日本でも韓国でも、マンション価格の高騰が止まりません。価格が上がっている状況は同じでも、受け止め方も、政府がとる政策の方向性も、両国でかなり異なるようです。なぜこれほどの差が生まれるのか。日韓の経済比較を研究テーマのひとつとする、ニッセイ基礎研究所の金明中先生に話を聞きました。
日韓で続くマンション価格上昇──共通する要因とは
――まず、日本と韓国それぞれの住宅価格は、どのように上がってきたのでしょうか。背景にある要因も含めてお聞かせください。
金明中さん(以下、金):日韓の住宅価格上昇には、いくつか共通点があります。低金利、都市部への人口・需要の集中、ウォン安・円安による建築費の上昇、そして供給の制約です。
なかでも韓国は首都圏への人口集中がとても激しく、2023年時点でソウル、仁川、京畿道(キョンギド)の3地域に、韓国の人口の50.7%が集まっています。国土面積でいえば、約11.8%ほどの地域に人口の半分以上が住んでいる計算になります。同じく東京一極集中が問題視されている日本の首都圏でも約30%であることからも、韓国の集中度は先進国のなかでも際立って高いといえますね。
▲約半数の人口が首都圏に集中している韓国
画像提供:金明中先生
――日本のマンション価格の状況はいかがでしょうか。
金:日本は、国土交通省の不動産価格指数を見るとよく分かります。2010年を100とした場合、2025年12月時点で住宅総合で148.0、マンションは実に225.1にまでなっている。マンションの上昇については、東京を中心とする首都圏では2倍以上に上がっています。
ただ、これは全国一律の動きではありません。地方では空き家も増えていますから、上がっている地域と、そうでない地域の差が広がっています。こうした地域格差は、日本に限った話ではなく、韓国でも見られる傾向だと思います。
▲2010年ころから、日本の不動産価格は顕著に上がっている
画像出典:国土交通省「不動産価格指数(令和7年6月・令和7年第2四半期分)を公表 ~不動産価格指数、住宅は前月比0.7%増加、商業用は前期比0.4%増加~」
▲韓国でも、2010年代からマンション価格は上昇している
画像提供:金明中先生
「買いにくさ」の日本、「資産格差」の韓国──受け止め方の違い
――同じように価格が上がっていても、日本と韓国では国民の受け止め方に違いがあると感じます。
金:かなり異なると思います。日本では、住宅価格の上昇は主に「住宅が買いにくくなる」という問題として受け止められます。特に若年層や子育て世帯が、買いたくても買えないという不安を抱えている。
一方、韓国では同じ価格上昇が「資産格差」や「世代間格差」の問題として受け止められやすい。これは住宅が、住む場所であると同時に、重要な資産形成の手段とみなされているからです。
▲金明中(キム・ミョンジュン)さん。ニッセイ基礎研究所 上席研究員。亜細亜大学都市創造学部特任准教授。未来を選択する会議・日韓少子化対策交流委員会アドバイザー。専門は社会保障論、労働経済学、韓国経済、日韓社会政策比較。日韓の少子高齢化や雇用・社会保障政策を研究する。著書に『韓国における社会政策のあり方―雇用・社会保障の現状とこれからの課題』など
――資産格差というと、具体的にはどういうことでしょうか。
金:たとえばソウルの中でも、高級な江南(カンナム)地域と、比較的手頃な、ソウル北部の蘆原区・道峰区・江北区のいわゆるノドガンとでは、私の確認する限り、マンション価格に約4倍の差があります。どこに家を買うかで、その後の資産がまったく変わってしまいます。だから韓国の人にとって、住宅は「住まい」であると同時に「資産」なんです。
――不動産を資産形成として考えるんですね。
金:「マンションを買っておけば必ず上がる」という考え方が、韓国には根強くあります。象徴的なのが、江南にある銀馬(ウンマ)アパートという古いマンションです。約4,500世帯の大規模な団地で、建て替えして新しいマンションになれば投資需要から資産価値が跳ね上がります。
不動産で当たれば、一生懸命に働いても稼げないようなお金が手に入るかもしれない。そういった期待から価格が急騰しました。例えば、銀馬アパートの13階・84平方メートルの住戸の実取引価格は、1979年の2,000万ウォンから、2024年8月には28億5,000万ウォン、日本円で約3億円にまで上昇しました。このように韓国では不動産を「住まい」ではなく「資産形成の手段」とみなす意識が強いのです。
▲銀馬アパートの価格推移
画像提供:金明中先生
なぜ韓国の若者は住宅に切実なのか
――韓流ドラマなどを見ていると、不動産や住宅ローン、金利の話題が頻繁に登場します。日本と比べて、韓国では住宅問題への関心がかなり高いように感じます。
金:韓国では日本以上に住宅が人生設計そのものと深く結びついています。住宅価格が非常に高く、金利や不動産政策の変化が暮らしに大きな影響を与えるため、若い頃から住宅や金融への関心がとても高い。
背景には労働市場の構造もあります。日本は大卒の就職率が高い一方で、韓国は就職競争が激しく、大企業と中小企業の給与格差も大きい。誰もが知る韓国の大企業では、平均年収が1億3,000万ウォン(約1,400万円)を超える場合もありますが、ソウルのマンション価格は平均15億ウォン(約1億6,000万円)程度まで上昇しています。家を買うためには、まず大企業に入らなければならないという意識にならざるを得ません。
自己実現やライフスタイルなどを考える前に、ソウル市内にマンションを買うためには大企業で高い給料を得ないといけない、という考え方になるんですね。
――住宅問題が就職競争にもつながっているわけですね。
金:その競争は教育にも及びます。いい会社に入るために、親は子どもの教育に多額の資金を投じます。江南の有名な塾に通わせるため、月に何十万円も支出する家庭も珍しくありません。「エデュプア(教育貧困層)」という言葉があるほどです。私の知る範囲では、ソウル市江南区に住む小学校低学年の子ども2人の場合、教育費は月20万円程度かかり、学年が上がるにつれてさらに膨らんでいきます。こうした負担の重さが少子化の一因になっているとも指摘されています。
――韓国では、かつては住宅をステップアップして取得していく、日本でいう「住宅すごろく」のような傾向もあったと聞きます。
金:昔の若者には「ウォルセ(月払い家賃)からチョンセ(家賃の代わりに多額の保証金を預ける韓国独特の制度)へ、さらに郊外で住宅を購入し、最終的にはソウルに家を持つ」という「住宅取得のはしご」がありました。
ところが、不動産価格の高騰によって、そのはしごは大きく崩れてしまいました。ソウル近郊の仁川、ソウル市内でも比較的価格の低いノドガン地域(「ノドガン」とは、ソウル北東部に位置する蘆原区(ノウォン区)・道峰区(トボン区)・江北区(カンブク区)の3地域を、それぞれの頭文字からまとめて呼ぶ略称)と、江南や盆唐(ブンダン)のような人気エリアとでは、歴然とした価格差があります。以前のように段階的に住み替えながら資産を形成することが難しくなっているのです。
――住宅価格の高騰が、就職、教育、さらには少子化まで影響を及ぼしているわけですね。
金:そうです。韓国では住宅問題が単なる不動産の話ではなく、人生そのものに関わる問題として受け止められています。だから、誰もが深く学ばざるを得ないといえるのかもしれませんし、不動産政策が投票行動に直結するほど、政策によって自分が損をするか得をするか考える若者も多いのでしょう。
▲金さんは「韓国では住宅が就職や教育とも結びつき、人生設計を左右する」と語る
支援か規制か──受け止め方が生む政策の分岐
――住宅価格高騰についての対策にも、日韓の違いは表れているのでしょうか。
金:はっきり表れています。一言でいえば、日本は「住宅取得を支える政策」、韓国は「過熱した需要、特に投機的な需要を抑える政策」に重点を置いています。
日本では、住宅価格が上昇しても、政策の基本は需要を抑えることではなく、取得を支援することにあります。フラット35や住宅ローン減税、子育て世帯や若者夫婦世帯への優遇などを通じて、買いたい人が買える環境づくりを重視しています。
――韓国はその逆ということですね。
金:韓国では住宅価格の上昇が「投機」「格差」「家計債務」「若者の住宅不安」と結びつきやすい状況があります。
ですから、住宅価格に対する借入割合を制限するLTV規制や、年収に対する返済負担割合を制限するDSR規制によって借入できる額を制限し、特にソウルや首都圏での投機的な購入や価格高騰を抑えようとします。たとえば、LTV規制によってかつては90%借りられていたものを80%、70%と下げていくと、自己資金が少なければ家を買えなくなってしまいます。
投機を抑える効果はありますが、その分、自己資金の少ない若年層や中所得層、初めて家を買う層の購入が難しくなるのです。
※1 LTVとは、住宅価格に対して何割まで借りられるかを示す基準。70%なら5億ウォンの物件に3.5億ウォンまで。比率を下げるほど自己資金が必要になる
※2 DSRとは、年間所得に対し、住宅ローンを含む全借入の年間返済額(元金+利息)が占める割合の上限。所得に見合わない過大な借入を防ぐ
――日本も韓国のように強い融資規制を導入できそうなものですが、なぜそうならないのでしょうか。
金:日本では、住宅政策が景気対策や建設・不動産などの産業振興、そして地方経済と深く結びついています。だから強い融資規制を導入しにくいのではないでしょうか。加えて、地方では人口減少や空き家問題が進んでいますから、需要を抑えすぎると、地方の住宅市場をさらに冷え込ませてしまう恐れもあります。全国一律で強い規制をかけるというのは、日本ではなかなか難しいのかもしれません。受け止め方の違いによって、こうした日本の支援策と、韓国の規制策という違いが出ていると捉えています。
▲受け止め方の違いが「日本の支援策と韓国の規制策との分岐を生む」(金さん)と話す
※本記事のウォン金額は、1ウォン=約0.1円(取材時点)で円換算しています。
取材・文:小野悠史 撮影:石原麻里絵(fort)
おまけのQ&A
- Q.韓国のマンションは、1,000戸以上の大規模な団地型が多いのはなぜですか?
- A.金:確かに韓国では1,000世帯規模の大きな団地型マンションが好まれますね。韓国のマンションは、住宅不足を解消するための都市開発の中で発展してきた経緯があるため、もともと大規模なものが多いです。また、マンション敷地の中に公園や幼稚園、スーパーマーケットがあって、そこで生活が完結するような環境が好まれる傾向があります。日本のタワーマンション人気とはずいぶん異なりますね。
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