首都圏マンション価格が6年ぶり下落。データと現場から読み解く「今後の価格推移」と選ぶべきエリア

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6年以上にわたって上昇を続けてきた首都圏中古マンションの成約㎡単価が、2026年5月、ついに下落に転じました。過熱していた市場が、正常化に向かい始めた兆しともいえる動きです。日銀による再びの利上げや資材価格の高騰など、マンション価格に影響しかねない事象も相次ぐなか、市場をどう読み解けばいいのでしょうか。不動産データを読み解くプロ、マンションリサーチの福嶋真司さんと、不動産売買における現場のプロ、長谷工リアルエステートの藤平大輔さんに、市場の今とこれからを聞きました。

――東日本不動産流通機構によれば、2026年5月、73ヵ月連続で上昇していた首都圏中古マンションの成約㎡単価が下落。6月も下落し、2ヵ月連続の下落となりました。一方で、東京都区部や埼玉県、千葉県、神奈川県の成約㎡単価は下がっていません。なぜ首都圏の成約㎡単価が下がったのでしょうか。

 

福嶋真司さん(以下、福嶋):首都圏中古マンションの成約㎡単価が下落に転じた主な理由は、東京都区部の成約割合が下がったことにあります。首都圏の中で成約㎡単価が顕著に高い東京都区部の前年比成約件数は、5月が-17.9%、6月が-12.8%。

 

対して、東京都多摩や埼玉県、神奈川県、千葉県は軒並み増加しています。また、東京都区部の成約㎡単価は下がっていませんが、これまで首都圏や東京都の価格上昇を牽引してきた都心3区や5区の成約単価は、5月・6月と2ヵ月連続で下落しています。

 

つまり、価格が高い東京都区部の成約割合が下がったこと。そして、価格がとりわけ高い都心部の成約単価が下がったこと。この2つの要因が重なり、首都圏全体の平均価格を押し下げたものと見られます。

 

都心5区では、2025年後半から中古マンションの値下げ回数が上昇傾向にありますが、販売日数は短くなるどころか長期化の傾向が見られます。これは湾岸エリアも同様です。

 

都心5区の中古マンションは、値下げ回数(オレンジ線)が増加しているものの、販売日数(青線)は短くなるどころか長期化している

▲都心5区の中古マンションは、値下げ回数(オレンジ線)が増加しているものの、販売日数(青線)は短くなるどころか長期化している
画像出典:マンションリサーチ

都心5区を除く23区の中古マンションも直近では値下げ回数・販売日数ともに伸長しているものの長期的には減少・短期化の傾向にある

▲都心5区を除く23区の中古マンションも直近では値下げ回数・販売日数ともに伸長しているものの長期的には減少・短期化の傾向にある
画像出典:マンションリサーチ

――藤平さん、現場の感覚としてはいかがでしょうか。

 

藤平大輔さん(以下、藤平):実態としても、福嶋さんのおっしゃるとおり、都心5区や湾岸エリアは飽和状態になっています。ただ、依然として売れるものは売れている状況です。

 

たとえば、広さがある部屋、眺望がいい部屋、角部屋など、他と比べて秀でた魅力がある物件は順当に売れています。売れないものについても、まったく売れないわけではなく、価格の調整が入ればしっかり売れていきます。

 

都心部のマンションが一様に売れなくなったのではなく、売れるものと売れないものがはっきりしてきたことに、過熱していた市場が正常化に向かい始めている兆しが表れているのかもしれません。

藤平大輔さんプロフィール

▲藤平大輔さん。長谷工リアルエステート流通営業部門営業2部長。2000年に同社に入社。城東エリアにおける新築住宅の受託販売に約10年間携わった後、仲介部門で城東エリアや豊洲などの店舗の店長を経て、部長に就任※所属先・肩書きは取材当時のもの

――上がり続けていた都心部の中古マンション価格が下がり始めた、あるいは過熱しすぎた部分が是正された理由は何でしょうか。

 

福嶋:まず大きな要因になっているのは、金利上昇だと思います。2024年にマイナス金利政策が解除されて以降、じわじわと金利が上昇してきましたが、政策金利が0.5%に上がるまで、湾岸エリアにおける中古マンションの値下げ回数および販売日数は下がり続けていました。顕著に増加し始めたのは、政策金利が0.75%に上がった2025年末以降です。

湾岸エリアの中古マンションは、政策金利が0.5%に引き上げられた頃を境に販売日数・値下げ回数が増加に転じ、0.75%への利上げ以降はさらに伸長している

▲湾岸エリアの中古マンションは、政策金利が0.5%に引き上げられた頃を境に販売日数・値下げ回数が増加に転じ、0.75%への利上げ以降はさらに伸長している
画像出典:マンションリサーチ

――価格調整が入り始めたマンションの特徴は?

 

福嶋:在庫の数が顕著に増えているのは、都心部のタワーマンションや大規模マンションが中心です。2025年後半までの数年間はいわゆる「転売ヤー」の動きも活発で、過去の成約事例に期待値を上乗せしながら価格が形成されるサイクルが続き、都心部のシンボリックなマンションの単価は異常なスピードで上昇していきました。しかし、今では中華圏の方の買い控えも重なり、在庫が積み上がっている状況です。

 

とはいえ、都心部における不動産の魅力が損なわれたわけではありませんから、価格が上がりすぎたマンションは敬遠されても、価格のバランスが取れた代替品を探すという動きは起こっています。ですから、藤平さんがおっしゃる「過熱しすぎていた部分の是正」というのは非常に正しい表現であり、一部の報道で見られるような「バブル崩壊」や「暴落」というわけではありません。

赤が2025年からの約1年半で在庫数が減ったマンション、青が在庫が増えたマンション、黄色が在庫数がほぼ変わらないマンションを指す。青のプロットは山手線内側の南部や湾岸エリアに集中している

▲赤が2025年からの約1年半で在庫数が減ったマンション、青が在庫が増えたマンション、黄色が在庫数がほぼ変わらないマンションを指す。青のプロットは山手線内側の南部や湾岸エリアに集中している
画像出典:マンションリサーチ

藤平:実際、価格調整が入った物件に多くの申し込みが殺到することもあります。今後も一定の調整は入るとしても、都心部の需要が消えることはなく、過熱しすぎて買えなかった層の「回帰」は一定あるでしょうね。

 

福嶋:一部の層が回帰することはあったとしても、やはり都心部は購入できる層が限られる市場であることに変わりありません。今後はますます郊外シフトが進んでいくことになるのではないでしょうか。

福嶋真司さんプロフィール

▲福嶋真司さん。マンションリサーチ データ事業開発室データ分析責任者。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当し、商業・住宅市場を中心に価格動向、需給構造、取引実態の分析に従事。現在はマンションリサーチ福嶋総研にて、不動産市場調査および評価指標の研究・開発を行うとともに、投資家および不動産事業者に対し、データに基づく事業戦略立案や投資判断の支援を行っている※所属先・肩書きは取材当時のもの

――都心のマンションから郊外へという需要のシフトは見られるのでしょうか。

 

藤平:買いたかったエリアから少し離れ、現実的に手が届く範囲で探す方は増えていますね。同じ価格帯でも、都心から少し離れれば駅近物件や、より広い物件も選択肢に入ってきますので、あえて都心を外すという方も見られます。

 

特に台東区や江東区など、城東エリアが選択肢に挙がるケースが増えたように思います。ただ、こうしたエリアもかなり価格帯が上がっていますから、今後は葛飾区や足立区などにも需要が流れていくのではないでしょうか。

 

福嶋:まさに都心部の中古マンションの在庫が増えている中、葛飾区・足立区・江戸川区の在庫数は顕著に減少しています。近年、首都圏の中古マンションの成約価格と在庫価格の乖離が大きく「ワニの口」のように広がっていますが、これは都心部の高価格帯の物件の動きが悪い一方で、実需中心のエリアはしっかりはけているからなんですよね。

 

都心部のマンション価格の高騰を受け、目黒区や品川区などの城南エリアが受け皿となっている節もありますが、城南もかなり価格が上がってしまいましたから、相対的に割安で、都心部へのアクセスが良い城東エリアに需要が流れつつあるのだと思います。

 

都心5区の中古マンションの在庫は軒並み上昇傾向に

▲都心5区の中古マンションの在庫は軒並み上昇傾向に
画像出典:マンションリサーチ

 

 

 

 

都心部の受け皿となった城南等のエリアの在庫数はほぼ横ばい

▲都心部の受け皿となった城南等のエリアの在庫数はほぼ横ばい
画像出典:マンションリサーチ

 

 

 

 

 

葛飾区・足立区・江戸川区では在庫物件が顕著に減少している

▲葛飾区・足立区・江戸川区では在庫物件が顕著に減少している
画像出典:マンションリサーチ

 

――城東エリアに需要が集まっている背景には、価格や都心へのアクセスの良さに加えて、再開発などによる街の変化や、今後の将来性も関係しているのでしょうか。

 

藤平:売り出されている物件自体はそこまで増えているようには見えないので、イーストエリアは主に買取再販業者が買っているような動きも現場では見受けられますね。おそらくこの先の需要を見越して買い取っているのではないでしょうか。

 

福嶋:買取再販業者は「先行投資」的に物件を買い取りますから、イーストエリアは将来的にますます価値が伸びていくかもしれませんね。

データが示す傾向と現場の肌感覚はほぼ一致

▲データが示す傾向と現場の肌感覚はほぼ一致

――6月に再びの利上げが決定しました。ほかにも、インフレやナフサショックなど不動産市場に影響するさまざまな事象が見られますが、今後の相場をどう読み、どう動いていけばいいのでしょうか。

 

福嶋:「在庫物件の推移」は、この先の市況を読む指標の一つになるのではないでしょうか。在庫物件の数は売り出された物件の数にもよるところですが、その「推移」は社会的な情勢不安などがなければやはり市況を映すものです。

 

藤平:ここ数年感じているのは、住まいの購入を検討する方の、検討期間の長期化です。都心部から離れれば離れるほど検討エリアは広くなりますし、住宅ローン商品も近年、多様化しています。金利がさらに上がり、不動産価格ももう一段上がるとなると、立地も資金計画もさらに選択肢が増えます。暮らしや働き方も多様化していますから、必ずしも都心部がベストという方ばかりではなくなってきています。選べる範囲が広い分、選ぶことが難しくなっているのが現状です。

 

 

――都心か郊外か、という二択ではなく、選択肢が多様化したことで、住む場所の選び方そのものが変わってきていると。そうした中で、住まい選びではどのような軸を持つといいでしょうか。

 

藤平:私は基本的に「プライオリティを重視してください」とお伝えするようにしています。立地や予算、間取りなど、重視することはさまざまでしょうが、たとえば「駅前にジムがある」という理由で住まいを選ぶ人もいますし「釣りができるから」「ゴルフができるから」という理由で郊外を選ぶ人もいます。選択肢が多いからこそ、まずはご自身が「どんな暮らしをしたいのか」を考えてみていただきたいですね。

 

私たち営業担当者は、これまで多くの方が住まいを購入する場面に立ち会ってきましたから「こんな暮らしがしたい」という希望だけを持って話を聞きに来ていただくのも面白いと思います。

初対面のお二人だったが、データのプロ・現場のプロとして互いの見立てに頷き合う場面も多く、対談は終始和やかに進んだ

▲初対面のお二人だったが、データのプロ・現場のプロとして互いの見立てに頷き合う場面も多く、対談は終始和やかに進んだ

 

 

取材・文:亀梨奈美 撮影:ホリバトシタカ

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WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.マンション価格の高騰を受けて、戸建てを選ぶ人も増えているのでしょうか?
A.藤平:戸建ての需要は明らかに上がっていますね。マンションを売って戸建てに住み替える方もかなり増えました。コロナ禍以降、戸建ての人気は高まっていましたが、やはり顕著に戸建てシフトが見られるようになったのは2025年後半頃から。戸建ての需要の高まりも城東が中心です。

福嶋:2026年6月までの1年間に東京都内で売り出された新築マンションの平均価格は約8,500万円。平均面積は59㎡です。対して、新築戸建ては平均価格が約7,000万円で、平均面積は100㎡を超えています。価値観やライフスタイルにもよるでしょうが、ファミリー世帯を中心に戸建ての需要が高まっているように思います。