新築マンション価格はなぜ下がらない? デベロッパー調査で判明した「高止まりの理由」と今後の供給傾向

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「マンション価格は、これからどう動くのか」。高値が続くマンション市場の先行きを考える上で、一つの手がかりとなるのが、実際にマンションを供給するデベロッパーが先行きをどう見通しているかです。MUFG不動産研究所は、マンションや戸建住宅を供給するデベロッパーに、販売状況や用地の仕入れ、今後の価格見通しなどを聞く「デベロッパー調査」を半期ごとに実施しています。市場全体が一様に上昇する段階から、エリア・物件ごとの選別が進む段階へ移りつつあるといいますが、調査からは市場におけるどのような変化の兆しと、デベロッパーの本音が読み取れるのでしょうか。舩窪芳和さんと東郷拓巳さんに話を聞きました。

――マンション市場の今後を考える上で、実際に物件を供給するデベロッパーが市場をどう見ているかは、重要な情報だと思います。「デベロッパー調査」は、一般的な市場統計では捉えにくい市場認識を総括したものと理解してよろしいでしょうか。

 

東郷拓巳さん(以下、東郷):はい。独自の指標として「マンションの売れ行き好調価格帯」を掲載しています。これは、デベロッパーの担当者が現場で「いま売れ行きが好調だ」と肌で感じている価格帯をレンジで答えてもらい、平均化したものです。デベロッパーのリアルな感覚が反映されていると思います。

 

今回の結果を一言でいえば、「概ね横ばい」。これまで、特に都心6区などを中心に上昇が続いてきましたが、今回は上昇に一服感が表れました。

東京23区の新築価格は上昇が続く中、都心6区の売れ行き好調価格帯は概ね横ばいで推移 画像提供:三菱UFJ信託銀行

▲東京23区の新築価格は上昇が続く中、都心6区の売れ行き好調価格帯は概ね横ばいで推移
画像提供:三菱UFJ信託銀行

――新築マンション価格は、依然として上昇しています。それにもかかわらず、現場が感じる「売れ筋価格」は伸びなくなったということですね。売り手が設定したい価格と、買い手がついてこられる価格の間に、ずれが生じ始めたと考えてよいのでしょうか。

 

舩窪芳和さん(以下、舩窪):そうした面はあると思います。デベロッパーは今、慎重になっています。建築費などのコストが上がった分を価格に乗せる、いわゆるコストプッシュ型の上昇は、しばらく続くと大筋では見込んでいます。

 

ただ、金利上昇を受けた販売環境の不透明さ、建築費そのものの上昇、事業期間の長期化といったリスクを肌で感じながら事業を進めています。昨年度と比べても、慎重さは一段と強まっています。

 

都心6区の売れ行き好調価格帯を見ると、当社の調査では平均値は横ばいからやや低下しました。一方、東京23区全体ではまだ上昇が続いています。市場全体が一様に動くのではなく、エリアによってデータの出方が変わり始めています。

 

 

――つまり、「都心であれば、いくら価格を上げても売れる」という状況ではなくなり、同じ都心でも物件の条件によって売れ行きに差がつく段階に入ったのでしょうか。

 

舩窪:そう見ています。都心であっても、駅から距離のある物件などでは販売が長期化し、苦戦する例が増え始めています。立地や商品性に対する買い手の選別が、以前より厳しくなっているということです。

 

 

――価格上昇が小休止しただけなのか、それとも市場の局面そのものが変わったのか。この点はどのように見ていますか。

 

舩窪:一時的な動きではなく、構造的な変化と見ています。中古市場でも価格は軟調に転じています。価格水準の上昇によって売り手と買い手の目線がずれてきたことに加え、金利上昇や短期転売に対する厳しい見方といった要因も重なっています。

 

新築価格が直ちに下落するという意味ではありません。ただ、コストをそのまま販売価格へ転嫁し続けられる市場ではなくなりつつあるということです。これまでのような全面的な価格上昇から、エリアや物件ごとの選別が進む局面へ移り始めたと考えています。

舩窪芳和さん、東郷拓巳さんプロフィール

▲(右から)舩窪芳和さん。三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 上級調査役・シニアリサーチャー。ニッセイアセットマネジメント、SMBC日興証券を経て、2020年から現職。分譲・賃貸マンションや分譲戸建など住宅市場を担当。東郷拓巳さん。三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 調査役・リサーチャー。官庁での勤務を経て2025年入社。デベロッパー調査などの市場動向調査を担当。※所属・肩書きは取材当時のもの

――なぜ在庫が増えても、新築価格はすぐには下がらないのでしょうか。

 

舩窪:新築マンションは、数年前に仕入れた土地に建築費を積み上げて価格を設定し、事業をスタートさせています。そのため、デベロッパーの財務健全性が高いなかで一様に値下げを行うことは考えにくいです。

 

 

――供給のためのコストが上がり続けている、最大の要因は何でしょうか。

 

舩窪:建築費です。RC造の施工床単価は、過去5年で8割程度も上昇しました。これがデベロッパーの供給行動を大きく変えています。

建築費は過去5年で8割程度上昇し、供給行動に大きな変化が生じている

▲建築費は過去5年で8割程度上昇し、供給行動に大きな変化が生じている
画像提供:三菱UFJ信託銀行

――建築費の上昇によって、デベロッパーの供給判断は具体的にどのように変わっているのでしょうか。

 

舩窪:ポイントは、建築費が上がった分を販売価格に転嫁できるエリアと、そうでないエリアが明確になってきたことです。

 

例えば、大きな視点の一つとして、都心と郊外の原価構成の違いがあります。都心では土地価格が高いため、もともとの販売価格も高く、建築費が上昇しても価格に転嫁できる余地があります。一方、郊外では、建築費の上昇分をそのまま価格に上乗せすると、地域の実需層から受け入れられにくくなります。

 

デベロッパーは「どこでも土地を仕入れて供給する」のではなく、価格を上げても購入者がついてこられるようなエリアを選んで仕入れるという判断を強めているのでしょう。

素地価格の高い都心から低い郊外に向かうにつれ、建築費の構成比が高くなる。JR中央線を例に、販売原価における用地取得費と建築費の比率を見ると、都心の四ツ谷では建築費が42%にとどまる一方、郊外の八王子では74%を占める

▲素地価格の高い都心から低い郊外に向かうにつれ、建築費の構成比が高くなる。JR中央線を例に、販売原価における用地取得費と建築費の比率を見ると、都心の四ツ谷では建築費が42%にとどまる一方、郊外の八王子では74%を占める
画像提供:三菱UFJ信託銀行

――建築費が上昇したことで、デベロッパー自身が「どこに供給するか」をこれまで以上に慎重に選ぶようになったわけですね。

 

舩窪:はい。エリアの「選別」が進んでいます。郊外・駅遠の仕入れについては、86%のデベロッパーが供給を減らそうとしています。

 

優先順位は郊外より都心、駅遠より駅近です。検討エリアを都心や駅近、あるいは利便性の高い特定の路線沿線に絞り込む動きが強まっています。

建築費の上昇を受け、郊外・駅遠では86%のデベロッパーが仕入れを減らそうとしている

▲建築費の上昇を受け、郊外・駅遠では86%のデベロッパーが仕入れを減らそうとしている
画像提供:三菱UFJ信託銀行

舩窪:特に興味深いのは、デベロッパーが仕入れるエリアを、かなり細かく選別するようになっていることが読み取れる点です。

 

都区部や交通利便性の高い路線が通るエリアと、それ以外のエリアとの差が、コロナ禍前よりも一段と鮮明になっています。デベロッパーの仕入れ判断そのものが、市場の変化を映すようになっていると考えています。

 

 

――注力するエリアが絞られる中で、供給する商品にも選別が起きているのでしょうか。その象徴がタワーマンションでしょうか。

 

舩窪:実際にタワーマンションの供給割合が上昇しています。2023年以降、東京23区で供給されるマンションの半数以上を、戸数ベースでタワーマンションが占めるようになり、2025年には62%に達しました。

 

タワーマンションは建築費がかさみますが、それでも購入者に受け入れられやすい傾向があります。いわゆる「タワープレミアム」です。コスト上昇分を価格に転嫁しやすい商品へ、供給の軸足が移っているわけです。

2025年には、東京23区で供給されるマンションの62%がタワーマンションとなった

▲2025年には、東京23区で供給されるマンションの62%がタワーマンションとなった
画像提供:三菱UFJ信託銀行(原データ:不動産経済研究所)

――デベロッパーが今最も警戒しているのは、価格が上がりすぎて売れなくなることなのでしょうか。それとも、建築コストそのものの上昇でしょうか。

 

舩窪:繰り返しにはなりますが、最も大きいのは「資材価格・労務費の上昇」です。デベロッパーは現在のマンション価格上昇を、需要が強すぎるというより、建築コストの上昇によるコストプッシュ型だと認識しています。

 

一方で、パワーカップルや富裕層による高額物件の購入が注目されるため、購入検討者には「旺盛な需要が価格を押し上げている」と映りやすくもあります。ここには認識のずれがあります。

 

 

――では、今最も価格上昇の影響を受けているのは、いわゆる富裕層というより、住宅ローンを使ってマンションを買う実需層なのでしょうか。

 

舩窪:そうです。特に共働き世帯への影響は大きいでしょう。新築マンションの主要な買い手は実需層です。首都圏の30・40歳代では、世帯年収1,000万円を超える共働き世帯が4割程度を占めています。

 

共働き世帯は時間的な余裕が少ないため、職住近接を重視する傾向も強く、都心や駅近マンションの需要を支えてきた層でもあります。

舩窪さんは「交通利便性の評価が継続的に高まっている」と話す

▲舩窪さんは「交通利便性の評価が継続的に高まっている」と話す

――その共働き世帯に、ここへ来て住宅ローン金利の上昇が重なっています。年収が高くても、以前と同じ価格の物件を買えるとは限らなくなってきたわけですね。

 

舩窪:はい。手元資金で購入する富裕層は、金利上昇の影響を直接的にはほとんど受けません。一方、住宅ローンを使う層は、金利が上がれば借入可能額が減り、購入できる価格の上限も下がります。

 

その結果、デベロッパーが「この価格でなければ採算が合わない」と考える水準と、実需層が「この価格までなら買える」という水準のずれが広がります。

 

 

――つまり、売り手はコスト高で値段を下げにくい一方で、買い手は金利上昇で予算を増やせないということですね。そこで膠着状態が起きていて、在庫の増加として表れ始めているのでしょうか。

 

舩窪:そう見ています。新築マンションの販売在庫は前年比で2割程度、都心の中古マンションの市中在庫は4割程度増えています。

 

新築ならデベロッパーと購入者、中古なら売り主と買い主の価格目線が合いにくくなっていることが、在庫の増加にはっきり表れています。

新築・中古ともに在庫は増加傾向にあり、取得者と供給者の価格目線のずれが顕著になっている

 

新築・中古ともに在庫は増加傾向にあり、取得者と供給者の価格目線のずれが顕著になっている

▲新築・中古ともに在庫は増加傾向にあり、取得者と供給者の価格目線のずれが顕著になっている
画像提供:三菱UFJ信託銀行(原データ:不動産経済研究所、東日本不動産流通機構)

――とはいえ、東京都心の高額マンションを見ると、富裕層や海外マネーが依然として価格を支えているようにも見えます。この需要はまだ強いのでしょうか。

 

舩窪:都心では、国内外の富裕層による資産形成目的の需要が引き続き目立ちます。金融市場の活況を背景に富裕層そのものが増えていますし、東京23区、特に都心部は国内だけでなく海外からの知名度も高いからです。

 

2025年7月調査では、外国人による取得について、デベロッパーは都心3区、千代田区・港区・渋谷区で約2割、それ以外の東京23区で1割強と認識していました。これを多いと思うか、それほどでもないと思うかは人それぞれです。

 

ただ、日本国内に生活基盤を持つ外国人も多く含まれると考えられます。「海外から投資目的で購入している外国人」だけを示す数字ではないことも重要だと思います。

 

 

――もう一つ、マンション価格を押し上げる要因として問題視されてきたのが短期転売です。

 

舩窪:短期転売に対する世論の目は厳しくなっており、行政や業界団体、デベロッパーも対策を進めています。

 

購入できる住戸数に上限を設ける、契約者と登記名義を厳格に確認する、引き渡し前の売却活動を禁止するといった取り組みも出ています。こうした対策もあり、投資や短期転売を目的とした層の動きは以前より鈍くなっています。

2026年4月に立ち上げたばかりだというMUFG不動産研究所。東郷さんは「不動産に関する情報を体系的に集め、企業の戦略立案に役立つ発信の強化を目的にしている」と話す

▲2026年4月に立ち上げたばかりだというMUFG不動産研究所。東郷さんは「不動産に関する情報を体系的に集め、企業の戦略立案に役立つ発信の強化を目的にしている」と話す

――マンション市場が転換点にあるかどうかを見極めるにあたり、注目している指標などはありますか。

 

舩窪:我々が注目しているのは、新築の売り出し価格ではなく、実際に取引が成立した「中古分譲マンションの成約価格」です。

 

新築マンションの売り出し価格では、買い手側の変化がすぐに表れません。一方、中古は個人間の取引が多く、購入者の予算やニーズの変化が成約価格に直接反映されやすいと考えます。

 

 

――実際、中古市場ではすでに変化が出ているのでしょうか。

 

舩窪:はい。上昇が続いてきた東京23区の中古分譲マンション価格は、2026年上期、1〜6月期に下落へ転じました。

 

さらに成約件数は、それより早い2025年上期から減少傾向にあります。市場の局面変化や価格調整は、新築より先に中古市場へ表れやすく、中古の成約価格を重視する理由はここにあります。

 

他には、政策金利(無担保コール翌日物金利)にも注目するべきでしょう。住宅取得者からの利用の多い変動金利型の住宅ローン金利に影響を与えることから注目に値すると考えます。

上昇が続いてきた東京23区の中古分譲マンション価格は、2026年上期に下落へ転じた

▲上昇が続いてきた東京23区の中古分譲マンション価格は、2026年上期に下落へ転じた
画像提供:三菱UFJ信託銀行(原データ:東日本不動産流通機構、国土交通省)

――では、これからマンションを買おうとしている人はどう考えればいいでしょうか。「相場が下がるまで待つ」という考え方もありますが、新築は簡単には値下がりしないというお話でした。

 

舩窪:新築マンションは、価格が下がりにくい状態が続くと思います。便利な立地でマンションに住みたいのであれば、新築だけでなく中古にも選択肢を広げることが有効です。

 

市場の局面が変わると、デベロッパーごと、あるいは中古の売り主ごとに値付けの差が出やすくなるからです。同じエリアの物件を横並びで比較することが重要で、エリアによっては、中古に割安感のある物件も見つけられるのではないでしょうか。市場の変化を、新築より早く捉えられる可能性があります。

「新築だけを検討している方であっても、中古マンションの成約価格や成約件数はウォッチしておくべき」と、舩窪さんは語る

▲「新築だけを検討している方であっても、中古マンションの成約価格や成約件数はウォッチしておくべき」と、舩窪さんは語る

 

 

取材・文:小野悠史 撮影:ホリバトシタカ

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WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.建築コストの上昇も大きな要因ではありますが、それ以外にも新築マンション価格が下がりにくい理由はあるのでしょうか。
A.舩窪:新築は、デベロッパーが数年前に仕入れた土地に建築費を積み上げて価格を決めますが、特にリーマン・ショック後は大手への集約が進み、各社とも体力があります。安売りせずに供給戸数を絞って販売期間を延ばしながら売り切る傾向があるため即座の値下げは稀で、価格が維持されやすいという理由もあるでしょう。