「第五の消費社会」の住まい選び。三浦展が語る、エリアの価値の重要性

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人口減少やコロナ禍などを背景に、モノの所有よりもウェルビーイングを重視する価値観が広がってきています。現在の日本は、そんな「第五の消費社会」へ突入しつつあると語るのは、社会デザイン研究者の三浦展さんです。第五の消費社会における住まいや地域のあり方について、三浦さんに伺いました。

――最近、「モノをたくさん持つこと」よりも「心地良く暮らすこと」を重視する人が増えているように感じます。こうした価値観の変化は、どのように捉えればいいのでしょうか。

 

三浦展さん(以下、三浦):そうですね。現在は、新しいものを次々と消費し、豊かさを目指す画一的な時代から、「自分にとって何が心地良いか」を重視する多様な価値観の時代へと変わってきました。

 

私は、人々の価値観の変化に合わせて、時代をいくつかに分けて考えています。その枠組みで言うと、2004年頃までは「西洋をモデルとして、ひたすら一直線に進歩を続ける時代」でした(※)。アメリカやヨーロッパの豊かな国々を追いかけ、モノを所有し、GDPを伸ばしていくことが良しとされた時代です。マンションで言えば、「新築を買うのが当たり前」という価値観ですね。

 

しかし、2005年からは、こうした進歩を疑う時代へと転換します。これ以上モノがあっても幸せになれないのではないか、新品ばかりではなく中古やリノベーションでもいいのではないか、と人々が気づき始めたのです。私はこれを「第四の消費社会」と呼んでいますが、そうしたマインドの変化に伴って環境問題への意識が高まり、シェアハウス、リノベーションといったビジネスが台頭してきたのがこの時期です。

 

そして現在は、その価値観を行政や大企業も本格的に取り入れ、「第五の消費社会」へと移行する兆しが見え始めています。とりわけWellbeing(ウェルビーイング/より良い生活環境・社会の構築)というキーワードが強調されるようになったのが、最大の特徴と言えるでしょう。

 

※三浦さんは1912〜1941年を「第一の消費社会」、1945〜1974年を「第二の消費社会」、1975〜2004年を「第三の消費社会」と分類している

 

 

――なぜ今、大企業や行政がそうした価値観に本気で取り組み始めたのでしょうか?

 

三浦:やはり大きいのは、超高齢社会の本格化と人口減少です。これからは人が減り、モノが売れにくくなる時代に入っていきます。1920年に約5600万人だった日本の人口は2010年までに約1億2800万人に増加したものの、そこからは減少の一途をたどっています。内需が減りゆく中で、ただモノを作って売るだけの経済成長モデルは通用しません。だからこそ、「どうすれば人がより良く幸せに生きられるか」、つまりウェルビーイングの視点が重要になってきているのだと思います。

 

第四の消費社会では、こうした価値観はまだ、一部の建築家やクリエイターなど「新しい暮らし方」を考える、特定の人たちのものでした。でも今は、その考え方が行政や企業も含めて、社会全体に広がってきています。コロナ禍も一つの転換点となり、こうした考え方が、本格的な事業や街づくりとしてかたちになり始めているのが現在の日本だと言えるでしょう。

三浦展さんプロフィール

▲三浦展(みうらあつし)さん。社会デザイン研究者。1958年生まれ。1982年に一橋大学社会学部を卒業後、パルコでマーケティング情報誌『アクロス』の編集に携わる。1986年から同誌の編集長に。1990年に三菱総合研究所入社、1999年にカルチャースタディーズ研究所を設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究をもとに新時代を予測し、社会デザインを提案している。著書に『下流社会 新たな階層集団の出現』(光文社新書)など

――こうした価値観の変化に伴って、人々の「住まい観」はどう変化していくのでしょうか。

 

三浦:これからの住まいにおいて重要なのは、マンションという「点」ではなく、エリアという「面」での魅力づくりです。たとえば、立川にある「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」は、緑豊かな敷地内に誰でも自由に座れるベンチや東屋(あずまや)が配され、若い人からお年寄りまで多様な人々が集まっています。地元の企業が「これからの街にはこういう場所が必要だ」という価値観のもとにつくった、ウェルビーイングを感じられる場所です。

 

これまでのマンション開発は、「マンション内に立派なコミュニティスペースをつくれば住民同士が交流して満足するだろう」と考えがちでした。しかし、すべての住民がマンションの中に閉じこもって交流したいわけではありません。マンションの敷地を一歩出たら、気持ちのいい公園がある、個性的な個人経営のスイーツ屋さんがある、フラッと立ち寄れる焼き鳥のお店がある。そうした「エリア全体の価値」を共有できるかどうかが、これからの住まいの魅力を左右します。

 

 

――「マンション内のつながり」から、より広い「地域とのつながりを生む土壌や環境」が重要になってきているのですね。きっかけは何だったのでしょうか?

 

三浦:大きなきっかけは、やはりコロナ禍でしょう。「朝起きて会社に行き、夜に戻るだけ」の暮らしをしていた人たちが「家にいろ」と言われた時、周囲に知り合いが誰もいない状況が、どれほど恐怖だったか。閉塞感の中で、「ちょっと息抜きできるカフェがほしい」「公園がほしい」「品揃えの良い本屋がほしい」と、豊かな生活圏の重要性が高まったのです。

 

 

――そうなるとデベロッパーもマンションのことだけを考えるのではなく、「地域をどう活性化していくべきか」という視点を持つべきですね。

 

三浦:そうですね。マンションの中ですべてを自足しようとするのではなく、地域に開かれ、地域の人たちともつながれるような拠点をどうつくっていくか。たとえば、日本の大企業は土地資産を持っていますよね。そうした自社の敷地を地域に開いていくような「大企業ならではの街づくり」が第五の消費社会では求められています。

三浦さんは「“集まって住むのは家ではなくエリア”であり、地域をどう活性化していくか考えることが大切だ」と語る

▲三浦さんは「“集まって住むのは家ではなくエリア”であり、地域をどう活性化していくか考えることが大切だ」と語る

――マンション内でのコミュニティ形成については、どうお考えですか?

 

三浦:コミュニティづくりが失敗しがちなのは、マンションの理事会のように、義務感や強制力を伴ってしまうことです。これからの時代に求められているのは、「いかに個人を拘束しないコミュニティであるか」です。

 

 

――個人を拘束しない、とは具体的にどのような状態でしょうか。

 

三浦:「いつ入ってもいいし、いつやめてもいい。常識の範囲内なら何をしてもいい」というゆるやかさです。コミュニティやつながりを求める人が集まるイメージの強いシェアハウスやコレクティブハウスでさえ、平均居住期間は非常に短いといわれていますし、ずっと一緒にベッタリ仲良くする関係は、かえってトラブルのもとになるとも言えます。

 

ですから「コミュニティをつくりましょう」と強制するのではなく、共通の趣味や目的を持つ人同士がゆるくつながれる場があるといいと思います。たとえば、マンション内で「園芸部」を立ち上げ、庭木の手入れが好きな人だけが自発的に3、4人集まって活動する。あるいは、玄関ホールを使って「不要になった子ども服のフリマ(交換会)」を開催してみる。日頃すれ違うだけの人と、「同じブランドが好きだったんだ」とゆるくつながるきっかけを用意するだけでいいんです。

 

ともあれ、昨今の過度に警戒し合う社会の中で、この「ゆるやかなつながりのきっかけ」をどうデザインするかが、個人を拘束しないコミュニティの肝になります。

「コミュニティは気持ちが良くなければ意味がない」と三浦さんは言う

▲「コミュニティは気持ちが良くなければ意味がない」と三浦さんは言う

――三浦さんは、これからの時代は「ケアをシェアする社会」が重要だともおっしゃっています。人が集まって暮らすマンションという形態は、ケア(介護、治療、予防など)や見守りをシェアするという観点からも意義のあることのように思いますが、いかがでしょうか?

 

三浦:繰り返しになりますが、それにはマンション単体ではなく、「街全体としての仕掛け」が必要だと思います。私自身の経験ですが、先日、同じマンションに住む、足の悪い高齢の女性を介助しました。これは私が自由業で、20年近くその場所に昼間も居続けているからこそできた関係です。サラリーマン時代は、6年住んだマンションの隣人に1回しか遭遇しないのが普通でしたから。昼間に会社へ行く生活をしている限り、近所付き合いは実際問題として難しいですよね。

 

 

――確かに、普段から交流のある相手ならまだしも、見ず知らずの他人に介助されることを望まない人もいるかもしれません。せめて「顔見知り程度」のつながりを、無理のないかたちで築く方法はないものでしょうか。

 

三浦:たとえば、“地域の拠点”を介してたまたま仲良くなった人が、じつは同じマンションの住人だったと気づく。出勤時間帯が10分違うだけで一生顔を合わせない隣人と、地域の拠点を介してつながる。

 

こうしたつながりを生む拠点をつくるためには、「昼間、そこにいたくなる仕掛け」が必要です。「会社にいるよりゆったり仕事ができるな」「いつでも美味しいコーヒーが飲める」など何でもいいのですが、そうした心地良さがあるといい。それが結果として、地域の中での「ケア」や「見守り」といった機能的なつながりへと発展していくのだと思います。

取材は三浦さんにとってなじみの深い、西荻窪で行われた

▲取材は三浦さんにとってなじみの深い、西荻窪で行われた

 

取材・文:榎並紀行 撮影:ホリバトシタカ Location:LifeWork

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WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.最近の若者は、どのような街を好む傾向がありますか?
A.三浦:チェーン店ばかりが並ぶ街よりも、個性豊かな個人商店がある街を好む傾向がありそうです。チェーン店は利便性の面では十分かもしれませんが、対人関係の構築という点では不十分でしょう。食事はできても、そこから客同士が飲み仲間に発展するような交流が生まれることはまずありません。その点、赤提灯の焼き鳥屋やおでん屋といった個人商店には単に食事をする場所というだけでなく、顔見知りをつくる社交場としての価値があります。決してきれいとは言えないようなお店であっても、そこに通うことで「この前も会いましたね」といった会話が生まれ、地域におけるゆるやかな関係性を育むきっかけになります。