タンク式で一人暮らしのキッチンにも置きやすいコンパクトサイズ
――分譲マンションの場合、入居後にビルトイン型の食洗機を後付けしたいというニーズもあると思います。設置工事を行うにあたっての注意点を教えてください。
宮本:もともと食洗機が設置されていないキッチンにビルトイン型を後付けする場合は、まずは現地調査が必要です。キッチンの高さ、奥行き、給排水管の位置や接続状況、電源を確保できるかなど、さまざまな設置条件を確認します。
――中にはどうしても設置できないケースもありますか?
宮本:はい、特にマンションの場合、排水管の位置や構造によっては、設置が難しいこともあります。たとえば、排水管がキッチンの裏を通っていると、ビルトイン型が収まらないケースがあります。また、プルオープンタイプからフロントオープンタイプに変更したり、サイズを大きくしたい場合にも、やはり現地調査が必要で、既存の食洗機の下に配管が通っている場合はそれを潰さないと新しい食洗機が入りません。
そうなると、かなり大掛かりな工事が必要になりますが、食洗機を設置するためだけにそこまでの工事を行うケースは少ないのが現状です。その場合は、卓上型の食洗機を選択される方が多いですね。
日本の食洗機普及率はわずか3割。背景には根強い「手洗い信仰」が
――食洗機は、日本ではいつ頃から使われ始めたのでしょうか?
宮本:パナソニックが国内初の食洗機を開発したのが1960年、今から約60年前です。ただ、当初はあまり普及せず、約25年間は普及率がほぼ0%の時代が続いていたと聞いています。
当時の食洗機はサイズが大きく、まるで洗濯機のようで、日本の住宅事情では導入しづらかったようです。転機となったのは、コンパクト化が進んだことと、既存のシステムキッチンに組み込めるビルトイン型の登場です。キッチンメーカーにも採用されるようになり、徐々に普及が進みました。
▲「約60年前に発売されたパナソニックの食洗機は、洗濯機ほどの大きさがあり、設置場所が限られていたんです」と宮本さん
――それでも国内の食洗機の普及率は約3割と、普及率7割といわれる欧米に比べるとかなり低い数値です。
宮本:はい、内閣府が2023年に行った調査では、国内の世帯普及率が29.5%と、3割を下回っています。私たちとしても、これは大きな課題だと考えています。
――普及が進まない要因として、どんなことが考えられますか?
宮本:あくまでも推察ですが、いくつか要因があると思います。まず、海外では日本より水道代が高く、節水効果のある食洗機のニーズがもともと高いという背景があります。また、家の広さやキッチンの大きさにも違いがあり、食洗機を導入しても収納スペースを十分に確保できるケースが多いです。一方、日本では「家事は手でやるもの」といった価値観が根強く残っていると感じます。たとえば「皿洗いくらい自分でやるべき」といった考え方が、無意識のうちに食洗機の導入をためらわせているのかもしれません。
実際に、弊社が2024年10月から11月に実施した調査(※)では、「家事を家電に頼らず、自分でやるべきだと感じたことがある」と回答した人が約2人に1人いると判明しました。
※調査概要:2024年10〜11月実施。週に1回以上家事をする全国の15〜69歳の1200名を対象とした定量調査、および10名を対象とした定性調査。
――使ってみれば、やはりラクだし、いいものだと分かってもらえる気もしますが。
宮本:そうですね。食洗機は特に「使ってみないと分からない」家電だと感じています。実際、2024年2月に「食洗機は甘えですか?」というテーマで体験イベントを開催しました。多くの方が「思った以上に便利」「こんなにきれいに洗えるんだ?」と驚かれていました。
――「手洗いの方がしっかり汚れが落ちる」というイメージがあるのかもしれません。
宮本:はい、洗濯でも、汚れた靴下を手でこすって洗った方がきれいになるという感覚と似ていて、手洗いの方がきれいになると思っている方も少なくないようです。ただ、実際には、食洗機の方が洗浄力は高いです。高温での洗浄によって油汚れやお茶碗にこびりついた米粒などもしっかり落とせますし、食洗機専用洗剤に含まれる酵素は温度が上がることで活性化し、洗浄力がより高まります。さらに、ノズルや水圧など本体の改良によって本体の性能も年々進化しています。ただ、こうした効果は使ってみないと実感しにくい部分でもあるので、そこが普及の壁になっているのかもしれません。
▲日本のキッチン事情に合わせて進化を続けてきた食洗機。現在では省スペースかつ大容量、洗浄能力もさらに向上。食洗機専用液体洗剤の自動投入や、ナノイーXによる庫内のニオイ抑制、除菌機能など、パナソニック独自の技術も導入されている
食洗機が“当たり前”になる未来を目指して
――普及率を上げるために、マンションに食洗機が標準導入されるよう、マンションデベロッパーへの働きかけなどは行っているのでしょうか?
宮本:弊社の納入先はシステムキッチンのメーカーさんですので、マンションデベロッパーさんと直接やりとりすることは基本的にありません。ただ、マンションにおける普及促進は大きなテーマですので、今後は何らかのアプローチをしていきたいと考えています。
――特に賃貸住宅では、一部の高級物件を除いて、食洗機が標準装備されているケースは少ないですよね。
宮本:そうですね。たとえばIHクッキングヒーターは、今では標準設備として定着していますが、食洗機はまだそこまでの存在に至っていません。入居者の満足度が上がる、あるいは賃料に反映されるといった明確なデータが現時点では少ないこともあり、導入が進みにくいのが実情です。だからこそ、「食洗機があるのが当たり前」という認識がもっと広がっていくように、地道な啓蒙活動を続けていくことが大切だと考えています。
――今後の普及率に関して、目標などはありますか?
宮本:私たちの事業部としては、まずは普及率50%を目指そうと言っています。弊社が実施した調査では、現在、全体の約45%が 現在食洗機を持っていない且つ、「今後も購入意向がない」と回答しており、こうした方々の意識をいかに変えていくかが大きな課題です。そのためには、まだ根強く残っている“手洗いの方が良い”という固定観念を少しずつ和らげていく必要があります。もちろん、家事に対する考え方は人それぞれですが、一度でも使っていただければ、便利さや清潔さを実感していただけるはずです。今後も体験イベントなどを通して、気軽に試せる機会を増やしていきたいと思います。
取材・文:榎並紀行 撮影:石原麻里絵
WRITER
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami
おまけのQ&A
- Q.食洗機の水温は何度くらい? 高温の理由は?
- A.宮本:製品にもよりますが、約50~80度です。油汚れは40度以上で溶け出し、お米などのでんぷん汚れもふやかすため、水流で一気に洗い流すことができます。
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