普段はなかなか足を踏み入れることのない「建設の現場」を、家族そろって体験できる一日があります。「マンションづくりふれあいフェスタ」は、長谷工グループ労働組合と長谷工ウェルセンターが共催するイベント。社員の家族を建設現場に招き、さまざまな体験を通じてものづくりの魅力と仕事への理解を深めていくというコンセプトのもと、実施しています。1992年度から続けられてきたこの取り組みについて、担当者に話を聞きました。
建設の仕事を体感できる、多彩なプログラム
2026年度は、東京都小金井市のマンション建設現場で開催されました。集まったのは、長谷工グループ社員とその家族を合わせた総勢87名(うち子ども38名)。
▲イベントの開始は、ラジオ体操から。参加家族がそろって体をほぐす
用意されたプログラムは、実に多彩です。水の勢いで的を狙う「ハイウォッシャー的当て」、工事現場用エレベーターに乗り込む「ロングスパンエレベーター試乗体験」、好きな重機と並んで写真を撮る「重機 de 記念撮影」といった、ここでしか味わえない体験が揃います。
▲高圧洗浄機の強い水流で的当てに挑戦。毎年人気の定番プログラムだ
他にも、コンクリート工事で使うスペーサーを手裏剣に見立てて的に入れる遊びや、ペットボトルでランタンをつくる工作、タイルを打診棒で叩いて浮きを確かめる「タイル打診体験」、紙とホチキスを使って立体を組み上げる「不思議な構造体を作ろう!」など、楽しみながら現場の仕事に触れられる工夫が随所に凝らされていました。
運営を担うのは、現場の職場環境改善などに取り組む、長谷工グループ労働組合の「魅力ある作業所研究会」、通称「魅力研」のメンバーと、設計部門の労働組合メンバー。イベントの企画から現場の確保、当日の運営まで、すべて自分たちの手で進めているといいます。
今回、その運営の中心を担った瀬井智行さんと、長谷工グループ労働組合 中央執行委員長の立場からイベントを支える小池宙さんに、取り組みへの思いを伺いました。
▲(左)「魅力ある作業所研究会」(以下、魅力研)のメンバーとして企画・運営を担う瀬井智行さん。長谷工コーポレーション 建設部門 第一施工統括部 建設1部 副所長。(右)長谷工グループ労働組合の専従者としてイベントを支える小池宙さん。長谷工グループ労働組合 中央執行委員長。※所属先・肩書きは取材当時のもの
社員と家族のために、心を尽くしたイベントづくり
――本日はお疲れさまでした。今回のイベントの準備は、どれくらい前からスタートされたのですか?
瀬井智行さん(以下、瀬井):本格的に動き始めたのは1月頃です(イベントは5月に実施)。魅力研が月1回集まり、1〜2月で企画案を出し、3月に内容を絞り込み、4月から準備に入りました。
来てくれる子どもたちには、できるだけ「現場のリアル」を体験してもらいたいので、過去にも工具に触れたり、クロス貼りやモルタルの手形づくりをしたりして、現場で使うものを多く取り入れてきました。
――歴史のある社内イベントで、2017年度からは「マンションづくりふれあいフェスタ」と改め、毎年開催されているそうですね。企画内容はどのように検討されているのでしょうか。
瀬井:高圧洗浄機(ハイウォッシャー)のように、子どもが遊びやすく好評なものは毎年定番にしていますが、それ以外は基本的に毎回新しい企画をやっています。今回は4イベントを実施しました。予算や安全面、現場規模を考慮して内容を決めていますが、一番難しいのは開催現場の確保ですね。
――現場の確保が難しいというのは、どういった理由からでしょうか。
瀬井:工事の進捗次第で実施できる現場と難しい現場があります。重機の有無や工事用エレベーターが使えるタイミングなど条件があり、事業主の理解も必要です。そうした調整はすべて魅力研の委員同士で話し合って決めています。
小池宙(以下、小池):現場調整も含めて魅力研のメンバー主体で進めてもらい、組合執行部の我々はサポート役として動いています。
▲「重機に乗れる」という機会自体が貴重なイベント
――安全面にもかなり気を使われそうですね。
瀬井:楽しいイベントですが、「けがをさせない」が大前提です。安全を最優先に現場を選び、前日の夕方から危険がないように準備を進めて当日を迎えています。
――今回、特に力を入れた企画は?
瀬井:初めての試みが2つあります。ひとつは高さを測るレーザー機器の体験です。高価なので慎重にはなりましたが、現場では日常的に使う道具なので、ぜひ触れてほしかったです。
▲実際に工事現場で使われている機器に触れ、「本物」を体感することで現場への理解も深まる
▲レーザー光を使って高さや水平であることを確認する、回転式レーザーレベル
もうひとつは「建設現場の言葉クイズ」です。一輪車を「猫」、作業台を「立馬(たちうま)」と呼ぶなど、現場独特の呼び名を当てるクイズを出したところ、子どもたちに好評でした。
――今日を振り返って、いかがですか?
瀬井:子どもたちの笑い声が聞こえたことが何よりでした。営業や都市開発に携わる社員と家族に加え、賃貸やリフォーム、マンション販売といったグループ会社の社員と家族にも来てもらい、普段は入れない、工事現場の「仮囲いの中」を体験してもらえたのも良かったですね。現場の空気は、大人にとってもおもしろいと思います。
▲一般の人が工事現場の内部に足を踏み入れる機会は貴重だ
未来へつなぐ、建設の仕事との出会い
――今後のイベントへの思いは。
瀬井:年2回開催したい思いはあるものの、魅力研26人のメンバー全員が本業と並行して準備を進めているため、今は年1回の開催に全力を注いでいます。
小池:以前は現場社員が土曜勤務で参加しづらかったのですが、今は建設現場も4週8閉所(年間104日程度の現場閉所)を積極的に取り組んでおり、休みがとりやすくなったことから、グループ全体の交流イベントとしても定着してきました。リピーターが親戚の方を連れてきてくれることもあり、自分たちの会社の仕事を知ってもらう場として、今後も大切に続けていきたいですね。
▲企画から運営まで、現場の有志が手掛けるイベントの裏側を語る
――建設業界の人手不足という課題もあります。将来の建設人材につながる期待もありますか?
瀬井:ぜひ、つながってほしいですね。子どもの頃に現場に触れる経験があれば、将来の選択肢のひとつとして残ると思います。親が建設業なら、なおさらです。
小池:業界として人材確保は大きな課題です。待遇面なども大切ですが、将来を考えると子どもたちには、まずは現場に親しんでもらい、興味を持ってもらうことが大事だと思います。
参加者はイベントで何を感じたのか
イベントを支える運営側の思いは、当日の参加者にどう届いたのでしょうか。会場で聞こえてきた声を伝えます。
▲工事用のカラーコーンやバケツを的に見立てた手づくりの的当てゲームに挑む
「全部楽しかった」と、目を輝かせた子どもたち
主役とも言える子どもたちは、思い思いの体験に夢中になっていました。手裏剣(スペーサー)やハイウォッシャーの的当て、キラキラと光るランタンづくり、建設用語のクイズ、重機をはじめとする乗り物——。「全部楽しかった」と興奮気味に話す姿が印象的で、中には昨年「水鉄砲が楽しかったから今年も来た」と、イベントを心待ちにする子どもの姿もありました。
建設業以外の参加者からは、次回につながる要望も
社員の親族で、建設業とは異なる業界で働く参加者からは、驚きの声が上がりました。普段は建設現場に入る機会が滅多にないため、一つひとつの作業を間近で見られたことが新鮮だったと言います。「マンションが、こうした作業の積み重ねによって形づくられていることを実感できた」と語ってくれました。一方で、「子どもは乗り物が大好きなので、もっといろいろな働く乗り物に触れられる企画があれば、さらにおもしろいかもしれない」といった前向きな要望も聞かれました。
家族に見てもらえる場に感謝
親として子どもと共に参加する長谷工グループの社員にとっては、自分の仕事を家族に伝える貴重な機会でもあります。夫婦ともに建設系の仕事をしているという教育チームの社員(参加3回目)は、子どもが重機体験や工作を楽しむ姿を見ながら、「将来、建設業に興味を持ってくれたらうれしい」と語りました。社員の家族が親の仕事を知る場として、大きな意義を感じているといいます。
また、設備部の社員(参加2回目)は、普段の現場環境を家族に見せるのは難しいからこそ、妻や子どもに自分の仕事を理解してもらえる貴重な機会だと、感謝を口にしました。実際の資材を使った体験は、子どもの興味を広げるきっかけになると好評でした。
▲ベニヤに貼ったタイルを、先端部分に金属玉の付いた打診棒を用いて、音の変化にてタイルの浮きを調べるゲーム。マンションの外装に使われるタイルを、子どもたちが遊びながら間近に体験する
毎年のように足を運ぶリピーターの存在も、このイベントが根づいてきた証です。4回、5回と参加を重ねる方は、普段は入れない現場に入り、建設会社が具体的にどのように物をつくっているのかを間近で見られることを、一番の楽しみに挙げていました。
子どもの歓声、家族のまなざし、そして仕事への誇り。マンションづくりふれあいフェスタは、長谷工グループにとって、ものづくりのおもしろさと働く人の思いを世代や立場を越えて分かち合う場となっています。
取材・文:小野悠史 撮影:ホリバトシタカ
※本イベントは、工事を終日行っていない休工日に実施しました。現場の安全を確認した上で開催・撮影を行い、ヘルメットや安全帯 / ハーネスは着用していません。
WRITER
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz
おまけのQ&A
- Q.来年以降の構想はありますか?
- A.瀬井:じつは以前、タワーマンションの現場で、地上約100mの屋上まで上がれる企画をやったことがあるんです。高いところが苦手な人にとってはちょっとした絶叫体験ですが(笑)、子どもたちには「街を見下ろせた!」と大好評でした。あの特別感は、なかなか味わえないと思います。また協力していただけるタワーマンションの建設現場があれば、ぜひもう一度挑戦してみたいですね。
- Q.お二人自身に、子どもの頃に建設現場の原体験はありましたか?
- A.瀬井:私は子どもの頃に現場経験はありませんが、親が設計に携わっていました。子どもながらに、図面を描く姿を見ていた記憶はあります。ただ、現場のおもしろさを知ったのは働き始めてからですね。
小池:実家が工務店で、子どもの頃から安全な作業を選んで現場を手伝っていました。完成した時の達成感をそこで知りました。やはり身近に建設業があると、業界に入る可能性は高まると思います。
【いまこそ、二拠点生活。vol.5】「週末は、海で心身をリセット。仕事も趣味も…を叶えた“サーフ動線”の部屋」