2003年04月17日
株式会社長谷工総合研究所(東京都港区)では、表題のレポートをまとめました。レポートの全文は、4月24日発行の『CRI』5月号に掲載いたします。
介護保険制度が始まって3年、利用者本位のサービス提供の仕組みが徐々に整備されつつある。高齢者住宅事業は、従来"介護不安の解消"を強調するものが多かったが、ここにきて"生きがい支援"や"ヘルスケア"などを重視、また住宅から介護施設への円滑・柔軟な住み替えを可能とするようなビジネスモデルの構築を図る事業者もあらわれ始めた。
本レポートでは、高齢者住宅をめぐる最近の新たなうねりを捉えるとともに、「住宅」と「ケア」の関係性から今後の事業の広がり方を予測、その可能性と課題について考察した。
- 拡大する高齢者住宅市場 ~介護保険制度施行後に急成長~
- 介護保険制度が施行されてから3年、企業やNPO法人など民間にも市場参入の門戸が広く開放され、介護ビジネスは着実に進展している。中でも「居住の場」を提供する高齢者住宅事業の拡大は顕著である。
- 「在宅重視」を掲げる介護保険だが、在宅サービスだけに頼って自宅に住み続けることに不安や不自由を感じる一方、特別養護老人ホームなどの介護施設には入れない(入りたくない)という人もいる。こうした高齢者層を中心に、自由な生活と一定の日常生活支援や介護サービスが保証され、しかも手頃な価格・利用料の高齢者住宅への入居を検討する人は増えており、高齢者住宅の供給を推し進める要因になっている。
- 変化する高齢者住宅事業 ~既存の事業分野にこだわらない新形態の高齢者住宅も登場~
- ここにきて、従来とは異なる事業手法で高齢者住宅事業に参入する事業者も出てきている。従来は有料老人ホームや痴呆性高齢者グループホームなどを単独で行う事業が大半だったが、最近では、(1)高齢者向け分譲マンション、(2)シニア住宅、(3)分譲マンションと有料老人ホームを組み合わせたもの、(4)シニア住宅と有料老人ホームを組み合わせたもの、(5)ニュータウンなど様々な形態が実践されるようになってきた。
- これら5タイプの中にはビジネスモデルとしてみても注目すべき事例がある。特徴は以下のとおりである。
- "老人ホーム"ではなく"住宅":「有料老人ホーム」は、その名称によるイメージから元気高齢者には敬遠されがち。"老人ホーム"でないことを強調するため、他の事業種類を選択する例が出てきている。
- 「介護ありき」で捉えない:要介護高齢者の介護ニーズのようには顕在化しにくいものの、健康や安心を求める元気高齢者・プレ高齢者のニーズも存在するはず。そうした高齢者に介護一辺倒ではない提案を行う例もある。
- ターゲットは"若い"高齢者:有料老人ホームでは、入居者の入居時平均年齢は自立型で約70歳、介護専用型で約82歳だが、新事例では、これらよりも若い人を想定していると思われるものもある。
- 融通のきく家族同居・近居:既存の高齢者住宅・施設は公民いずれの場合も、一方は元気で一方が要介護という身体状況の異なる夫婦等が同じ住戸(居室)で暮らせるものがほとんどない。また、子供との同居はおろか近居も現実には難しい。そのような不便を解消する高齢者住宅が実現しつつある。
- 柔軟な住み替えやサービス利用:分譲マンションもしくはシニア住宅と有料老人ホームなどを組み合わせることによって、元気な時は普通の住宅に住み、もし介護が必要になっても、住み慣れた地域・場所・建物内でスムーズに介護施設に住み替えたり、訪問介護などのサービスが受けられたりする高齢者住宅が出てきている。
- 複数企業がコンソーシアム組む:高齢者住宅事業には不動産開発に加えて様々なソフトサービスを提供するノウハウが必要だが、最近では異業種企業がコンソーシアムを組んで参入する例も出てきている。
- 「生活の場」の意味を考える~"よりよく生きる"ための環境づくりとして手がけることが重要
- 住み手である高齢者の立場で考えれば、特定の「住宅」と特定の「ケア」を固定化して融通がきかない仕組みより、住みたい住宅に住み、必要な時に必要なサービスが提供されるほうが効率的で費用も安く済み、満足度も高まるだろう。「住宅」と「ケア」を分離した上で、柔軟な組み合わせを実現する高齢者住宅の取り組みは、今後の潮流になると思われる。
- 高齢者住宅事業は、単に居住機能と介護サービスを合体させたものとして捉えるのではなく、高齢期に「よりよく生きる」ための総合的な環境づくりとして手がけることが不可欠である。

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