マンション配管交換のリアルな実例。知っておくべき配管の「更生」と「更新」の違い

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マンションの、給排水管のリニューアル方法は「更新」と「更生」に大別されます。適切な見極め方を、マンション管理コンサルタントの土屋輝之さんに聞きました。

――マンションを長く使い続ける上で、なぜ給排水管は重要なのでしょうか。

 

土屋輝之さん(以下、土屋):よく「マンションの寿命は何年なのか」と聞かれるのですが、じつは非常に答えにくいんです。というのも、コンクリートはある程度手入れすれば、80年や100年、あるいはそれ以上もつとされています。しかし、建物が100年使えたとしても設備はその限りではありません。その最たるものが給排水管です。給排水管は、人間でいえば血管のようなもの。給排水管の更新や更生は、マンションの長寿命化の肝といえます。

劣化により穴が空いてしまった排水管(左)と、排水管内部の錆の瘤(こぶ)(右)

▲劣化により穴が空いてしまった排水管(左)と、排水管内部の錆の瘤(こぶ)(右)

――給排水管の「更新」と「更生」は何が違うのでしょうか?

 

土屋:給排水管の「更新」とは、古くなったものを新しいものに取り替えることを指します。一方、新しいものに取り替えるのではなく、配管の中の汚れや錆を削り落とし、フッ素や樹脂などを入れてコーティングするのが「更生」です。更生工事には、樹脂系ライニング工法やチューブ反転工法、トルネード工法などさまざまな種類があります。

配管の更生工法の一例

▲配管の更生工法の一例
画像出典:長谷工コミュニティ

――給排水管の更新と更生のメリット・デメリットは?

 

土屋:更新工事のデメリットは、更生工事と比べて手間とお金がかかることです。更生は配管の中だけの工事ですが、更新工事となると、専有部の床や天井、壁を剥がす必要性が出てくるケースがほとんどです。更新後、石膏ボードまでの原状回復は管理組合が負担しても、クロスや仕上げ材は原則、区分所有者の負担となります。専有部の一部解体が必要になる可能性が高い、さらに原状回復に手間と費用がかかる可能性が高いとなると、合意形成も一筋縄ではいきません。

 

それに比較すると更生工事は安く、早く工事ができることが利点となりますが、実施の可否は給排水管の状態次第です。配管が減肉(げんにく:腐食などによって配管の厚みが薄くなること)して薄くなっていれば、汚れや錆を削ると穴が空いてしまうおそれがありますから、更新工事しか選択できません。更生工事では配管の中を樹脂でコーティングすることになるため、樹脂が染み出た水が出てくるのではないかと懸念される管理組合もあります。もちろん健康上の被害はないとされていますが、コーティングしたものが剥がれてしまうリスクはゼロではありません。

 

また更生工事は、何度繰り返せるのか定かではありません。これは前例がないためです。とはいえ、築80年や100年までもたせるとすれば、今の技術では更生工事だけでは対応できないでしょう。

 

 

――築何年頃までなら更生工事で対応できるのでしょうか?

 

土屋:多くのマンションは長期修繕計画で35〜40年の間に配管の更新工事が予定されていますが、いつまでなら更生工事で対応できるかは一概に言えません。まず、ご自身のマンションの給水管・排水管にどういった素材が使われているか確認してみてください。

 

昭和50年代頃までの、多くのマンションの給水に使用されている銅管は、穴が空いて漏水するリスクが高いので更生には不向きです。更新工事がしやすいのは、肉厚があって丈夫な鋳鉄管です。塩ビ管も丈夫ですが、鋳鉄管と比べるとやや耐久性は劣ります。人間の健康診断と一緒で、内視鏡検査やX線検査、超音波検査、あるいは手術のように配管の一部を抜き取る抜管(ばっかん)調査などによって配管の状態を確認し、更新の要否や更生の可否を見極めます。

配管の検査方法の一例

▲配管の検査方法の一例
画像出典:長谷工コミュニティ

――住まい方や環境、メンテナンス履歴などによって劣化の進行に差が出ることもあるのでしょうか?

 

土屋:そうですね。特にディスポーザーが付いていて、なおかつ排水管に一部でも鋳鉄管が使用されているマンションは注意が必要です。ディスポーザーの処理槽から、生ごみを分解する過程で発生する硫化水素によって鋳鉄管が急速に減肉し、15〜20年という短期間で穴が空いてしまうケースも少なくありません。こうしたマンションについては、早めに劣化の状態を確認されることをおすすめします。

 

 

――配管工事の更新を回避できた実例を教えてください。

 

土屋:実例はいくつもあります。たとえば、東京都内のタワーマンションで当初計画されていた一斉更新を「部分修繕」へ変更したことで、約5億円の修繕コストを削減できた例がありました。配管のリニューアルは、更新と更生の二択ではなく、一部を更新・一部を更生するというハイブリッドな手段を取ることもできます。

 

配管はすべての箇所が一律に劣化していくのではなく、曲がっている箇所や継ぎ手の部分など傷みやすい部分はある程度決まっています。先ほど挙げたような方法で配管の状態を確認し、傷みの激しい箇所は更新し、それ以外は更生とすることで、コストを抑えることができます。

 

この事例については、もう少し対処が早ければ更生工事だけで済んだ可能性もあります。実際、計画されていた更新工事は過剰と判断し、更生工事としたことでコスト削減を実現したマンションもあります。これは東京都内の築35年のマンションの事例です。

 

また、配管に使われている素材にかかわらず「40年で更新」と計画されているケースも少なくないため注意が必要です。これは埼玉県の大規模マンションの例ですが、排水管が腐食に強いVP管(塩ビ管)だったため、長期修繕計画上の更新周期を40年から50年へ延長し、大規模修繕工事と時期がずれたため、一時金の徴収を回避できた事例もあります。

 

配管の適切な更新時期は、築年数ではなく、状態で決めることが大切。最近は給水管の縦管にステンレスを使っているマンションも少なくありませんが、ステンレス管は一般的には長寿命とされており、交換周期が長いと言われています。しかし、ステンレス管にもかかわらず、長期修繕計画では築40年で更新が予定されているケースもあるので、素材を把握してから計画を決めることが重要でしょう。

土屋輝之さんプロフィール

▲土屋輝之さん。さくら事務所 マンション管理コンサルタント。不動産仲介営業から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなど、不動産に関連したキャリアを長年にわたって築き、さくら事務所参画。※所属会社・役職は取材当時のもの

――早めに配管の状態を確認しておくのが大切になってきますか。

 

土屋:おっしゃるとおり、築30年程度のタイミングで配管の状態を確認していただくと良いと思います。ただ、更新がいいのか、更生がいいのか、あるいはいつ工事を実施すべきかは、管理組合の財政状況や修繕計画の方向性によっても異なります。修繕計画の方向性というのは、突き詰めれば「建物を何年使うのか」ということです。たとえば100年使用するつもりであれば、どこかのタイミングで更新工事が必要になってくるでしょう。一方、60年であれば一度の更生工事で住み続けられるかもしれません。

 

――あらかじめ建物を使う期限をイメージしておくのは、多くの管理組合にとって簡単なことではないでしょうね。

 

土屋:建物を使う年数を決めている管理組合はほぼありません。人間の終活と同様に、マンションの終活はどなたも積極的に話したいことではありません。しかし、できれば配管のリニューアルが必要な時期を目安に「出口」の方向性を定めておくと、修繕計画が立てやすく、更新や更生の判断もしやすくなると思います。

 

 

――管理組合としては、マンションの「出口」をどのように考えれば良いのでしょうか。

 

土屋:マンションの将来というと、 「いつかは建替えられる」と思っている方も少なくないでしょう。ただ、残念ながら「建替え」は多くのマンションにとって現実的な出口ではありません。建替え後の容積率が大幅に引き上げられるなど余程の好条件が重ならない限り、区分所有者に多額の費用負担を強いることになるからです。そうなると、基本的には「長寿命化」が多くのマンションが取れる選択肢となります。まずはその前提を共有することが、適切なリニューアル方法を選び、更新工事の同意を取るための第一歩となるはずです。

 

もちろん、「早すぎる対処はやめたほうがいい」と言いたいわけではありません。これは配管に限らず、すべてのメンテナンスや修繕に共通します。人間が毎年健康診断を受け、異常があれば早めに精密検査や治療を行うように、マンションも早期発見・早期対応が基本です。

 

しかし、資金不足は管理組合の常。特に築40年頃になると、エレベーターや給排水管のリニューアルをはじめ、やるべきことが膨大ですから、何かの工事を安全に遅らせることができればありがたいですよね。だからこそ、配管の素材や劣化状況を正しく把握する必要があるのです。限られた予算をどこに、どの順番で投じるのが最も合理的でリスクが低いのか、早めに優先順位を見極め、更新か更生かを判断していただきたいですね。

土屋さんは、「工事そのものだけより、優先順位が合っているかを考えるべき」と語る

▲土屋さんは、「工事そのものだけより、優先順位が合っているかを考えるべき」と語る

取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵(fort)

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WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.最近、マンションのエレベーター更新工事の着工納期が遅れているといいますが、配管工事も長期化しているのでしょうか?
A.土屋:配管工事の着工納期も長期化しています。工事を申し込んでも早くて1年、遅ければ2年ほどかかると言われた例もあります。これは、完全に需給のバランスが需要に傾いていることが要因です。漏水が起きたり、赤水が出たりしても応急処置しかできなくなってしまいますから、配管の更新や更生に向けて早めに議論しておくことが大切です。