競売マンションは本当に安い?プロが教える購入の仕組みとリスク

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「競売なら安く買える」。そんなイメージから、住宅価格が高騰する中で競売マンションに関心を持つ方も少なくありません。しかし実際の競売は、引き渡しや占有者トラブル、残置物処理など、通常の売買とは異なるリスクを抱えた世界といえます。競売不動産を30年以上見続けてきたワイズ不動産投資顧問の山田純男さんに、競売市場の変遷から実態、盲点まで話を伺いました。

――まず、競売マンションとはどういうものか、一般の中古マンション売買との違いや、購入の流れについて教えてください。

 

山田純男さん(以下、山田):競売というのは住宅ローンなどの返済が滞った場合に、債権者の申し立てによって裁判所が物件を強制的に売り出す仕組みです。売主が協力しない状態で売られるため、代理人的な形で裁判所が売主になります。所有権移転登記は裁判所が行いますが、引き渡しは買受人自ら行う売買形態ですね。

 

 

――それが、一般の売買との大きな違いということですね。

 

山田:そうです。一般的な不動産売買では売主が鍵を渡してくれて、設備の説明もありますよね。しかし競売では、売られる立場の元の所有者が、競落した人(買受人)に協力的なはずがありません。記録に「空き家」と書いてあっても、競落して鍵を開けたら誰かが住んでいたり、残置物がやたらに多かったりするリスクがあります。

 

 

――競売物件でも住宅ローンは使えるようになっていると聞きますし、一般の方でも購入できる仕組みは整ってきていると聞きます。

 

山田:平成16年の民事執行法改正では、買受人が物件の引き渡しを受けやすくするため、引渡命令の適用範囲が広げられました。これにより、占有者問題のリスクが一定程度下がり、一般の方でも競売に参加しやすくなったのです。一例を挙げれば、会社名義のマンションにその従業員が住んでいる場合、それまでは「使用借権者」ということで「引渡命令」が取れませんでしたが、この改正によって引渡命令を取れるようになりました。

 

また、競落代金を銀行ローンで払える制度(民事執行法82条2項)ができ、銀行の抵当権設定登記が、競落人への所有権名義変更登記と同時に行えるようになりました。それまでは「横浜方式」と呼ばれ、横浜地裁が例外的に対処はしていましたが、法律で正式に可能にしたのでした。

 

ただし現実には、占有者が残っているような物件に銀行が融資を行うケースは少なく、資金面では自己資金を用意できる投資家が有利で、一般の方には依然として参入のハードルが高い市場だと思います。

山田純男さんプロフィール

▲山田純男さん。ワイズ不動産投資顧問 代表取締役。1957年生まれ。慶應大学経済学部卒業後、三井不動産販売、リクルートコスモスを経て現職。1993年より競売不動産のコンサルティングを開始。公認不動産コンサルティングマスター、行政書士、宅地建物取引士。著書に「競売不動産の教科書【改訂版】」がある。※所属先・肩書きは取材当時のもの

――競売マンションを購入する際、考えうるリスクやトラブルとして、どのようなものがありますか?

 

山田:まず「引き渡しがない」こと自体が、一般の方には想定外のリスクとなるでしょう。記録に空き家と書いてあっても、現場の鍵が閉まっていたら、勝手に壊して入るわけにはいきません。所有者に通知をし、管理会社立ち会いの上で鍵の技術者に開けてもらう必要があります。これは、一般的な不動産購入では考えられないような作業といえます。

 

 

――占有者が退去しないケースもあるのでしょうか?

 

山田:住まいに思い入れのある方が、明け渡しを拒むこともあります。競売にまで発展したとはいえ、やはり一度は自分で購入した住まいですからね。最終的には法的な強制執行ができますが、そこに至るまでに時間がかかります。すんなり鍵を手にできるケースの方が少ないと思った方が無難でしょう。

 

さらに厄介なのが、金銭目的の居座りや嫌がらせです。たとえば、第三者が勝手に電気契約の名義を変えて「我々が使用、占有している」と主張するケースです。こうした状況を利用して、立退きと引き換えに金銭を求められるトラブルもゼロではありません。一般の方には驚かれるかもしれませんが、競売の現場ではこうしたリスクが存在することも事実です。

 

 

――競売物件では、残置物の問題もあると聞きます。

 

山田:これも見落とされがちな点です。競落しても、室内の家具や金庫などの動産まで取得したことにはなりません。あくまで元の所有者のものですから、処理には強制執行の手続きが必要です。写真で記録し、旧所有者に通知した上で一定期間保管してから処分するなどの手順を踏まないと、訴訟リスクが生じます。一般の方には対応が難しい部分だと思います。

「競売物件では管理費の滞納も問題となりがち」だと山田さんは言う。買受人が支払う必要があり、中には滞納された管理費が1000万円にのぼったケースもあるそうだ

▲「競売物件では管理費の滞納も問題となりがち」だと山田さんは言う。買受人が支払う必要があり、中には滞納された管理費が1000万円にのぼったケースもあるそうだ

――「競売なら安く買える」というイメージもありますが、実際はどうでしょうか?

 

山田:成約事例だけ見れば、競売が安いケースは確かにあります。ただ、かつてのように市場価格の半値で買い、改装して2〜3割の利益を出せた時代とは異なります。現在は改装して売っても、利益は1割に満たないことも多いです。坪単価300万円の物件を260万円で購入できたとしても、修繕費などを考えると、リスクに見合うとは言い切れません。背景にあるのは不動産市場全体の物件不足で、一般の不動産業者も競売に積極的に参加するようになり、価格が上がっているのです。

 

 

――物件数自体も減っているのでしょうか?

 

山田:激減しています。バブル崩壊直後の1990年代前半頃と比べると、体感として東京では10分の1程度に減りました。競売物件が少ないのに参入する業者は増えたため、競争が激しくなって利幅も縮みます。伝統的に競売市場でビジネスを行ってきた会社もまだまだありますが、最近は皆、疲れてきている印象があります。

全国競売新規申立件数の推移

▲全国競売新規申立件数の推移を見ると、競売物件の数が大きく減ってきたのが分かる
データ提供:ワイズ不動産投資顧問

――入札の仕組みはどうなっていますか?

 

山田:競売の情報は原則としてすべて、BIT(ビット)という競売情報サイトで公開されており、物件情報や「3点セット」と呼ばれる資料(物件明細書、現況調査報告書、評価書)はどなたでも閲覧できます。ただ、権利関係や占有者の有無、どんなリスクがあるのかは自ら読み解かなければなりません。

 

入札価格も自分で決める必要があるため、物件の査定能力がないと高値で落札してしまうリスクがあります。特に売買事例が少ない物件は価値を判断しづらく、思い込みで高値をつけてしまいがちな点に注意したいところです。

 

 

――山田さんは、30年以上も競売市場を見続けてこられましたね。

 

山田:私はバブル崩壊の中で競売市場に参入しました。1990年代は今と異なり大型物件が豊富でした。不動産投資のデフォルトも多く、アパートやマンション1棟での競売、ビルもざら。当時、現金でガンガン競り落としていた会社は、大儲けしていましたね。

 

2008年に起こったリーマンショックの時は、平成バブル崩壊と比べればさざ波ほどのものでしたが、2009年頃に取得した物件がアベノミクスで2〜3倍になっているものが、弊社に今も残っています。現在の市場価格を大きく下回る水準で取得できたこともあり、現在も安定した利回りで稼働しています。競売市場は常に、その時代の日本の不動産市場の歪みを映してきたのかもしれません。

競売物件の数は減り続けてきたが、山田さんによると「東京圏(1都3県)における競落物件数は、2025年に2857件で前年比約11%増」。今後の競売対象物件数の行方に注目しているという

▲競売物件の数は減り続けてきたが、山田さんによると「東京圏(1都3県)における競落物件数は、2025年に2857件で前年比約11%増」。今後の競売対象物件数の行方に注目しているという

――最近の市場をどう見ていますか?

 

山田:2025年12月、三田ガーデンヒルズの競売事例が出て話題になりました。売却基準価格は5億2000万円でしたが、実際の落札価格は4億1800万円。裁判所が想定する価格より2割ほど低く、見方によっては相場より1億円近く安い水準です。分譲時と同等の坪単価1700万円程度でしたが、入札はほとんどありませんでした。

 

 

――なぜそうなったのでしょうか?

 

山田:とても話題になったマンションなので、分譲時に転売目的の買付が多すぎたのでしょう。私の予測では、3〜4割ほどがそうした購入だったのではないかと考えています。現在、不動産業者専用の物件情報データベースであるレインズには三田ガーデンヒルズの再販物件が130〜150件ほど出ており、坪単価3000万円といった強気の価格も多いですが、動きは鈍そうです。外国人富裕層も本国景気の影響でしょうか、一時より買いが弱く、彼らを当て込んだ転売業者も様子見になっています。そこに今回のような1億円以上安い競売実績が出ると、相場全体を押し下げる可能性があります。

 

 

――今後、こうした物件が増える可能性はありますか?

 

山田:今年は十分あり得ると思います。短期の転売融資で購入しているケースが多く、融資の更新ができなければ強制競売に陥る可能性があります。実際、周囲を見ても在庫を抱えて困っている業者は少なくありません。

 

ただ、これが一般のマンション市場に広がるかというと別問題でしょう。平成バブル後のような大きな崩壊にはならないと思います。坪単価300万円前後の実需で買える価格帯のマンションは、需給が大きく崩れて値崩れする状況にはならないと考えます。

山田さんによると、三田ガーデンヒルズの競売事例は、分譲当時の価格を下回ったと考えられるそう

▲山田さんによると、三田ガーデンヒルズの競売事例は、分譲当時の価格を下回ったと考えられるそう

――住宅価格が高騰する中、「競売なら自分でも手が届くかも」と考える一般の方もいると思います。そうした方へのアドバイスをお願いします。

 

山田:漠然と「この地域で探している」という程度なら、まずは一般の売買物件を見た方が安全ですし、比較もできます。競売で狙うなら、「このマンションを買いたい」と決めていた物件がたまたま競売に出たケースでしょう。建物の状況や相場感を掴みやすく、判断を誤りにくいからです。

 

自分が住んでいる賃貸が競売になった場合や、同じマンションの別の部屋が出た場合も同様で、管理状況や近隣環境を把握している分、リスクを見極めやすいと思います。

 

 

――専門家のサポートは必要でしょうか?

 

山田:サポートを受けるに越したことはありません。ホームページから相談にいらっしゃる方もいますが、多くはリスクを十分に把握できていません。「この物件にどんなリスクがあるのか」を専門家に見てもらうことは、とても重要です。占有者側から「現在は私が占有している」「占有事実を裁判所にも申し出ている」などの内容証明郵便が突然届いたり、第三者が勝手に電気契約をしていたりと、一般の方が想定しないことが起きる世界です。競売に挑戦するなら、まずはBITで物件情報や3点セットを確認し、判断に迷ったら専門家に相談することをおすすめします。

 

取材・文:小野悠史 撮影:石原麻里絵(fort)

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.競売市場が全盛期だった1990年代前半は、どんな雰囲気だったのですか?
A.山田:昔は月800件ほども競売があり、ネットもないものですから、物件情報を見るために裁判所がごった返していました。また、ホテルニュージャパンの跡地は、競売にかけても落札されないということが話題となりましたね。今から考えると信じられないようなスケールの話がざらにあった時代です。