2026年6月25日、大井町に開業した「オークウッド大井町トラックス東京」。担当者への取材から、富裕層向けサービスレジデンスが捉える顧客ニーズや、「暮らすような滞在」を実現する空間づくりの工夫を紐解きます。
暮らすような滞在。ホテルにはない、日常のコンフォート
――もともとは1962年にアメリカで誕生し、今では世界30以上の国・地域で約90施設(約1万7,000室)を展開するオークウッドは、ホテルではなく、長期滞在者向けの「サービスレジデンス」とのことですが、コンセプトや特色などについて教えてください。
浅場衣里さん(以下、浅場):オークウッドは、単に「泊まる」のではなく、「暮らすように滞在する」ことをコンセプトにしています。アスコットグループにはさまざまなブランドがありますが、オークウッドには、より上質な滞在を提供する「オークウッドプレミア」と、「オークウッド」の2つが存在します。いずれにも共通しているのが「コンフォート(快適さ)」を何より大切にしていること。
私たちは「Step Into Your Comfort Zone」というブランドメッセージを掲げており、ここに一歩足を踏み入れた瞬間に、お客様それぞれのコンフォートゾーンに入っていただけるような、そんな入り口でありたいという思いを込めています。より日常に近い感覚で過ごしていただけるよう、衣食住の環境を整えているのが特徴です。
▲浅場衣里さん。アスコットジャパン マーケティングディレクター。ホスピタリティ業界において大手外資系ホテルチェーンから国内ホテルチェーンまで幅広く経験を重ね、数々の新規ブランド立ち上げやマーケティング戦略に携わってきた。現在はアスコットにおいて、日本全体のマーケティング戦略を統括している※所属先・肩書きは取材当時のもの
――その「コンフォート」を体現する、オークウッドならではの、象徴的なサービスとはどのようなものなのでしょうか。
浅場:代表的なものとして「ジェムズ(GEMs)」と呼ばれるスタッフの存在が挙げられます。彼らは一般的なホテルのスタッフというよりも、コンフォートの意味を深く理解し、お客様に非常に近い距離感で接する存在です。ただ、決して過剰なサービスをするわけではなく、お客様の状況を察して、ホッとするようなサービスを提供することを心がけています。
また、全室にフルキッチンが完備されている点も重要です。ホテルであればオールデイダイニング(朝食から夕食まで利用できるレストランのこと)で食事を楽しむのもすてきですが、オークウッドが提案するのは「自宅の延長線上にある過ごし方」です。地域のお店や、施設直結のスーパーマーケットで食材を購入し、ご自身で好きなものを作れる環境を整えています。特に海外から長期滞在される方にとって、自国の「ホームフード」を簡単に作れる環境があることは、大きな安心感とコンフォートにつながると考えています。
▲自宅のように、思いのままに料理を楽しめるキッチンを備えている
画像提供:アスコットジャパン
――同じコンフォートでも、短期滞在のホテルと長期滞在型のレジデンスとでは性質が異なると思います。ジェムズのアプローチも、長期滞在ならではの工夫があるのでしょうか。
岩田光代さん(以下、岩田):おっしゃる通りです。たとえば、お客様が部屋に入られてすぐ「暮らし」が始まるよう、ジェムズはお客様の到着数時間前に、牛乳やお水などのデイリープロダクトを冷蔵庫にご用意します。備え付けのコーヒーマシンでコーヒーを淹れて、そこにミルクを入れたい方もいらっしゃいますよね。そうしたきめ細やかなおもてなしでお客様をお迎えします。
▲岩田光代さん。オークウッド大井町トラックス東京 総支配人。長年、大手外資系ホテルチェーンでオペレーション業務を経験後、2020年からオークウッドでエグゼクティブアシスタントマネージャー(副総支配人)として3施設の運営に携わる。現在は、オークウッド大井町トラックス東京/オークウッドレジデンス品川の総支配人を務める、オペレーション経験豊富なプロフェッショナル。※所属先・肩書きは取材当時のもの
岩田:滞在が長くなるにつれて、お客様それぞれの「暮らしのスタイル」が見えてきます。趣味を優先される方、お仕事モードの方。ラウンジでのご様子をさりげなく拝見し、「この方はコーヒーがお好きなんだな」「朝食のパンは召し上がらないな」といったことを把握し、紅茶を飲まない方には別のお飲み物をご提案するなど、一人ひとりに合わせた対応を心がけています。
さらには、「明日、台風が来ますね」といった、日常における何気ないお声がけも大切にしています。いつも決まった時間にランニングに行かれる方に「傘をお持ちになった方がいいですよ」とお伝えしたり、毎週木曜日にピアノのレッスンに行かれるお子様に「明日はレッスンですね」と声をかけたり。求められて動くというよりは、皆さんの暮らしの一部として自然に入り込むような関係性を築くようにしています。ホテルがアニバーサリーなどの「特別感」にフォーカスするのに対し、私たちは「日常空間としてのあり方」を追求しています。
――お部屋の空間デザインについても、華美であることより、落ち着きや機能性も重視されている印象を受けました。
岩田:そうですね。キッチンやテーブルも、落ち着いた雰囲気を大切にしながら、お客様それぞれの「自分らしい暮らし」を叶えられる余白を残しています。入居された後、テーブルの位置を変えたり、好みのアイテムを買い足したりして、ご自身らしい「居場所」をつくっていただきたいと考えています。
特に海外のお客様は、リビングなどに物を置かず、常にゲストを招けるようなすっきりとした環境を好まれるため、収納の多さは非常に重視されています。そうした暮らしやすさというベースの上に、ホテルクオリティの快適なベッドなどがある。まさに「ホテル・イン・レジデンス」として、ホスピタリティのプロフェッショナルによるおもてなしと、住まいの機能が融合していると自負しています。
外国籍が7割。世界のビジネス層が日本での「最初の住処」に選ぶ理由
――2026年6月25日にオークウッドとして12棟目となる「オークウッド大井町トラックス東京」が開業しました。改めて、特徴を教えてください。
岩田:この建物の最大の特徴は、JR東日本のホテル、我々のサービスアパートメント、そして賃貸レジデンスという3層が、一つの建物内で融合している点です。特に、賃貸レジデンスと我々サービスアパートメントの総合受付を、弊社のコンシェルジュが一元的に担う、画期的な取り組みをしています。住民の方々とサービスアパートメントのお客様が同じ入り口から入り、私どものスタッフが等しくハッピーにお迎えできるというのは、運営する立場として本当に光栄なことです。
▲滞在者を最初に迎え入れる、オークウッドのフロント
画像提供:アスコットジャパン
▲オークウッド大井町トラックス東京は、27㎡のスタジオから107㎡の3ベッドルームまで、全78室のレジデンスで構成
画像提供:アスコットジャパン
▲どの部屋も、居心地の良い空間が広がる
画像提供:アスコットジャパン
――1ヵ月(30泊)以上の長期滞在から利用可能とのことですが、どのような方々がターゲットなのでしょうか。
岩田:オークウッド全体の特徴として、利用者の約8割が法人契約の方々です。特に海外からいらっしゃる駐在員の方々が、日本に赴任して最初の滞在先として選ばれるケースが非常に多いですね。日本の賃貸住宅では保証人制度などがあるため、海外の方が契約を結ぶまでに時間がかかることが少なくありません。住みたいエリアが決まっていても、不動産手続きに何ヵ月も要することがあるのです。そのため、まずはオークウッドに入居し、そこを拠点に次の家を探すというステップを踏まれる方が多いですね。一方で、国内のマーケットで言えば、ご自宅の改装・リノベーション期間中(2〜3ヵ月)の仮住まいとしてご利用いただく、個人のお客様も大変増えています。
――国内と海外のお客様の割合はどのようになっていますか?
岩田:現在は約7割が外国籍のお客様です。大井町という土地柄、もう少し国内需要に寄るかとも予想していましたが、ふたを開けてみるとご予約の半数以上が海外の方からのものです。
これには「品川」というキーワードが大きく影響しています。大井町トラックスやウォーターズ竹芝、高輪ゲートウェイシティを含めた「広域品川圏」の開発により、海外における「Shinagawa」の認知度が劇的に向上しました。かつては港区ブランドが圧倒的でしたが、高輪ゲートウェイや大井町の再開発によって、日本の新たなハブとしての品川エリアのポテンシャルが世界的に評価され始めています。オークウッドとしても、その絶好のタイミングで大井町に参画できたことは非常に大きかったと感じています。
ハイエンドな滞在に求められるのは「至れり尽くせり」より「自分らしい生活」
――ここ数年で、長期滞在者や富裕層のレジデンスに対するニーズに変化は感じられますか?
岩田:コロナ禍を経て、ご自宅(滞在先)でリモートワークをされるスタイルが定着したことは、我々にとっても大きな転機でした。単なる居住空間ではなく、仕事に集中できるワークスペースが備わっていることが強く求められるようになりました。オークウッドは室内空間が充実しているため、コロナ禍においても稼働率が激減することなく、「部屋の中にいても安全と快適性が保たれる」という点が改めて評価されたと感じています。また、少子化の中でペットを家族として迎え入れる方が増えており、ペット同伴での滞在を受け入れている点も、時代のニーズにマッチしていると考えています。
――自室だけでなく、14階にあるラウンジなど「環境を変えて仕事ができる場所」があるのも魅力的ですね。
岩田:ずっと部屋の中にいると息が詰まることもありますからね。ちょっとした会議や気分転換ができる、ラウンジやミーティングスペースの存在は大きいです。開業日に最初にお迎えしたお客様も、ミーティングブースがあることに大変感動され、「ここをぜひ使いたい」とおっしゃっていました。
▲オークウッド大井町トラックス東京の14階ラウンジ
画像提供:アスコットジャパン
――富裕層が重視する「プライバシー」の観点からか、賑わう商業施設の中にありながら、入り口が奥まっていて分かりづらい動線になっているのが印象的です。これも意図的な設計なのでしょうか。
岩田:はい、これは開発を手掛けられたジェイアール東日本都市開発さんの見事な手腕だと思います。表側は商業施設や駅直結の動線で大変賑わっていますが、レジデンスのメインエントランスはあえて裏手に設け、表からは見えないように設計されています。 オークウッドのお客様はプライバシーを非常に重視されます。オートロックは当然ですが、この「喧騒から切り離された隠れ家のような入り口」に、皆さんとても感動されます。ご自身のプライバシーがしっかりと守られていることが可視化されている点は、長期滞在において極めて重要なポイントです。
▲駅の改札からほど近い場所にありながら、落ち着いた佇まいでプライバシーを確保したオークウッドのエントランス
画像提供:アスコットジャパン
――すべてをサービスしてもらう「至れり尽くせり」のホテル滞在から、適度な自立性を持った「生活っぽさ」を求める傾向は強まっているのでしょうか?
岩田:まさしくその通りです。私は長くホテル業界に身を置いてきましたが、ホテルに1年、2年と長期滞在されるお客様からのご要望で一番多かったのが「自分で洗濯がしたい」「たまには自分でご飯を作りたい」というお声でした。「自分のことは自分でしたい」という本質的な欲求に対し、100%フルキッチンや生活家電が備わっているオークウッドの空間は最適解と言えます。
日本では「サービスアパートメント」という概念自体がまだ新しいかもしれませんが、コロナ禍のワーケーション需要なども背景に、ホテルとも賃貸とも異なる新たな選択肢として、徐々に認知が広がってきています。
▲キングサイズベッドを備えた寝室。独立したシャワーとバスタブ付きバスルームも全室に設置されている
最先端とローカルの共存。大井町から描くブランドの未来図
――改めて、利用者の視点から見た「大井町」という立地の魅力やメリットについて教えてください。
浅場:最大の魅力は、やはり圧倒的な交通利便性です。アスコットグループは現在都内に多くの施設を展開していますが、これは東京へのニーズがそれだけ高いということの裏返しでもあります。その中でも大井町は、飛行機(羽田空港)や新幹線(品川駅)へのアクセスが抜群で、どこへ行くにも便利です。オークウッドのターゲット層であるグローバルなビジネスパーソンのニーズに、このアクセスの良さが合致していました。どのブランドで出店するかを検討した際も、この立地にはオークウッドが最適だという結論に、早い段階で至りました。
――先ほど「広域品川圏」というキーワードも出ましたが、まさに今、大井町は東京でも注目度の高いエリアですね。そこに商業施設と一体化した環境があるのは、利用者にとって大きなメリットだと感じます。
岩田:そうですね。施設内に直結のスーパーマーケットがあり、映画館やサウナまで揃っています。極端な話、この建物から一歩も出なくても豊かに完結できる環境です。りんかい線でダイレクトにお台場や舞浜方面へアクセスできるのも魅力ですね。
もう一つ強調したいのは、大井町という街が持つ「ローカルの魅力」です。これほどの大規模開発が行われると、観光客ばかりの街になってしまうことも少なくありません。しかし大井町は、駅の反対側を中心に古き良きローカルな風情が色濃く残っており、歩いているのも地元の方が多い。トラックス内の商業施設にも、地元ゆかりの飲食店が出店されるなど、街の文脈にしっかりと寄り添っています。この「最先端の利便性」と「ディープなローカル感」の共存こそが、大井町らしさであり、長期滞在のお客様にとってたまらない魅力になると感じています。
――最後に、日本におけるオークウッドブランドの今後の展開、そしてこの「オークウッド大井町トラックス東京」の展望についてお聞かせください。
浅場:オークウッドはもともと長期滞在を主軸として生まれたブランドであり、海外ではすでに確固たる地位を築いています。東京における12軒目のプロパティとして、都内でのポジショニングはかなり盤石なものになってきました。現在、国内のアスコットプロパティの約8割が東京に集中していますが、今後は日本の魅力的な地方都市やリゾートエリアへも、オークウッドが提案する「コンフォートな滞在体験」を広げていきたいと考えています。
これまでは「オークウッド=長期滞在」というイメージが強かったかもしれませんが、今後はホテル、リゾート、ブランデッドレジデンスなど、マーケットやゲストのニーズ、そしてオーナー様のご要望に合わせて、より多岐にわたる形態での展開を見据えています。
岩田:大井町の地元の方々にとっても、サービスアパートメントはまだ馴染みの薄い存在だと思います。今後は、同じ建物内にあるJR東日本のホテル「ホテルメトロポリタン大井町トラックス」とのコラボレーションが大きなテーマになります。短期の滞在はホテルで、その後「伸びゆく大井町での暮らし」に魅力を感じた方がサービスアパートメントへシフトしていくような、シームレスな連携ができればと考えています。この大井町の地から、国内のより多くの方々にオークウッドの魅力を発信していきたいですね。
▲岩田さんは「駅に直結した施設にオークウッドのブランドロゴが掲げられ、電車からも見えるというのは、ブランド認知拡大においても、非常に大きなインパクトがある」とも語る
取材・文:榎並紀行 撮影:ホリバトシタカ
WRITER
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami
おまけのQ&A
- Q.オークウッドでは家具を持ち込めたり、ペットを飼えたり、滞在する方の自由度を高くしている印象を受け、驚きました。
- A.岩田:好きな空間をつくれる環境は日常のコンフォートという意味でも、とても重要なポイントだと考えています。実際、家具を持ち込んでご自身らしい空間に整えるゲストから、インテリアや暮らし方を学ばせていただくことも少なくありません。また、週に一度の定期清掃以外は、ご自身でお部屋をきれいに保ちながら暮らされている方が多いですね。ペットと暮らしている方も、皆さんとてもきれいにお部屋を使われていますよ。
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