住宅価格高騰はいつまで続く? 韓国の規制から考える日本の住宅政策

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政権交代が住宅政策の方向性に影響を与えてきた韓国。その経験が示すのは、強い融資規制だけでは住宅価格問題は解決しないということです。価格高騰に直面する日本の住宅政策のあり方について、前編に引き続き、ニッセイ基礎研究所の金明中先生に話を聞きました。

――韓国では、政権が交代すると住宅政策が大きく変わると聞きます。

 

金明中さん(以下、金):そこが韓国の大きな特徴といえそうです。韓国では保守政権と進歩(リベラル)政権が交代するたびに、不動産政策の方向性が大きく変わります。

 

進歩政権は投機の抑制や融資規制、税制の強化を重視します。一方の保守政権は、規制緩和や税負担の軽減、再開発の促進を重視する傾向があります。ですから市場は政権交代のたびに影響を受けやすく、政策リスクが大きくなるのです。

 

日本は保守政権が長く続いてきたので政策が安定していますが、その分、価格を抑える力は弱い。韓国はその逆で、価格を抑える策は打ちやすいけれど、政策が不安定になりやすいといえます。

 

 

――投機を抑えようとする進歩政権のときに、かえって価格が上がっています。

 

金:理由はいくつかあります。まず、進歩政権は住宅価格の問題を、公共賃貸住宅の拡大といった福祉政策で解決しようとします。ところが実際には、賃貸よりも「持ち家を取得したい」と望む人が多いことから政策と需要のズレが生じます。

 

さらに、住宅の供給を増やすよりも、税制や融資規制で需要を抑えることに重点を置きがちです。民間による賃貸住宅の供給にも消極的で、多くの住宅を持つ投資家や賃貸事業者を否定的に見ることが多い。すると民間の供給が萎縮して、かえって市場が不安定になり、価格の上昇を招いてしまうのです。

 

 

――需要があるところに、供給が追いついていかなくなるわけですね。

 

金:その通りです。住宅価格を安定させるには、需要者が望む地域、特に都心の駅に近いエリアで、民間が主導する住宅の供給を増やしていく必要があります。理念を優先しすぎず、政府は住宅福祉に集中する一方で、供給については民間と市場のメカニズムを積極的に活用すべきだと考えています。

――韓国では融資規制を強化したことで、市場にはどのような変化が起きましたか。

 

金:まず、取引量が減りました。LTV(※1)やDSR(※2)の規制で借りられる額が制限されると、買いたくても十分な資金を用意できない人が増えます。特にソウルや首都圏のように価格が高い地域では、必要な自己資金が大きくなりますから、購入を先送りする動きが広がりました。

 

※1 LTVとは、住宅価格に対して何割まで借りられるかを示す基準。70%なら5億ウォンの物件に3.5億ウォンまで。比率を下げるほど自己資金が必要になる
※2 DSRとは、年間所得に対し、住宅ローンを含む全借入の年間返済額(元金+利息)が占める割合の上限。所得に見合わない過大な借入を防ぐ

 

――買えなくなった人たちは、どこへ向かうのでしょうか。

 

金:家を持たない人が購入を先送りしてチョンセにとどまるケースが増えています。既存の入居者が契約を更新し続けるので、チョンセの物件が市場に出てこない。供給が固定化されてしまいました。結果としてチョンセ価格が上昇したり、月払いの賃貸に移ったりする動きも加速しています。

金明中先生プロフィール

▲金明中(キム・ミョンジュン)さん。ニッセイ基礎研究所 上席研究員。亜細亜大学都市創造学部特任准教授。未来を選択する会議・日韓少子化対策交流委員会アドバイザー。専門は社会保障論、労働経済学、韓国経済、日韓社会政策比較。日韓の少子高齢化や雇用・社会保障政策を研究する。著書に『韓国における社会政策のあり方―雇用・社会保障の現状とこれからの課題』など

――日本の首都圏市場でも近いことが起きていますね。やはりマンションを購入できる層が減っているのでしょうか。

 

金:少なくとも金融機関からの借入に頼らざるを得ない層よりも、十分な現金を持っている層のほうが家を買いやすくなりました。住宅の購入をめぐって、二極化が深まっているわけです。

 

前編でお話しした、日本でいう“住宅すごろく”にあたる「住宅取得のはしご」も、かつての話。融資のハードルが高くなったことで、自己資金の少ない庶民層や若年層が持ち家を取得することがさらに難しくなり、住み替えや住宅取得を通じた資産形成も難しくなっているのです。

 

さらに韓国ではマンションの供給が需要に追いついていない状況があり、住宅価格や賃料の上昇トレンドは、当面続く可能性が高いと考えられます。

 

 

――韓国の経験から、日本の住宅市場が学べる点はどこにあるとお考えですか。

 

金:いちばん大切なのは、住宅価格の上昇を単なる「買いにくさ」の問題にとどめないことです。資産格差、若年層の将来設計、家計債務、地域間の格差──こうした問題と結びつけて考える必要があります。韓国では、ソウルのマンション価格が上がったことで、住宅を持つ層と持たない層の格差が広がり、若年層や新婚世帯の不満、さらには結婚や出産への影響が社会問題になっています。

 

日本でも東京23区や首都圏を中心に、マンション価格が顕著に上がっています。今後さらに上昇すれば、若年層や子育て世帯がさらに住宅を買いにくくなり、少子化や階層の固定化につながりかねません。だからこそ、取得を支援するだけでなく、価格上昇の恩恵と負担がどの層に偏っているのかを把握することが重要だと思っています。

 

 

――日本も韓国のような強い融資規制を考えるべきでしょうか。

 

金:いいえ、私は韓国のような強い融資規制を、そのまま日本に持ち込むべきではないと考えています。融資規制は投機を抑えるには効果がありますが、自己資金の少ない若年層や新婚世帯の購入を難しくする副作用があります。日本では人口減少や空き家の問題が深刻な地域もありますから、融資規制のような全国一律で効いてくる抑制策は、住宅市場や地方の地域経済を冷え込ませてしまう恐れがあります。

 

 

――日本に合ったやり方があるというわけですね。

 

金:日本は当面、強い融資規制を導入するよりも、実際に住むために買う実需層への支援を続けながら、投資・投機的な需要には限定的な抑制策を組み合わせる方向が望ましいと思います。
地域別・目的別に、実需への支援、投機の抑制、供給の拡大、中古住宅の流通、良質な賃貸住宅の整備を組み合わせていく。それが現実的な対策だと考えています。

日本は地域別・目的別に対策を組み合わせるべきだと提言する

▲日本は地域別・目的別に対策を組み合わせるべきだと提言する

 

 

取材・文:小野悠史 撮影:石原麻里絵(fort)

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おまけのQ&A

Q.韓国を旅行するなら、おすすめのスポットはありますか?
A.金:私のおすすめは、金浦国際空港から地下鉄で数駅の「麻谷(マゴク)」エリアです。もともとは農地が広がる地域でしたが、近年は大規模な都市開発が進み、LGグループの研究開発拠点「LGサイエンスパーク」を中心に先端企業が集積する新しいビジネス街へと変貌しました。若い会社員や研究者が多く、劇場や飲食店、カフェなども充実しています。高層ビルが林立する江南などとは異なり、建物の高さが比較的揃った街並みが広がっています。韓国の、最新のニュータウン開発を見るうえでも興味深いでしょう。