中古マンションの「リノベ前提」はもう古い? 三浦展が教える“ありのまま”を楽しむ賢い選択

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「中古を買ったらリノベーションする」──そんな常識が変わる兆しが見えています。「そのまま住む」という新しい選択肢に注目しているのは、社会デザイン研究者の三浦展さん。ウェルビーイングの重要性が高まる中、これからの時代における“ありのままを楽しむ暮らし方”について聞きました。

――2025年度は東京23区の新築マンション平均価格が1億3000万円を超え、誰もが買えるものではなくなってきています。新築供給自体も減少する中、今後選ばれるマンションや、住まい方はどのように変化していくのでしょうか?

 

三浦:今、「新築は高いし、中古をどう選ぶか」が大きなテーマになっています。選択肢として中古マンションに目が向かいやすい状況がありますね。

 

それに、普通に経済成長を目指しても、人口が減少する日本の内需は必ず減っていきます。新築をどんどん建てるだけでなく、未来のために、古いものをうまく使ったほうがいい。その前提を共有できるようになったのが、前編でも触れた、「第五の消費社会」の現状だと思います。

 

その際にポイントになるのが、1990年代以降に供給されたマンションです。これらの物件は、竣工から30年近く経過していても、適切に管理・使用されていれば、躯体や設備の基本性能が大きく損なわれていないケースも少なくありません。一例ではありますが、私の義理の両親も30年余り前にマンションを購入し、大きな不具合もなく、現在も問題なく住み続けています。

三浦展さんプロフィール

▲三浦展(みうらあつし)さん。社会デザイン研究者。1958年生まれ。1982年に一橋大学社会学部を卒業後、パルコでマーケティング情報誌『アクロス』の編集に携わる。1986年から同誌の編集長に。1990年に三菱総合研究所入社、1999年にカルチャースタディーズ研究所を設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究をもとに新時代を予測し、社会デザインを提案している。著書に『第四の消費 つながりを求める社会』(朝日新書)『ウェルビーイングな日本』(而立書房)『下流社会 新たな階層集団の出現』(光文社新書)など

2000年代にリノベーションが広く普及した一因には、それ以前の「旧耐震」や、間取り・設備が現代の生活に適合しにくい物件が多かったことがあります。そのままでは住みにくいことが、リノベーションの動機になっていたわけです。

 

一方で、1990年代以降の物件では、基本的な性能や間取りが現在の生活水準と大きくは乖離していないため、全面的な改修を行わずとも、インテリアの工夫などで快適に「そのまま住めてしまう」ケースも増えています。

 

 

――中古物件を買って、あえてリノベーションせずに住むということですか?

 

三浦:そうです。以前、本にも書いたのですが、当時は全く共感を得られませんでした(笑)。でも、今の時代、当たり前のようにリノベーションをするのはもう古くて、「そのまま住んでしまう時代」が間違いなく来るでしょうね。

 

たとえば、建築家の藤村龍至さんたちが管理に関わっている鳩山ニュータウン(埼玉県)の事例があります。そこに空き家を買ってシェアハウスとして貸している例があるのですが、そこに住む若い男性三人は家の中のものを「残置物のまま」で使っているのです。自分たちで新しく買ったのは電子レンジだけ。置いてあった服はメルカリで売って家賃の足しにし、家具や食器、果ては前の住人のピアノまでそのまま使っている。

 

私の田舎の実家でも、ピアノや食器、家具が置きっぱなしですが、今度そのまま売ることができました。「要るものは使うし、要らないものは捨てるか売る」というスタイルのほうが圧倒的に楽です。これまでは「全部空にしてフルスケルトンでやり直す」のがスタンダードでしたが、これからはアメリカやヨーロッパ的な「家具もそのまま引き継ぐ」という、合理的な価値観に変わっていくと思います。

 

 

――中古を買う=リノベーション前提というイメージがありましたが、そのまま住むのも素敵ですね。

 

三浦:そうですね。リノベーションのやり方によっては、画一的な仕上がりとなり、ヴィンテージマンションの“味わい”が失われてしまうケースもあると感じます。私の住んでいるマンションでも、業者が買い取って上の部屋と全く同じ設計図でリノベーションしていました。そこは私が以前借りていた部屋で、こだわって付けた照明のスイッチまで安いものに替えられてしまうところだったので、「あのスイッチは僕が付けたから外して持ってきてくれないだろうか」と、思わず頼んだほどです(笑)。

 

こうなるくらいなら、30年前のオリジナルのまま住むほうが、よっぽど楽しいかもしれません。若い人たちは今、将来に備えて貯金したいから、モノをあまり買わない傾向があります。「ピアノがあるならそのままでいいじゃん」と。ライフスタイル全体が「中古で、ありのままでいい」と肯定されるようになってきているんです。

「残置物として古い住宅に残されていたフェラガモのスーツをそのまま受け継いでいる」という若者のエピソードは、三浦さんの価値観にも影響を与えたという

▲「残置物として古い住宅に残されていたフェラガモのスーツをそのまま受け継いでいる」という若者のエピソードは、三浦さんの価値観にも影響を与えたという

――華美で派手であることよりも、落ち着いた風合いやレトロな味わいを好む。それも第五の消費社会ならではの傾向でしょうか。

 

三浦:そうですね。今の若い世代は、「シンプルが一番」とは必ずしも思っていません。 親世代がシンプル志向だったので、彼らは逆に「昭和のおじいちゃんが住んでいたような空間」や「おばあちゃんが好きだった花柄の器」などに魅力を感じたりするんです。昭和レトロどころか「昭和の空き家」の落ち着きを好む人もいる。

 

じつは僕も最近、本が溢れてしまったので、昭和の時代に建てられた古いアパートを借りました。軽量鉄骨で家賃は3万円。「いずれ取り壊しになるから、設備が故障しても直しません」という条件で、安く借りることができています。築40年で、壁も少し茶色くヤニでくすんでいるような部屋ですが、これが不思議と「白い壁」よりも古い本に似合うのです。実家から持ってきた花瓶や茶器を飾ってみたら、まるで千利休の茶室のような(笑)、素敵な空間になりました。

 

三浦さんが書庫として借りている部屋の一角。掛け軸やすだれなど、実家から運び込んだものも多い

▲三浦さんが書庫として借りている部屋の一角。掛け軸やすだれなど、実家から運び込んだものも多い

プラスチック製のものをあまり見かけない空間であることも印象的だ

▲プラスチック製のものをあまり見かけない空間であることも印象的だ

変にきれいにリノベーションされているよりも、その「古びた味わい」がちょうどいい。毎朝そこへ行って、音楽を聴きながらお茶を飲むのが最高の時間です。新築や完璧なリノベーションにとらわれず、あるものをどう楽しむか。それこそが、これからのウェルビーイングな住まい方のヒントになるのではないでしょうか。

 

 

――戸建てにお住まいだったこともある三浦さんですが、現在はマンション暮らしと伺いました。三浦さんの思う、マンションならではの価値とは何でしょうか?

 

三浦:非常に物理的なものですが、まずは「防犯・防災上の安心感」、そして「フラットな空間」ですね。年を取ると階段を上るのが嫌になりますから、バリアフリーであることに大きな価値を感じます。

 

戸建ては戸締まりだけでも大変ですし、庭はすぐに雑草だらけになる。共働き時代には、よほど庭いじりや掃除が好きでないと、維持のハードルが高いのではないでしょうか。また、耐震性の面でもマンションには安心感があり、総じて「安心して暮らすための基盤」としての価値が、マンションにはあると感じます。あとは、何より「眺めがいい」こと。眺望の良さも、マンションならではです。

 

ただ、人間関係の面では、僕は戸建ての住宅地に長く住んで「お互いなんとなく仲が良い」という、風通しのいい関係が好きです。大都市のマンションは匿名性が高いため、隣人のお葬式があっても知らない、ということも多いですよね。匿名性の高さという点では、築50年の高齢化が進んだマンションで、豊かなライフスタイルを実現するのはなかなか難しい課題だとは思います。

マンションと戸建てに、それぞれの魅力と課題を感じている三浦さん

▲マンションと戸建てに、それぞれの魅力と課題を感じている三浦さん

――ウェルビーイングが重視される時代において、マンションはどうあるべきでしょうか?

 

三浦:やはり「緑の価値」は重要になってきます。「ベランダに緑が豊富にある」「窓から緑が見える」といった条件を求める人が増えている。

 

じつは昔の東京は、個人の庭や寺社に、緑が豊富にあったんですよ。しかし、多くの人が日本中から大都市に集まって住むようになるにつれて、こうした庭が少しずつ失われてしまった。だからこそ、窓から緑が見え、大きな公園や川に近いことの重要性は、これまで以上に高まるでしょう。緑を見て癒やされることは、ウェルビーイングに直結します。

 

コロナ禍を機に花を買う人が増えたともいわれますが、たとえば管理会社が、掃除や設備管理だけでなく、ガーデニングの提案や花を楽しむワークショップなどを開く。そうした、小さな工夫の積み重ねが「ここに住み続けたい」と思える理由になっていく。そんな日常の豊かさをどうつくるかが、これからのマンションには求められていくのかもしれません。

 

 

取材・文:榎並紀行 撮影:ホリバトシタカ Location:LifeWork

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WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.マンション内に立派なコミュニティスペースをつくる動きがありますが、どう思いますか?
A.三浦:一定のニーズはあるかもしれませんが、住人の大半は、そこまでの立派なコミュニティスペースは求めていないように思います。どうしても、「自分には関係ない」「暇がない」「中心人物が気に入らない」となりやすい。その点、地域にある昔ながらの飲食店のような場所は、無理のないかたちで人とのつながりが生まれやすいと感じます。あくまでも、エリアとしての魅力をつくり、エリアの価値を共有できることが大切ではないでしょうか。