団地再生で地域を活性化する。神奈川県横須賀市の旧市営団地を舞台に、独自のボトムアップ手法で再生に挑む、エンジョイワークスの福田和則代表に話を聞きました。
「点」から「面」へ――旧市営田浦月見台住宅の再生に踏み出した理由
――エンジョイワークスでは、不動産、建築設計、空き家再生、まちづくり、ファンド運営など、幅広い事業を手がけていらっしゃいます。そうした中で、2024年から横須賀市の旧市営田浦月見台住宅を、再生するプロジェクトが動き出しました。きっかけは何だったのでしょうか。
福田和則さん(以下、福田):もともと私たちは、建物の再生を数多く手がけてきました。たとえば、空き家一軒を地域の方々と一緒に再生するような、ボトムアップ型の取り組みです。そうしたプロジェクトを全国で100件ほど積み重ねる過程でネットワークが広がり、知見も蓄積されました。
ただ、社会に与えるインパクトを考えると、「点」の取り組みだけでは限界があるとも感じるようになりました。点の再生によって地域に変化は生まれても、それだけで地域全体が劇的によくなるわけではない。そこに少し、もどかしさがありました。
では次に何をやるべきかと考えたとき、「面」で取り組めるプロジェクトに目が向きました。なかでも団地は一定の規模で住宅が集積しており、遊休化しているものも少なくない。面で再生に取り組む対象として、チャレンジする価値があると考えました。
――その中で、横須賀市の旧市営田浦月見台住宅を手がけることになった経緯を教えてください。
福田:私たちは新しい取り組みを始めるとき、まず社員の多くが住んでいて、仲間もいる湘南エリアで「実験の場」を探すことが多いんです。今回も、湘南周辺で何かできないかと考えていました。そんな中で横須賀市が公的資産である遊休不動産の活用を官民連携で積極的に行っていることから、対象のひとつである月見台住宅を見せていただきました。
――実際に現地を見て、「ここならできるかもしれない」という感触はありましたか。
福田:ありました。月見台住宅に可能性を感じたのは、すぐに収益化を求められる場所ではなかったことが大きな理由です。たとえば、駅前や幹線道路沿いのような収益化が見込みやすい立地だと大手が参入し、マンションや宅地開発が優先される傾向がありますが、月見台住宅は丘の上にあり、細い道をのぼっていかなければならない。すぐに開発できるような条件がないからこそ、時間をかけて人を巻き込みながら進める私たちのやり方と相性が良いなと思いました。
もう一つは、場所そのものが持つ魅力です。1960年代の建物が丘の上に並ぶ風景には、時が止まったような独特の雰囲気があり、眺望のよさもあった。動画メディアなどで「天空の廃墟」と呼ばれていたのも、その個性を表していたと思います。
さらに、戸数がまとまっていて、面で再生に取り組めるだけの余白もありました。一般には不利とされる立地や古さが、私たちにとっては、むしろ挑戦しやすい条件に見えました。
▲福田和則さん。エンジョイワークス代表取締役。1974年兵庫県生まれ。2007年にエンジョイワークスを設立。「まちづくりや家づくりのジブンゴト化」による豊かなライフスタイルの実現を目指し、2018年には地域活性化クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」をリリース。不動産および建築分野にとどまらず、宿泊施設の開業支援などの事業展開を行う。※所属先・肩書きは取材当時のもの
人を巻き込む仕組み――「天空の廃墟」見学会から始まる共創
――2025年から入居が始まった月見台住宅。現在は47戸中46戸で入居が決まり、多くが開業、または準備中とのことです。かなり高い稼働率ですね。
福田:ありがたいことに、多くの方に関心を持っていただきました。「なりわい住宅」という考え方で募集した月見台住宅は、単に住むだけでなく、住まいの中に小さな商いや仕事、表現活動の場を持ち込み、暮らしと営みを一緒に育てていく住まいです。そうした考えに共感し、飲食や物販、工房、アトリエ、民泊などに挑戦したい、場を活用したいという方に選ばれたのではないでしょうか。
――こうした場を、具体的にどうやって形にしていったのですか。
福田:最初から、完成した住宅に人を呼ぶのではなく、つくっていく過程に入ってもらうことを大事にしてきました。企画を立てる前の段階から見学会を開いて、「廃墟と呼ばれている団地を見てみたい」くらいの方にも気軽に足を運んでいただきました。現地は更地ではなく建物が残っているため、現場を見ることで「ここで店ができそうだ」「ここで何か始めたらおもしろそうだ」と、具体的な発想が生まれやすかったと思います。
その上で、法規や実現可能性については私たちが整理し、「ここまではできますよ」という土台をつくりました。そこに参加者の方々のアイデアを重ねながら、一緒に企画を育てていきました。そうやって関わる方が増えることで、単なる借り手、入居者ではなく、この場所を一緒につくる仲間が集まっていったのだと思います。
▲丘の上にある月見台住宅。開けた眺望が広がる
――不動産を扱うこと自体が目的ではないように見えます。
福田:はい、まさに。目的はあくまで、人を巻き込みながら地域をよくしていくことです。不動産やファンドは、そのための手段にすぎません。団地に関しては、月見台住宅のように団地全体を面的に再生する取り組みの他、区分(一室)のリノベーションや、URの大規模団地・企業社宅の活用にもチャレンジしていますが、共通しているのは、空間を直して終わりではなく、そこで「どんな営みを生み出すか」までを考えて、実践していることです。
▲1960年代につくられた建物に手を入れ活用している、2026年現在の月見台住宅
▲木造やコンクリート造の長屋が、昭和の「平屋団地」の面影を残す
▲月見台住宅入り口の地図看板
クラウドファンディングで集めたのは資金だけではない
――資金面について伺います。月見台住宅では、投資型クラウドファンディング(以下、ファンド)も含めて、いろいろな形で資金調達をされました。
福田:金額でいうと、総額で3億円強が集まりました。ファンドで約1億3,600万円、横須賀市から整備費で4,000万円、国土交通省から空き家対策モデル事業として約2,500万円。それに加えて、地元信用金庫からの融資や、入居者による前払い家賃の一括払いなどがあります。ファンドの参加者は250人規模になりました。
――参加者は特に、月見台住宅の何に対して価値を感じているのでしょうか。やはり事業やプロジェクトへの共感が大きいのでしょうか。
福田:共感といっても、その形はさまざまです。「テレビで紹介されているのを見ておもしろそうだ」と感じてくれた方もいれば、「官民連携なら比較的安心な投資先かも」と考える方もいる。「利回り8%なら悪くない」と、経済合理性で入る方もいますし、遊休不動産の再生や地域再生という社会的意義そのものに共鳴してくれる方もいます。
おもしろいのは、最初はリターン目的だった方が、実際に現地を見て「応援したい」という気持ちに変わる場合があること。経済性を入り口にした投資家が、だんだん当事者に近い存在になっていく。そこにも大きな意味があると思っています。
――お金を集める仕組みと、共感やコミュニティを育てることは、どう両立させているのですか。
福田:それはまさに両輪です。いくら意義のあることでも、お金が回らなければ続きません。だからこそ、夢やビジョンを共有するだけでなく、きちんと持続可能な事業として成り立つことを示す必要があります。投資してくださる方にも説明できる形で運営していくことが重要であり、理想と収益性、その両方がそろって、初めて事業として続けられるのだと思います。
▲時間をかけ、丁寧なアプローチで再生に取り組む。ボトムアップで多くの人を巻き込みながら進めていくのがエンジョイワークス流だ。「急に儲けなくていい」という福田代表の言葉にも、その思想がにじむ
建物再生後、真に問われる「コミュニティ育成」と「地域活性化」
――月見台住宅のプロジェクトを進める中で、想定外だったことや、苦労した点はありましたか。
福田:やはり、ハード面での苦労はありました。実際に、建物に手を入れてみると、想定以上に修繕費がかかることもありました。古い建物を再生するときには付きものの悩みですが、今回は数が多かったので、その苦労は何倍にもなりましたね。
――では、建物が整ってきた今、これからの課題は何でしょうか。
福田:これから本当に問われるのは、“コミュニティが適切に形成されていくか”という点だと思っています。月見台住宅には、新しく47組の入居者が集まっていますが、もともとの地縁があるわけではなく、それぞれが「なりわい住宅をやりたい」という思いを持って集まってきた方々です。だからこそ、ここで生まれたコミュニティをどう健やかに育てていくかが重要になります。
▲月見台住宅にはさまざまなショップが集まる(入居者の一人が描いた現地マップ)
月見台住宅で目指しているのは、団地の中だけが盛り上がることではありません。横須賀市と共有している大きなテーマは、地域の活性化です。新しくできたコミュニティが、既存の地域とも良い関係を築き、地域へ波及していかなければならない。そのために、できるだけ人と人が接点を持てる機会を増やしたいと考えています。効率だけを考えれば手間のかかるやり方ですが、そこにこそ私たちの意味があると思っています。
「一人二役」という新しい住まい方
――月見台住宅のような取り組みは、全国の団地や郊外マンションの再生にも広がっていく可能性があるのでしょうか。
福田:すべての団地に転用可能な方法とは言いませんが、都市部や郊外の団地には、まだ十分な可能性があると思っています。団地には、マンションにはない庭や広場、商店街、学校といった「余白」が残っていることが多いからです。再生のヒントは地域に住む人たちが抱えている「こうなったらいいのに」という思いの中にあるはずです。それを丁寧に拾い上げて、みんなで形にしていくことが大事だと考えます。
――その考え方は、団地だけでなく、郊外マンションにも通じそうですね。
福田:そうですね。人口が減っていく中で、郊外の住宅には新しい使い方が求められていると思います。たとえば、親の介護や入院に合わせた中長期の滞在ニーズ、もう一つは、一人が複数の役割を持つ暮らし方です。週末だけ使う住宅といった需要も探っていけるでしょうね。
▲他にも、「インバウンドのニーズも視野に入るのではないか」と福田代表は語る
――会社員として働きながら、別の場所で小さな商いや活動を持つようなイメージでしょうか。
福田:まさにそうです。普段は東京や横浜で会社員として働きながら、週末は郊外でクッキーを焼いたり、カレー屋さんをやったりする。そういう「一人二役」の暮らし方ですね。これは月見台住宅のような「なりわい住宅」にも通じる発想です。
実際、JR東日本さんと木更津にある駅近の社宅で実証実験を行ったときも、横須賀に限らず、そうしたニーズがあることが見えてきました。かつての利用者がいなくなった建物を自分のやりたいことに挑戦できる場として捉え直すと、可能性はかなり広がると思います。
取材・文:小野悠史 撮影:ホリバトシタカ
WRITER
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz
おまけのQ&A
- Q.入居が始まってから、月見台住宅の運営面で見えてきた課題はありますか?
- A.福田:入居希望者との認識のギャップです。月見台住宅では「ヴィンテージ&クリエイティブ」を掲げ、DIYもどんどんやってもらっています。ただ、一般的な賃貸物件の感覚で来られる方もいて、「ここが使いづらい」「なぜ自分で手を入れなければいけないのか」と戸惑われることもありました。コミュニケーションの手法も、これからもっと、模索していきたいですね。
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